126 / 146
第四章
第125話 戦力
しおりを挟む
「ギャレット殿、魔石はこれくらいでいいですか?」
「ありがとう助かるよ」
「はーい! どいたどいたー!」
「おっと、今日も元気だなバスレーナ」
南北の町を解放して早一週間が経過した。
北にあるリリアの町は色々と不和を残したが、状況が悲しんでいる暇を与えてくれないというのが一番大きい。
「洗濯は一気にやりますから全部出しておいてと言ったでしょう!」
「す、すみません……!」
そんな中、鉱山で悪態をついていた男、ボルアの娘であるエラという子が拠点にやってきていた。彼女は暴漢にあった被害者の一人らしい。
彼女を襲ったグライアード兵はボルアが殺したので仇は取ったそうだ。しかし、エラは自分みたいな人間を増やさないため拠点に参加した。
炊事洗濯といった業務をこなしてくれている。しばらく泣いて過ごしていたそうだけど、今では騎士に怒るくらいには回復している。
……男は怖いみたいだけどな。
「リク殿、魔兵機《ゾルダート》は二機使えるようになりました」
「お、さすがに早いな」
「ええ。これで拠点の防衛はある程度できるかと。それぞれの町はトルコーイ殿とカン殿の部隊が持って来たもので十分かと」
「そうだな。なら次はビッダーとエトワールの騎士でアレを作っていくか」
エラのやり取りと遠巻きに見ていた俺に近づいてきたのはビッダーだった。俺の言葉に頷くとまた持ち場へと戻っていった。
ちなみに塹壕掘りとかまど場の作成である。塹壕は言わずもがな。
かまどはダコタファイアホールという煙の出にくい火の起こし方を教えたので、敵に見つかりにくくなるはずだ。
「色々と出来るようになってきたわね」
コクピットからみんなの作業の様子を見ながら、シャルが少し嬉しそうに口を開く。確かにその通りなのだが、そう楽観できる状況でもない。
「だけど、なるべく急がないといけない。北と南、両方にほぼ同時期で隊が来たということは他の部隊もそう遠くない時期に来てもおかしくない」
「そうね。カンとかトルコーイとは関係なく、さすがにそろそろディッターが報告を入れているだろうしね」
そう。
王都からここはかなり離れているし、潜伏先まではわからないと思うが、アウラ様とシャルが生き残っていること。
それとヴァイスというイレギュラーが存在していることまで伝わっているはずなのだ。
そうなると今までのように小規模編成ではなく、大部隊でネズミ捕りを敢行すると思う。というか俺ならそうする。
「正面からならリクが勝てるんだけどね」
「まあ、数によるだろうけど」
<装備さえあれば王都奪還も楽なのですがね。地上用でもいいので戦艦も欲しいところです>
「戦艦?」
「ああ、俺達の世界にある船だよ。こっちにも海に出る時は船だろ?」
「うん」
「それが地上や空を飛んだりするんだ。ヴァイスを載せて移動したりな」
「わ、凄いわね……どんだけ大きいのよ……」
シャルが呆れたようなことを言うが顔はワクワクしていた。資材と動力さえ確保できればってところだろうが……
<一応、設計だけは進めてみましょうか>
「そうだな。ま、期待しないでおくけど」
<ふふ、そうですね>
「よし、それじゃあたしはクレールで南の町へ行くわ。ガエインと合流する」
「ああ」
【クオォン】
通信機のテストも兼ねるとタブレットを持ったシャルが大きなキツネに乗って山を駆け出して行った。護衛もつけないで、と思うがあのキツネもかなり強いから、魔物もそうそう近づきはしないか。
「俺もできることをやるか」
<鉱山に行って魔石を持って帰りましょう>
まずはできることを。そう思いながら俺は鉱山に魔石を取りにいくのだった――
◆ ◇ ◆
「リント・アクア、出るのか?」
「ディッター殿か。ああ、あなたの隊を倒したというエトワール王国の軍勢討伐を任された」
グライアードの王都にて、通路を歩く女性騎士にディッターが声をかけた。
リントは元々グライアードで魔力通信具《マナリンク》の会話をしていたが、ディッターは自身の魔兵機《ゾルダート》の修理でグライアードに戻って来ていた。
リントは足を止めて壁に背を預けていた彼に返事をすると、ディッターが肩を竦めて彼女の前へやってくる。
「確かに君なら倒せるかもしれないな。ただ、裏切り者が居るから気を付けることだ。それにイレギュラーがあるかもな?」
「……ふむ。そういえば魔兵機《ゾルダート》が奪われたのだったな。まあ問題ないだろう」
「秘策でも?」
「あなたから聞いた情報が確かなら騎士の数はそれほど多くない。魔兵機《ゾルダート》で包囲しつつ騎士で確実に捕らえるつもりだ」
リントは被っている帽子のツバに指をかけてからにこりともせずに言う。自信アリと言ったところだった。
「英雄ガエインと手合わせできるのが楽しみだ」
「あれとか? ま、お手並み拝見と行かせてもらうか。……ん?」
対照的にへらへらとしながらそんなことを言うディッター。そこでなにかに気づく。
「ここに居たかリント殿。シンジ殿が新しい兵装を作ったということで技術局へ来て欲しいとのことだ」
宰相のザラーグドが通路の先から現れ、リントへそう告げる。
「新……? 新しい武器ということでしょうか?」
「それは直接聞いてみてくれ。確かに伝えたぞ」
首を傾げるリントを一瞥してからすぐにザラーグドはこの場を離れていく。
その背を見送りながら彼女は一言呟いた。
「急に慣れない兵装を持たされても逆に困るパターンもあるのだがな」
「ま、話だけでも聞いてみたらどうだ。折角だ、私も行こう」
「頼む」
「ありがとう助かるよ」
「はーい! どいたどいたー!」
「おっと、今日も元気だなバスレーナ」
南北の町を解放して早一週間が経過した。
北にあるリリアの町は色々と不和を残したが、状況が悲しんでいる暇を与えてくれないというのが一番大きい。
「洗濯は一気にやりますから全部出しておいてと言ったでしょう!」
「す、すみません……!」
そんな中、鉱山で悪態をついていた男、ボルアの娘であるエラという子が拠点にやってきていた。彼女は暴漢にあった被害者の一人らしい。
彼女を襲ったグライアード兵はボルアが殺したので仇は取ったそうだ。しかし、エラは自分みたいな人間を増やさないため拠点に参加した。
炊事洗濯といった業務をこなしてくれている。しばらく泣いて過ごしていたそうだけど、今では騎士に怒るくらいには回復している。
……男は怖いみたいだけどな。
「リク殿、魔兵機《ゾルダート》は二機使えるようになりました」
「お、さすがに早いな」
「ええ。これで拠点の防衛はある程度できるかと。それぞれの町はトルコーイ殿とカン殿の部隊が持って来たもので十分かと」
「そうだな。なら次はビッダーとエトワールの騎士でアレを作っていくか」
エラのやり取りと遠巻きに見ていた俺に近づいてきたのはビッダーだった。俺の言葉に頷くとまた持ち場へと戻っていった。
ちなみに塹壕掘りとかまど場の作成である。塹壕は言わずもがな。
かまどはダコタファイアホールという煙の出にくい火の起こし方を教えたので、敵に見つかりにくくなるはずだ。
「色々と出来るようになってきたわね」
コクピットからみんなの作業の様子を見ながら、シャルが少し嬉しそうに口を開く。確かにその通りなのだが、そう楽観できる状況でもない。
「だけど、なるべく急がないといけない。北と南、両方にほぼ同時期で隊が来たということは他の部隊もそう遠くない時期に来てもおかしくない」
「そうね。カンとかトルコーイとは関係なく、さすがにそろそろディッターが報告を入れているだろうしね」
そう。
王都からここはかなり離れているし、潜伏先まではわからないと思うが、アウラ様とシャルが生き残っていること。
それとヴァイスというイレギュラーが存在していることまで伝わっているはずなのだ。
そうなると今までのように小規模編成ではなく、大部隊でネズミ捕りを敢行すると思う。というか俺ならそうする。
「正面からならリクが勝てるんだけどね」
「まあ、数によるだろうけど」
<装備さえあれば王都奪還も楽なのですがね。地上用でもいいので戦艦も欲しいところです>
「戦艦?」
「ああ、俺達の世界にある船だよ。こっちにも海に出る時は船だろ?」
「うん」
「それが地上や空を飛んだりするんだ。ヴァイスを載せて移動したりな」
「わ、凄いわね……どんだけ大きいのよ……」
シャルが呆れたようなことを言うが顔はワクワクしていた。資材と動力さえ確保できればってところだろうが……
<一応、設計だけは進めてみましょうか>
「そうだな。ま、期待しないでおくけど」
<ふふ、そうですね>
「よし、それじゃあたしはクレールで南の町へ行くわ。ガエインと合流する」
「ああ」
【クオォン】
通信機のテストも兼ねるとタブレットを持ったシャルが大きなキツネに乗って山を駆け出して行った。護衛もつけないで、と思うがあのキツネもかなり強いから、魔物もそうそう近づきはしないか。
「俺もできることをやるか」
<鉱山に行って魔石を持って帰りましょう>
まずはできることを。そう思いながら俺は鉱山に魔石を取りにいくのだった――
◆ ◇ ◆
「リント・アクア、出るのか?」
「ディッター殿か。ああ、あなたの隊を倒したというエトワール王国の軍勢討伐を任された」
グライアードの王都にて、通路を歩く女性騎士にディッターが声をかけた。
リントは元々グライアードで魔力通信具《マナリンク》の会話をしていたが、ディッターは自身の魔兵機《ゾルダート》の修理でグライアードに戻って来ていた。
リントは足を止めて壁に背を預けていた彼に返事をすると、ディッターが肩を竦めて彼女の前へやってくる。
「確かに君なら倒せるかもしれないな。ただ、裏切り者が居るから気を付けることだ。それにイレギュラーがあるかもな?」
「……ふむ。そういえば魔兵機《ゾルダート》が奪われたのだったな。まあ問題ないだろう」
「秘策でも?」
「あなたから聞いた情報が確かなら騎士の数はそれほど多くない。魔兵機《ゾルダート》で包囲しつつ騎士で確実に捕らえるつもりだ」
リントは被っている帽子のツバに指をかけてからにこりともせずに言う。自信アリと言ったところだった。
「英雄ガエインと手合わせできるのが楽しみだ」
「あれとか? ま、お手並み拝見と行かせてもらうか。……ん?」
対照的にへらへらとしながらそんなことを言うディッター。そこでなにかに気づく。
「ここに居たかリント殿。シンジ殿が新しい兵装を作ったということで技術局へ来て欲しいとのことだ」
宰相のザラーグドが通路の先から現れ、リントへそう告げる。
「新……? 新しい武器ということでしょうか?」
「それは直接聞いてみてくれ。確かに伝えたぞ」
首を傾げるリントを一瞥してからすぐにザラーグドはこの場を離れていく。
その背を見送りながら彼女は一言呟いた。
「急に慣れない兵装を持たされても逆に困るパターンもあるのだがな」
「ま、話だけでも聞いてみたらどうだ。折角だ、私も行こう」
「頼む」
10
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
スキルを極めろ!
アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作
何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める!
神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。
不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。
異世界でジンとして生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる