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第四章

第126話 真司

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「タカヤナギ様、リント・アクア到着しました」
「ああ、ご足労申し訳ないね」
「いえ、我等の戦力はあなたの力は本物です。そんなあなたのお呼び出しを無下にはできません」
「いやあ、真面目だねえリントさんは。で、そっちは……」
「ディッターだ」

 エトワール王国からグライアードに戻った二人は工場にある真司のアトリエにやってきた。
 そこでリントが挨拶をした。真司も挨拶を返しながらリント以外に誰かいるなと微笑みかける。
 そこでディッターが敬礼をすることで応答を得た。そうだった、と肩を竦めながら謝罪を口にする。

「それでご用件とは? この後、出撃任務が待っているのですが」

 ひとまずリントが用件について口にする。
 すると真司はカップを三つ用意しながらリントを見ずに返事をした。

「ああ、知っているよ。戦いの情報は逐一伺うようにしているんだ」
「ほう、どうしてまた?」

 ディッターが顎に手を当てて真司に問うと、彼はコーヒーを二人に差し出してから口を開いた。

「どうぞ。ちょっと苦いかもしれないけど」
「黒いお湯……?」
「なんだこれは……? お、苦い……」
「苦いのがダメなら砂糖を入れていいよ」

 真司がそう言ってシュガーポットを作業机に出すと、リントとディッターがどきりと動揺する。

「白い砂糖……貴重ですがよろしいので?」
「ああ、構わないよ。俺はそんなに使わないから」
「(貴族並みの待遇、か。まあ、確かに魔兵機《ゾルダート》を作った功績はでかいだろうな)」

 白砂糖は貴族に回ってくる高級な砂糖だ。
 ディッターがそれをあっさり出したことで真司の待遇具合を図っていた。

「では……これくらい。……にが……」
「ははは、コーヒーは苦い方がいいんだけどなあ」
「俺はスプーン一杯で良さそうだ」
「眠気が取れるから出撃前にいいぞ。……さて、リントさんが出撃をするのは聞いている。さらに件のエトワール王国の反撃にもあっているようだね?」
「ええ」
「私が生き証人というやつだ」

 ディッターが不満気に口を開くと、真司は『知っているよ』と肩を竦めた。そのまま話を続けると資料を広げた。

「これは……?」
「魔兵機《ゾルダート》の強化装備だ。相手に同じものがあるということは互角ということ。操縦自体はそれほど難しくないように作っているのがこの場合逆に作用する」
「回りくどいな」
「失礼。要するに奪われた機体と同じスペックで対抗するのはあまりよろしくない。戦争は相手に勝たねばならないのだ。隊長機は色々と手を加えているが、それでも量産機との差はそれほどない」

 だから量産機に手を加えたと真司が語る。リントとディッターが顔を見合わせてコーヒーを口につけていると真司はさらに続ける。

「まずはディッター機・ジズについている魔力ブースターを簡易だが量産した。あれほどの出力はないものの、通常の魔兵機《ゾルダート》に比べると25%ほど速度を上げることができた」
「それはいいな。とはいえ、私もあの渓谷でなければジグの性能を十全に活かせたはずだ」
「そこはジョンビエル殿に救援要請を受けた不運というところですな。隊長機はある程度特化したいという俺の希望と、それぞれの隊長が選んだ機体なので、上手く扱っていただければと」
「……」

 真司はそう言いながらディッターに笑いかける。正直なところ、エトワール王国に対抗しうる大型機を作ってそれを戦場に出せるようにした。
 だが蓋を開けてみれば歩兵しかいない相手に対して大幅有利を取らせているにも関わらず、敗北を喫した上に鹵獲された。
 真司はその事実をディッターに突き付けた形だ。
 本来はヴァイスにやられたので仕方が無いことなのだが、ディッターはそれを報告していないため苦い顔をしながらも口をつぐむ。

「(まあ、アレは私が倒す。ついでにこいつからなにかいただいておくとしようか)」
「反論は無いか。結構。で、奪われた魔兵機《ゾルダート》を上回る数か戦力を出すしかない。そこで急遽だが新造したってわけ」
「戦力が強化されるのはありがたいことです。しかし、奪われた数より多く持っていけばいいのでは?」

 リントが砂糖をもうひとさじ入れながら尋ねた。すると真司は小さく頷いてから資料に指を置く。

「残念だけど君たちに渡している以外の増産はまだ目途が立っていない。ザラーグド殿が人数分集まった時点で侵攻したからね。75機全部は出払っている。その内20は隊長機だから55機が配備されていた計算だ」
「なるほど……あそこにあるのはまだ使えないと」
「鉱石の数が足りないんだ。まあ、百機はなくとも十分勝てる数だと思うけどね? むしろエトワール王国側がよくやったと言えるのか」

 コーヒーを飲みほしてからリントに対してそう呟いた後、新しい装備について話を続ける。

「というわけで機動力の確保をするための装備を取り付けようと思う。なあに数時間あれば終わるからコーヒーを飲んで待っててくれ。呼んだのは使い方をその資料で見てもらうためさ。それを見てエトワール王国に行く時に実践してみればいい」
「わかりました」
「これも魔石と魔力で動かしているから魔力切れにならなければある程度はもつ。きれたら通常運行にすればいい」

 そう言って外に出ようとした真司をディッターが呼び止める。

「私も彼女に加勢したいと思うのだが、なにか無いか? 修復ついでに装備でもあれば助かるのだが」
「ふうむ、修理はそれほどかからないから装備か。足回りはジズに勝てる機体は無いし……あれを使ってもらうか?」
「?」

 いいことを思いついた。そんな顔でディッターにニヤリと笑う真司だった。
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