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第四章
第127話 グライアード
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「あれ、とは?」
「まあ、お楽しみにというところだ。まずはリントさんの機体にブースターをつけるところから始めよう。浮かせられないのが残念だけど、足回りは良くなるよ」
「ありがたい。半日待って夜に出発するとしよう」
リントがそう言ってカップをテーブルに置いた。コーヒーは三分の二ほど飲んでいて真司はまあまあかと肩を竦める。
「ディッター殿の機体もしっかりやっておくから城の方で待っておいてくれ」
「……承知した」
「少し、面白いことになると思うよ」
真司はディッターを指さしながらウインクをして笑う。ディッターもカップを置いてから何も言わずに部屋を後にした。
「やれやれ、礼の一つも無しかい? 彼等の不甲斐なさで魔兵機《ゾルダート》を失っている。その上、強化プランも施しているってのにさ」
「申し訳ありません。彼は少々プライドの高いところがありまして」
「リントさんが謝ることじゃないさ。コーヒーはお気に召さなかったようだし。では取り掛かるとしよう」
「では詰め所で待っていますので声をかけてください」
「分かった」
リントも部屋を出ていき、それを見送った後で真司も外へ。
機体が並ぶところまで行くと目つきの鋭い銀髪の男に声をかけられた。
「シンジ殿、どうだった?」
「ああ、快く受けてくれたよギノベル。あと、ディッター殿の機体にアレをつけることも決定だ」
「……彼の機体か。話によるとエトワールに敗走してきたらしいと聞いたけど」
「その通り。耳が早いなあ」
「ふん……当然だ。私はあらゆることに置いて妥協はしない」
ギノベルが鼻を鳴らしてそっぽを向く。年のころは20代前半で、真司とは年が離れている。
元々は魔法の研究をしていたが、その賢さを活かしたいと真司がスカウトした形だった。
「まあ、君のプライドとはちょっと違う感じで困るけどね」
「あんなのと一緒にするな! 私は間違ったことはきちんと謝るぞ」
「ははは、真面目だよなあ。最初に会った時は馬鹿にされたもんだけど」
「……異世界人など夢物語だと思っていたからな。しかし、シンジの知識は凄い。魔兵機《ゾルダート》という上辺のものではなく、本質がだ。この世界では後二百年は追いつかなかったろう」
プライドは高いが相手のことをよく観察して褒めるところは褒める。それがギノベルという男だった。不器用……というより、天才についていける者が少ないのである。
自身の知識を披露した際は冷や汗を掻きながら口をパクパクさせていたなと思い出し苦笑する。
「なにがおかしい」
「いや、なんでもない。助かっているよ」
「……まあ、いい。さっさと換装を済ませよう。ディッターにアレが使えるものかね」
「やってもらわねばな。奪われた魔兵機《ゾルダート》相手ならなんとかなるだろう。寝返った者がいるらしいから、操縦技術はどっこいってところだろうが」
「そういえばそうだったな。敗戦国に与するなど愚かなことを」
「……」
真司はその言葉を聞いて目を細める。
「(そう。そこだ。魔兵機《ゾルダート》が倒されることは、まあ、あってもおかしくはない。この世界基準で考えるなら破格な性能にできたのは一重に魔法のおかげだが無敵ってわけじゃないからな)」
バランサーはあるものの、棒立ちの状態では転ばされる可能性がある。岩で転ぶこともあるだろう。その時、コクピットを狙われたら面倒なことになるためそういう感じで狙われたなら負ける。
「(だが、王都を奪取したあと、部隊は散開して町に注意勧告をしていると聞いている。王都での戦いを見て、機体の弱点をつけるのを見つけたのであればよほど賢いヤツがいるということになるが――)」
真司はやけに対応が早いことを訝しんでいた。それと同時に裏切り者が出た、ということも。
「(それにギノベルの言う通り、敗戦国に味方するというのは中々難しい。グライアードの内情を知っているならこちらの戦力がどの程度居るのか分かっているからだ。なのに寝返った、というのはよほどのことがない限りあり得ない)」
推測でしかないが、もしグライアード側にも悪いところがあったのなら? そんなことを考えているとギノベルが声をかけてきた。
「どうしたのだシンジ殿?」
「いや、エトワール王国は一体なにをやらかしたのかってな」
「ああ、この戦争の理由か。陛下の指示らしいな。なにをやったかは色々あるのだろうと思う」
「エトワール王国が悪いってわけじゃないと? この国の貧しいのは向こうのせいあとザラーグドは言っていたが」
「まあ、その話自体は嘘ではない。豊かな土地があるにも関わらず、災害時には手助けをしてくれなかったなどあるからな」
「なるほどね」
完全な黒って訳じゃないが、エトワール王国との摩擦はあるということかと真司は納得する。
「命の恩人の頼みで作ったものの、あまり面白いもんじゃないからな戦争なんてのは」
「グライアード側が悪ならどうする?」
「そりゃお前、別の国にでも行くさ。ただの侵略なら手伝ってはやれないよ」
「フッ、シンジらしいな」
ギノベルが糾弾するわけではなく笑う。ある意味、平等という価値観があるため真司とは気が合っていたりする。
「すみません遅れましたー!」
「む、遅いぞオーラット。作業開始だ」
「なんでいつも偉そうなんですかね……!」
「休憩はとっくに終わっている。君が悪いのは明白だろう?」
「ぐぬぬ……」
「はっはっは、よせよせオーラット。ギノベルに口で勝てるわけないだろ。さ、仕事をするぞ」
真司が笑いながら全員に声をかける。渋々離れていくオーラットにギノベルが小声で話しかけた。
「……あの計画は進めるのか?」
「地上戦艦か……そうだな。少し様子見をしよう――」
地上戦艦。
真司は空を飛べない代わりに考えた案だった――
「まあ、お楽しみにというところだ。まずはリントさんの機体にブースターをつけるところから始めよう。浮かせられないのが残念だけど、足回りは良くなるよ」
「ありがたい。半日待って夜に出発するとしよう」
リントがそう言ってカップをテーブルに置いた。コーヒーは三分の二ほど飲んでいて真司はまあまあかと肩を竦める。
「ディッター殿の機体もしっかりやっておくから城の方で待っておいてくれ」
「……承知した」
「少し、面白いことになると思うよ」
真司はディッターを指さしながらウインクをして笑う。ディッターもカップを置いてから何も言わずに部屋を後にした。
「やれやれ、礼の一つも無しかい? 彼等の不甲斐なさで魔兵機《ゾルダート》を失っている。その上、強化プランも施しているってのにさ」
「申し訳ありません。彼は少々プライドの高いところがありまして」
「リントさんが謝ることじゃないさ。コーヒーはお気に召さなかったようだし。では取り掛かるとしよう」
「では詰め所で待っていますので声をかけてください」
「分かった」
リントも部屋を出ていき、それを見送った後で真司も外へ。
機体が並ぶところまで行くと目つきの鋭い銀髪の男に声をかけられた。
「シンジ殿、どうだった?」
「ああ、快く受けてくれたよギノベル。あと、ディッター殿の機体にアレをつけることも決定だ」
「……彼の機体か。話によるとエトワールに敗走してきたらしいと聞いたけど」
「その通り。耳が早いなあ」
「ふん……当然だ。私はあらゆることに置いて妥協はしない」
ギノベルが鼻を鳴らしてそっぽを向く。年のころは20代前半で、真司とは年が離れている。
元々は魔法の研究をしていたが、その賢さを活かしたいと真司がスカウトした形だった。
「まあ、君のプライドとはちょっと違う感じで困るけどね」
「あんなのと一緒にするな! 私は間違ったことはきちんと謝るぞ」
「ははは、真面目だよなあ。最初に会った時は馬鹿にされたもんだけど」
「……異世界人など夢物語だと思っていたからな。しかし、シンジの知識は凄い。魔兵機《ゾルダート》という上辺のものではなく、本質がだ。この世界では後二百年は追いつかなかったろう」
プライドは高いが相手のことをよく観察して褒めるところは褒める。それがギノベルという男だった。不器用……というより、天才についていける者が少ないのである。
自身の知識を披露した際は冷や汗を掻きながら口をパクパクさせていたなと思い出し苦笑する。
「なにがおかしい」
「いや、なんでもない。助かっているよ」
「……まあ、いい。さっさと換装を済ませよう。ディッターにアレが使えるものかね」
「やってもらわねばな。奪われた魔兵機《ゾルダート》相手ならなんとかなるだろう。寝返った者がいるらしいから、操縦技術はどっこいってところだろうが」
「そういえばそうだったな。敗戦国に与するなど愚かなことを」
「……」
真司はその言葉を聞いて目を細める。
「(そう。そこだ。魔兵機《ゾルダート》が倒されることは、まあ、あってもおかしくはない。この世界基準で考えるなら破格な性能にできたのは一重に魔法のおかげだが無敵ってわけじゃないからな)」
バランサーはあるものの、棒立ちの状態では転ばされる可能性がある。岩で転ぶこともあるだろう。その時、コクピットを狙われたら面倒なことになるためそういう感じで狙われたなら負ける。
「(だが、王都を奪取したあと、部隊は散開して町に注意勧告をしていると聞いている。王都での戦いを見て、機体の弱点をつけるのを見つけたのであればよほど賢いヤツがいるということになるが――)」
真司はやけに対応が早いことを訝しんでいた。それと同時に裏切り者が出た、ということも。
「(それにギノベルの言う通り、敗戦国に味方するというのは中々難しい。グライアードの内情を知っているならこちらの戦力がどの程度居るのか分かっているからだ。なのに寝返った、というのはよほどのことがない限りあり得ない)」
推測でしかないが、もしグライアード側にも悪いところがあったのなら? そんなことを考えているとギノベルが声をかけてきた。
「どうしたのだシンジ殿?」
「いや、エトワール王国は一体なにをやらかしたのかってな」
「ああ、この戦争の理由か。陛下の指示らしいな。なにをやったかは色々あるのだろうと思う」
「エトワール王国が悪いってわけじゃないと? この国の貧しいのは向こうのせいあとザラーグドは言っていたが」
「まあ、その話自体は嘘ではない。豊かな土地があるにも関わらず、災害時には手助けをしてくれなかったなどあるからな」
「なるほどね」
完全な黒って訳じゃないが、エトワール王国との摩擦はあるということかと真司は納得する。
「命の恩人の頼みで作ったものの、あまり面白いもんじゃないからな戦争なんてのは」
「グライアード側が悪ならどうする?」
「そりゃお前、別の国にでも行くさ。ただの侵略なら手伝ってはやれないよ」
「フッ、シンジらしいな」
ギノベルが糾弾するわけではなく笑う。ある意味、平等という価値観があるため真司とは気が合っていたりする。
「すみません遅れましたー!」
「む、遅いぞオーラット。作業開始だ」
「なんでいつも偉そうなんですかね……!」
「休憩はとっくに終わっている。君が悪いのは明白だろう?」
「ぐぬぬ……」
「はっはっは、よせよせオーラット。ギノベルに口で勝てるわけないだろ。さ、仕事をするぞ」
真司が笑いながら全員に声をかける。渋々離れていくオーラットにギノベルが小声で話しかけた。
「……あの計画は進めるのか?」
「地上戦艦か……そうだな。少し様子見をしよう――」
地上戦艦。
真司は空を飛べない代わりに考えた案だった――
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