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第三章
第89話 イラス
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「やっぱり目ぼしいものは残ってないわね」
「そ、そうなんですか……?」
「そうか、お主は馴染みがないか。冒険者というのは朝早く依頼を受けて夕方までには帰ってくるのが基本的な生活になる」
掲示板に移動したあたしが張り紙を見て唸っていると、イラスがおずおずと尋ねてきた。その答えは師匠がしてくれたのだけど、朝はここが戦場になるくらいは依頼者が殺到するのよね。
「怖いです……でも、朝じゃなくて少しずつ掲示すればいいのでは……?」
「気持ちは分かるけど、依頼は色々な人から来るからね。朝の依頼と昼の依頼で、報酬が段違いだったら不満が出るでしょ? だから一律同じ時間スタートなのよ」
「金が無い時は泊まり込みで掲示板の近くで張って追い出されたことを思い出すわい」
「ええー……」
「懐かしい話ですわね」
「シャル様が壊れました……」
イラスが呆れた声を出しながらあたし達を見てくる。ちなみに夜にしか出ない魔物討伐を除いて、夕方までに戻るのが一般的だ。
夜は魔物が活発になるから準備をしていないと思わぬケガをすることがあるからね。
……師匠の言っているギルドに泊まり込みはあたしがお財布を落として懐事情がまずい時の話なのでつい誤魔化してしまった。
「コホン。それはともかく、昼も近いこの状況でいい依頼が無いのは当然ってわけ。この中からまともなのを見つけるんだけど……」
「なんか草むしりみたいなのとかキノコ採取が多いです。平和……」
「その分、金も少ないがな。ふむ、グロースホーネットが残っているな。確かに面倒くさい相手だからな」
「レッドアイも残っているけど一頭でいいのね。あんまりお金にならないかなあ」
グロースホーネットは山に行く途中にも戦った魔物で、空を飛ぶため面倒というのは間違いない。レッドアイは鹿の魔物で脚力と角の一撃が重い。
金額的にはそれほど変わらないけど、依頼者が村の人ってことを考えるとグロースホーネットかな? そう思っていると、イラスが端にある紙を見て口を開く。
「こっちにもありますよ?」
「あー」
イラスの指した先には依頼を受けてもらえなかったものがズラリと並んでいた。こういう依頼は停滞依頼と言って、誰かが受けてくれるのを待っているもの
だったりする。
「難しかったり、該当する魔物が見つからなかったりとか大変なものばかりだからずっと残っているやつじゃな」
「へえ……あ、これ……」
「なにかあった?」
イラスがそっちに興味があると、停滞依頼をみてポツリと呟く。手にしている紙を覗き込むとそこには『グラップルフォックス』の討伐と書いてあった。
そこそこ強い魔物で、毛皮は人気だけど群れで行動しないため見つけにくい。
「それかい? 狡猾な個体が数年前から東の森に住んでいるんだ。人間の狩った魔物や動物をかっさらったりするし、村の人間が襲われて大怪我をしたなんてのもある」
「それは大変ですね……シャル様、これにしませんか……?」
「え? そりゃいいけど見つからない可能性が高いわよ? 何年も逃げているし」
「そ、そうなんですけど! 子供が襲われたりしたら危ないじゃないですか……」
拳を握ってそう力説するイラスは可愛い。機体に乗ったら豹変するのが驚きよね。
そう思いながら少し考えて答える。
「ふむ、ならそれにしましょうか。東の森って情報があるなら探しようもあるし」
「あ、い、いいんですか……?」
「ま、いいじゃろ。どうせそれほど金にならんものが多いしのう。達成条件は倒した個体を持ってくる、か」
師匠も背後で頷いてそんなことを言う。
「なら決定ね! お兄さん、これちょっと行ってくるわ」
「マジか……!? いや、依頼だから構わないけど、見つからないぜ?」
「ま、そこはなんとかするわ。それじゃ報酬よろしくねー」
「え、あの嬢ちゃん達グラップルフォックスを選んだのか!?」
「はは、無理無理。急に来た冒険者がクリアできる依頼じゃあねえ」
「フッ、自信があるのはいいことだけどねえ?」
張り紙をお兄さんに手渡してからあたし達はギルドを後にする。さっきのナンパ男を含む数人の冒険者が笑っていた。
ま、成功しても失敗してもそれはあたし達の成果。なので他の人間が好きに色々言っていても気にならないのよね。
「馬車は入りにくいから徒歩がいいぞ。陽が暮れる前に戻りなよー」
「ありがと」
受付のお兄さんはそんな声をかけてくれた。あの人はギルドの人だけあって冒険者のことを考えているわね。
「では馬は置いていくか」
「宿の厩舎に居るから大人しいでしょ?」
「ふう……ドキドキします……」
そんな話をしながら門番へ話を通して外へ出ると、そのまま東の森へと向かう。
伸びた道の両脇は草原で、その先に森が見えていた。
「案外近いわね」
「狩り場の近くに町をこさえるのは当然じゃからな。そのための外壁じゃ」
「あ、そうなんですね……」
「あんた、世間知らずよねえ。ま、あたし達に着いてきたらその性格も治るかもね?」
そんな調子で三人揃って歩いて行く。荷物はリュックに入っているので問題ない。
そういえばお昼を食べそこなったわね。
「お昼はどうする?」
「適当に魔物を狩ってもいいかもしれんのう。餌にできるかもしれんし、まずはそこを目指すか」
「わ、ワイルドですねえ……」
イラスが愛想笑いをしながらそう口にしていた。やがてあたし達は森へ足を踏み入れる――
「そ、そうなんですか……?」
「そうか、お主は馴染みがないか。冒険者というのは朝早く依頼を受けて夕方までには帰ってくるのが基本的な生活になる」
掲示板に移動したあたしが張り紙を見て唸っていると、イラスがおずおずと尋ねてきた。その答えは師匠がしてくれたのだけど、朝はここが戦場になるくらいは依頼者が殺到するのよね。
「怖いです……でも、朝じゃなくて少しずつ掲示すればいいのでは……?」
「気持ちは分かるけど、依頼は色々な人から来るからね。朝の依頼と昼の依頼で、報酬が段違いだったら不満が出るでしょ? だから一律同じ時間スタートなのよ」
「金が無い時は泊まり込みで掲示板の近くで張って追い出されたことを思い出すわい」
「ええー……」
「懐かしい話ですわね」
「シャル様が壊れました……」
イラスが呆れた声を出しながらあたし達を見てくる。ちなみに夜にしか出ない魔物討伐を除いて、夕方までに戻るのが一般的だ。
夜は魔物が活発になるから準備をしていないと思わぬケガをすることがあるからね。
……師匠の言っているギルドに泊まり込みはあたしがお財布を落として懐事情がまずい時の話なのでつい誤魔化してしまった。
「コホン。それはともかく、昼も近いこの状況でいい依頼が無いのは当然ってわけ。この中からまともなのを見つけるんだけど……」
「なんか草むしりみたいなのとかキノコ採取が多いです。平和……」
「その分、金も少ないがな。ふむ、グロースホーネットが残っているな。確かに面倒くさい相手だからな」
「レッドアイも残っているけど一頭でいいのね。あんまりお金にならないかなあ」
グロースホーネットは山に行く途中にも戦った魔物で、空を飛ぶため面倒というのは間違いない。レッドアイは鹿の魔物で脚力と角の一撃が重い。
金額的にはそれほど変わらないけど、依頼者が村の人ってことを考えるとグロースホーネットかな? そう思っていると、イラスが端にある紙を見て口を開く。
「こっちにもありますよ?」
「あー」
イラスの指した先には依頼を受けてもらえなかったものがズラリと並んでいた。こういう依頼は停滞依頼と言って、誰かが受けてくれるのを待っているもの
だったりする。
「難しかったり、該当する魔物が見つからなかったりとか大変なものばかりだからずっと残っているやつじゃな」
「へえ……あ、これ……」
「なにかあった?」
イラスがそっちに興味があると、停滞依頼をみてポツリと呟く。手にしている紙を覗き込むとそこには『グラップルフォックス』の討伐と書いてあった。
そこそこ強い魔物で、毛皮は人気だけど群れで行動しないため見つけにくい。
「それかい? 狡猾な個体が数年前から東の森に住んでいるんだ。人間の狩った魔物や動物をかっさらったりするし、村の人間が襲われて大怪我をしたなんてのもある」
「それは大変ですね……シャル様、これにしませんか……?」
「え? そりゃいいけど見つからない可能性が高いわよ? 何年も逃げているし」
「そ、そうなんですけど! 子供が襲われたりしたら危ないじゃないですか……」
拳を握ってそう力説するイラスは可愛い。機体に乗ったら豹変するのが驚きよね。
そう思いながら少し考えて答える。
「ふむ、ならそれにしましょうか。東の森って情報があるなら探しようもあるし」
「あ、い、いいんですか……?」
「ま、いいじゃろ。どうせそれほど金にならんものが多いしのう。達成条件は倒した個体を持ってくる、か」
師匠も背後で頷いてそんなことを言う。
「なら決定ね! お兄さん、これちょっと行ってくるわ」
「マジか……!? いや、依頼だから構わないけど、見つからないぜ?」
「ま、そこはなんとかするわ。それじゃ報酬よろしくねー」
「え、あの嬢ちゃん達グラップルフォックスを選んだのか!?」
「はは、無理無理。急に来た冒険者がクリアできる依頼じゃあねえ」
「フッ、自信があるのはいいことだけどねえ?」
張り紙をお兄さんに手渡してからあたし達はギルドを後にする。さっきのナンパ男を含む数人の冒険者が笑っていた。
ま、成功しても失敗してもそれはあたし達の成果。なので他の人間が好きに色々言っていても気にならないのよね。
「馬車は入りにくいから徒歩がいいぞ。陽が暮れる前に戻りなよー」
「ありがと」
受付のお兄さんはそんな声をかけてくれた。あの人はギルドの人だけあって冒険者のことを考えているわね。
「では馬は置いていくか」
「宿の厩舎に居るから大人しいでしょ?」
「ふう……ドキドキします……」
そんな話をしながら門番へ話を通して外へ出ると、そのまま東の森へと向かう。
伸びた道の両脇は草原で、その先に森が見えていた。
「案外近いわね」
「狩り場の近くに町をこさえるのは当然じゃからな。そのための外壁じゃ」
「あ、そうなんですね……」
「あんた、世間知らずよねえ。ま、あたし達に着いてきたらその性格も治るかもね?」
そんな調子で三人揃って歩いて行く。荷物はリュックに入っているので問題ない。
そういえばお昼を食べそこなったわね。
「お昼はどうする?」
「適当に魔物を狩ってもいいかもしれんのう。餌にできるかもしれんし、まずはそこを目指すか」
「わ、ワイルドですねえ……」
イラスが愛想笑いをしながらそう口にしていた。やがてあたし達は森へ足を踏み入れる――
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