129 / 146
第四章
第128話 出撃
しおりを挟む
「どうだった?」
「む、ザラーグド殿。ああ、受領は終わった。これから出撃だ」
「よろしく頼むぞ。エトワール王国の雑魚共を蹴散らしてこい。裏切者もな」
リントが部下を引き連れて魔兵機《ゾルダート》の待機場へと向かっていた。
そこへ宰相のザラーグドが現れて労いの言葉をかける。
「……? この戦争、ラグナニウムを手に入れるための戦いではありませんでしたか? 邪魔をする者を排除するというのは理解できますが、積極的に殺戮をすべきではないかと」
「……ふん、同じことだ。ラグナニウムを手に入れれば元気になる。そう陛下はおっしゃっていただろう」
「……そうですね。では私達はこれで」
敬礼をしてから部下と共に歩き出すリント。彼女を見送りながらザラーグドはひとり呟く。
「……真面目だが融通が利かんな。裏の目的を教えずに良かったかもしれん」
「あいつやトルコーイみたいなのは無理ですよ」
「ディッターか」
そこでディッターが現れザラーグドへと声をかける。チラリとディッターを見た後、リントが去っていった方向に再び視線を合わせて口を開く。
「……正直、お前やジョンビエルのような者がもう少し欲しいがな」
「知っているのはフレッサー将軍を含めてそれほど多くありませんからな」
「うむ。ラグナニウムを手に入れるのはもちろんだが、裏の目的は国を獲り私がそこに君臨すること。フレッサーは上手くやっているといいが」
「まあ、イレギュラーがあったとはいえ魔兵機《ゾルダート》を集めれば十分対抗できるでしょう。鉱石さえ集まれば数も増やせる」
ディッターが告げると、ザラーグドは訝しんだ顔で聞き返した。
「イレギュラー?」
「……裏切者などのことですよ」
「ああ……まあ、そのあたりの対処は任せる。というかお前も行くのか?」
「ええ、修理も終わりましたのでリント殿についていく形です」
「裏切者の居る場所にアテはあるのか?」
「まあ、私が撤退した町の位置から移動できる場所は限られています。ですが……」
「ん?」
含む言い方をしたディッターに違和感を感じたザラーグドが首を傾げる。
「姫を含む全員がヘルブスト国へ逃げ込んでいたら難しいでしょうな」
実際、あの後の足跡は掴めていない。仲間たちからもそういう連絡が来ていないため、逃げた可能性も考慮している。
リントにはディッターが見失った渓谷付近を地図で示唆してある。そこへ一緒に行こうという話で進めたのだ。
「そういうことか。確かにな。まあ、エトワール王国に居なければレジスタンスのような部隊も作れまい。その間にエトワール王国を手に入れる……時間か、私は陛下のところへ行く」
「承知しました。陛下によろしく言っておいてください」
「ああ」
そう言いながらお互いが別の歩き出した。ザラーグドはそのまま大きな扉の部屋へとやってきた。
「陛下……ザラーグドです」
「……どうぞ」
声の主は医者か。そう思いながら扉を開けると、ザラーグドは豪華な天幕のついたベッドへと近づいていく。
「どうかな?」
「良くも悪くも、というところでしょうか。日に日に具合が悪くなっている気がします」
「今だになんの病気かわからんのかね?」
「ええ……」
「いや、嫌味な言い方だったな。陛下、お労しい限りです……」
そう言いながら目を伏せてベッドの横にある椅子に座る。すると国王はうっすらと目を開けてザラーグドを見る。
「……」
「なにか?」
口を動かしているが、言葉にならないようでパクパクとするばかりだった。ザラーグドは酷く悲しい顔をして首を振ると手を握って言う。
「……まずはお体を治すことをお考え下さい」
「……!」
瞬間、国王の力が強まるのを感じる。そこで医師が力なく微笑みながら二人へ話しかけた。
「お二人はご友人だったと聞いています。私も尽力したいと思いますので、頑張りましょう」
「ええ」
手をそっとベッドに置き、椅子から立ち上がるとそのまま一礼をして廊下へ出る。
するとザラーグドはすっと真顔になり扉を一瞥した後、歩き出す。
「(まだ死んでもらっては困るからな……少し呪術の勢いを止めるか。フレッサーがラグナニウムを手に入れ、エトワール王国の王になったタイミングで陛下……いや、ドラッゲンを亡き者にすれば王子を戴冠させ、裏で私が操る……それで思う通りになるだろう)」
国王の欲しかったものはラグナニウム。
それは自身の身体を治すためだった。
そのためエトワール王国に依頼をしようとしたのだが、ザラーグドはそれを曲解させて『頼み込んだが出してくれなかった』と吹聴し戦争へ持ち込んだ。
国王ドラッゲンの病の正体。
それはザラーグドの雇った呪術士の呪いのせいだった。指針を決めたザラーグドは自分の屋敷へと戻る。
「サラン」
「ア、宰相サン。ドウ、国王サマは」
「まあ、変わらずだ。お前の呪いは凄いな」
「エヘヘ、拾っテクレタ、オレイだヨ? ワルイ王サマはコラシメチャオ」
「まだいいんだ。少し緩めてくれるか?」
「エー? ……ウン、宰相サンがソウ言うナラ……」
「ありがとうサラン。異国から売られてきたお前を助けたのは良かったよ」
「ウン!」
善人と言って差し支えないザラーグドに笑いかける褐色の少女の頭を撫でる。
「(シンジにサラン……この二人が居れば我が国は安泰だ。そしてこの私が王になる日も――)」
「む、ザラーグド殿。ああ、受領は終わった。これから出撃だ」
「よろしく頼むぞ。エトワール王国の雑魚共を蹴散らしてこい。裏切者もな」
リントが部下を引き連れて魔兵機《ゾルダート》の待機場へと向かっていた。
そこへ宰相のザラーグドが現れて労いの言葉をかける。
「……? この戦争、ラグナニウムを手に入れるための戦いではありませんでしたか? 邪魔をする者を排除するというのは理解できますが、積極的に殺戮をすべきではないかと」
「……ふん、同じことだ。ラグナニウムを手に入れれば元気になる。そう陛下はおっしゃっていただろう」
「……そうですね。では私達はこれで」
敬礼をしてから部下と共に歩き出すリント。彼女を見送りながらザラーグドはひとり呟く。
「……真面目だが融通が利かんな。裏の目的を教えずに良かったかもしれん」
「あいつやトルコーイみたいなのは無理ですよ」
「ディッターか」
そこでディッターが現れザラーグドへと声をかける。チラリとディッターを見た後、リントが去っていった方向に再び視線を合わせて口を開く。
「……正直、お前やジョンビエルのような者がもう少し欲しいがな」
「知っているのはフレッサー将軍を含めてそれほど多くありませんからな」
「うむ。ラグナニウムを手に入れるのはもちろんだが、裏の目的は国を獲り私がそこに君臨すること。フレッサーは上手くやっているといいが」
「まあ、イレギュラーがあったとはいえ魔兵機《ゾルダート》を集めれば十分対抗できるでしょう。鉱石さえ集まれば数も増やせる」
ディッターが告げると、ザラーグドは訝しんだ顔で聞き返した。
「イレギュラー?」
「……裏切者などのことですよ」
「ああ……まあ、そのあたりの対処は任せる。というかお前も行くのか?」
「ええ、修理も終わりましたのでリント殿についていく形です」
「裏切者の居る場所にアテはあるのか?」
「まあ、私が撤退した町の位置から移動できる場所は限られています。ですが……」
「ん?」
含む言い方をしたディッターに違和感を感じたザラーグドが首を傾げる。
「姫を含む全員がヘルブスト国へ逃げ込んでいたら難しいでしょうな」
実際、あの後の足跡は掴めていない。仲間たちからもそういう連絡が来ていないため、逃げた可能性も考慮している。
リントにはディッターが見失った渓谷付近を地図で示唆してある。そこへ一緒に行こうという話で進めたのだ。
「そういうことか。確かにな。まあ、エトワール王国に居なければレジスタンスのような部隊も作れまい。その間にエトワール王国を手に入れる……時間か、私は陛下のところへ行く」
「承知しました。陛下によろしく言っておいてください」
「ああ」
そう言いながらお互いが別の歩き出した。ザラーグドはそのまま大きな扉の部屋へとやってきた。
「陛下……ザラーグドです」
「……どうぞ」
声の主は医者か。そう思いながら扉を開けると、ザラーグドは豪華な天幕のついたベッドへと近づいていく。
「どうかな?」
「良くも悪くも、というところでしょうか。日に日に具合が悪くなっている気がします」
「今だになんの病気かわからんのかね?」
「ええ……」
「いや、嫌味な言い方だったな。陛下、お労しい限りです……」
そう言いながら目を伏せてベッドの横にある椅子に座る。すると国王はうっすらと目を開けてザラーグドを見る。
「……」
「なにか?」
口を動かしているが、言葉にならないようでパクパクとするばかりだった。ザラーグドは酷く悲しい顔をして首を振ると手を握って言う。
「……まずはお体を治すことをお考え下さい」
「……!」
瞬間、国王の力が強まるのを感じる。そこで医師が力なく微笑みながら二人へ話しかけた。
「お二人はご友人だったと聞いています。私も尽力したいと思いますので、頑張りましょう」
「ええ」
手をそっとベッドに置き、椅子から立ち上がるとそのまま一礼をして廊下へ出る。
するとザラーグドはすっと真顔になり扉を一瞥した後、歩き出す。
「(まだ死んでもらっては困るからな……少し呪術の勢いを止めるか。フレッサーがラグナニウムを手に入れ、エトワール王国の王になったタイミングで陛下……いや、ドラッゲンを亡き者にすれば王子を戴冠させ、裏で私が操る……それで思う通りになるだろう)」
国王の欲しかったものはラグナニウム。
それは自身の身体を治すためだった。
そのためエトワール王国に依頼をしようとしたのだが、ザラーグドはそれを曲解させて『頼み込んだが出してくれなかった』と吹聴し戦争へ持ち込んだ。
国王ドラッゲンの病の正体。
それはザラーグドの雇った呪術士の呪いのせいだった。指針を決めたザラーグドは自分の屋敷へと戻る。
「サラン」
「ア、宰相サン。ドウ、国王サマは」
「まあ、変わらずだ。お前の呪いは凄いな」
「エヘヘ、拾っテクレタ、オレイだヨ? ワルイ王サマはコラシメチャオ」
「まだいいんだ。少し緩めてくれるか?」
「エー? ……ウン、宰相サンがソウ言うナラ……」
「ありがとうサラン。異国から売られてきたお前を助けたのは良かったよ」
「ウン!」
善人と言って差し支えないザラーグドに笑いかける褐色の少女の頭を撫でる。
「(シンジにサラン……この二人が居れば我が国は安泰だ。そしてこの私が王になる日も――)」
10
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる