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風と共に去りぬ

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「だから、三嶋さんや他の人達にご挨拶せずにここを去ります。」


「そうか…

トモ、お前さんはええ女じゃな

最後までみんなの事を考えて…損な役を引き受けて…」


「そんな事ないわよ。
ワタシはただの淫乱ニューハーフよ。」

智は吉川の方を見て笑って言った。


「今までありがとうな」


「うん。ワタシも良ちゃんに出会えてよかったよ。

最後に、エッチする?」


「したい気持ちはすごくあるが、やめとくよ。

最後くらいはカッコつけさせてくれ

その代わりと言っちゃあ何だが、抱きしめてもええか?」


「うん」


智が近付くと、吉川はぎゅっと力強く抱きしめた。


「あれ…」


「どうした?トモ」


「なんでだろう…
涙が出てきちゃった」

智はそう言うと、吉川の胸で大泣きした。

吉川はそんな智の背中をポンポンと優しく叩いた。





組合事務所でしばらく泣き続けた智だったが、泣きすぎてようやく落ち着いたのか、吉川に最後の別れを告げて、家に戻ってきた。


明日にはここを去ってしまう智に対し、敦、由香里、恵太は、三者三様の感情を持ち、それぞれが話をしたいと考えていた。

智は先ず、恵太の部屋に行き、話をする事にした。


「恵ちゃん、あなたがここに来てくれて本当に助かったし、文句一つ言わずに畑仕事を頑張ってくれてありがとうね。」 

「ううん。
ワタシの方こそ、トモちゃんに出会えて本当に良かった。

明日、一緒について行きたいんだけど、18になるまで我慢するわ。」


「うん。
それまでは、ママとあっちゃんを支えてあげてね。」


「わかってる。
これからも農業を頑張ってママを支えていくつもりよ。」


恵太は無理して笑みを浮かべてそう答えた。


続いて由香里の元へ訪れた智は、今までの礼を述べ、伊東家の事を託した。

「智さん、本当にありがとうございます。
人生に生きる意味を教えていただいて…」


「いえ、こちらこそ…
敦さんをよろしくお願いします」


「はい。
精一杯頑張ります」


「由香里さんとワタシの男性の趣味が幸運にも合ったというか、価値観が同じだった事が嬉しくて、そして、ありがたく思っています。」


「ホントに。

智さん、またここに来てくれますか…」


「いえ、お二人には古いものを捨て去って、新しい人生を共に歩んで欲しいので、もうここに来ることもお会いする事もないです。

でも、由香里さんの事は、ワタシ、すごく好きなので、もし、偶然どこかで再会する事があったら、そのときは笑顔でハグさせていただきますよ。」

智はそう言って笑った。


「智さん…

今日くらいは敦さんと一緒のお部屋で寝て下さい。
私は大丈夫なので」


「いえ、彼とは前に沢山話し合いましたし…
このまま行かせてください。
彼もその辺の事はよく理解していると思います。」


その言葉の通り、智は敦とは敢えて話をせず、去り際に握手だけして笑顔で別れたのだった。
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