上 下
89 / 146
第三章

第88話 視察

しおりを挟む
「爺さんに女の子二人か。冒険者?」
「ああ。依頼をしながら旅をしておる。この二人も強いぞい」
「ふうん。盗賊とかに襲われたら怖くないかね? つかその黒メガネ、イカスじゃねえか。通っていいぞ」
「ふふん、ナウいじゃろ?」
「ありがと」
「おう。ホドへようこそお嬢さんがた!」

 町へやってきたあたし達は早速中へ入る手続きを終えた。ホドの町というらしい。
 門番の緊張感の無さからグライアードがここまで来ているということはないみたいね。

「……この辺りはまだ王都から遠いですし、各町を襲撃をしているということであれば手が及んでいないのかもしれません……」

 イラスがあたしに小声でそう話す。
 ここから王都まで数十日はかかる道のりで、その間に町や村はいくつも存在する。さらに南には広大な森林地帯も存在するので魔兵機《ゾルダート》には足かせになると思う。
 だからそれを確実に侵略しようものなら時間がいくらあっても足りない。

「ジョンビエルってやつとディッターはかなり速いペースだった感じがするわね」
「ディッター殿はジョンビエルに頼まれて合流しただけなので、本来のルートとは外れていたんです……」
「なるほど。ではあれだけの機体を運用していたのはたまたまということか」
「そうなります……」

 拠点が出来て考える余裕ができてきたので、こういう話ができるのは大きい。
 周囲に気を配りながらあたしはイラスへ尋ねてみる。

「……基本的な一部隊の戦力ってどれくらいなの?」
「えっと、魔兵機《ゾルダート》が二機から三機と騎士が二十名程度、です……」
「嘘じゃないわね?」
「う、嘘じゃないです……! 殺してぇぇぇ……」
「うるさい」
「痛い……」

 ごろごろと転がるイラスを軽く小突いてから御者台に顔を出す。今までの戦闘を思い出すと確かに魔兵機《ゾルダート》は一機でも十分な脅威になるわ。
 外壁を壊されれば後は騎士が……という想定はできるけど、冒険者はエトワール王国の人間だけじゃない。
 クレイブの町ではグライアードに逃げようとした奴も居たけど、勧告無しで襲撃された場合、冒険者の反感を買うはずなんだけど。
 ソウとクレイブの町には依頼でそれほど冒険者が残っていなかったのと、あの場でいつの間にか居なくなった人もいる。もちろん町からここまでついてきている人もいるのよね。

「師匠、ひとまず馬車を宿に止めて町を歩かない?」
「そうしよう」
「あうう……敵地……」

 宿を見つけてチェックインを済ませた後、しなしなになっているイラスを荷台から引きずり出して町の散策へと移る。

「規模的にはソウの町と同じくらいの大きさかしら」
「じゃのう。できればここは死守して、拠点との連絡・補給線として使いたい」
「で、では……やはりギルドマスターと権力者の相談した方がいいのでは……?」
「もう少し回ってみましょ」

 イラスの意見は尤もだ。様子見をする必要はあまりない。
 領主や貴族を集めて会議でもすれば意思統一は可能かもしれない。ただ、オンディーヌ伯爵は話が分かる人だったけど貴族が全員そうであるかは分からない。

「武具のお店は……鉱山が近いだけあっていいものがあるわね。騎士同士の戦いなら技量に差はなさそうだし装備で優位を取れるかしら」
「食料もいいものがありますね。魔物のお肉に果物、お野菜も……」
「あっちの方に畑があるみたいね。ううむ、しばらくここのお世話になりそう」
「後は酒場とギルドでなにか情報が無いか確認するだけじゃな」
「お酒は一杯だけよ」
「う、むう……」
「ふふ、英雄のガエイン様も弟子には弱いのですね」

 あたしと師匠のやり取りを見てイラスがクスクスと笑っていた。可愛らしい顔立ちをしているので周りの人がこちらを見ていた。

「お、可愛い子……」
「初めて見るパーティだな。爺さんと孫みたいな感じだぞ」
「爺さんは手練れっぽいな。というかあの黒いメガネ、かっけえな」

「ひゃぁん……」
「うひゃ!?」

 注目されていることを知ったイラスが慌ててあたしの背中に隠れた。
 そのまま背中にイラスをくっつけたままギルドを見つけ、中へ入るとまばらに散っている冒険者達がこちらに視線を向けてきた。
 すぐに自分達の会話に戻る者、こちらを値踏みするような目をしている者など様々いるけど、こういうのはギルドではいつものことなので気にせず受付カウンターまで歩いていく。

「こんにちは。こんな時間だけど、なにか面白い依頼はないかしら?」
「ひゅう、こりゃ随分といい女が来たもんだ。爺さん、羨ましいねえ」
「ふん、孫みたいなもんじゃて。なにか面白い情報はないかのう。路銀が欲しいんじゃが」
「依頼ならそこの板に貼ってある紙を持ってきてくれればいいぜ。面白い話か……」

 ギルドの受付をしている男が腕組みをしていると、横から背の高い男が話しかけてきた。

「お嬢さんたち美人だな、爺さんと別れて俺達とパーティを組まないか?」
「へえ、それはおじいちゃんより強いって自信があるってこと? ヘビーよ?」

 あたしが素知らぬ顔で聞き返すと、男は自分の背後に親指を向けた。そこには仲間だと思われる二人が不敵に笑いながら立っていた。
 ふうん、ナンパかあ。旅をしている時にはよくあったわねえ。そんなことを考えていると、男は続ける。

「これでも結構名うてのパーティなんだぜ? どうだい、デートとか。そっちの子も可愛いし」
「はぅ……」
「はは、照れちゃってるぜ」
「そ、そうじゃありません……」

 イラスはあたしと一緒でリクが好きだからそんなはずはない。なのでここは丁重にお断りさせてもらおう。

「悪いわね。あたし達って好きな人がいるの。それに依頼を受けるからお誘いは無理ね」
「ワシの目が薄い内は好き勝手させんぞい」
「おじいちゃん目が黒い内ね?」
「……ふん、気が強いのも悪くない。まあいい今日のところは引き下がるよ。俺はグレン」
「シャルよ。まあ、そんなに長居するつもりはないけど。さ、依頼を探しましょ」
「はぁい」

 ホッとしたイラスがふにゃっとした声を上げて掲示板へと向かう。まあまあ強そうだけど、好みじゃないわね。
 とりあえずお金稼ぎといきましょうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...