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第三章
第90話 魔物
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「急に薄暗くなりました……」
「森の奥に入るとこんなものじゃ。さて、グラップルフォックスの捜索といくか」
森に足を踏み入れて少し経った。
そこであたしの隣を歩くイラスが不安げに口にしたことを、前を歩く師匠が軽く説明してくれた。
で、師匠がお気に入りのサングラスを外して懐に入れるとそのまま周囲の状況を観察し始めた。
「なにをされているのですか……?」
「魔物が移動している痕跡が無いか確認しているのじゃよ。地上を移動する魔物なら足跡などが残っていてもおかしくない」
「続けると、人が襲われるということは森の浅いところにも出現するってことだからこの辺りから確認を始めるのが効率もいいってわけ」
「へー」
あたしも地面や木をチェックしながらイラスに言っておく。この子は冒険者じゃないからセオリーみたいなのは知らないから教えながら進む形になるわね。
「ふん、ずっと捕まっていないだけあって痕跡は残さんのう」
「そうね。あ、森林ウサギの糞があるわ」
「うんち……!?」
「なに驚いているのよ? あたし達だって出すんだし、魔物だって出すわよ。お肉が美味しいから見つけたら狩っておきましょう」」
「うう……お姫様……」
いいのを見つけたあたしに何故か渋い顔で呟き、てくてくとついてくるイラス。
あたしも最初は大変だったけど、慣れればどうってことないんだけどね?
そういった『魔物を発見するための技術』みたいなのを話しながら、視線は森のあちこちに向けて移動を続ける。
それにしてもこの森に居るはずのグラップルフォックスの痕跡がまるで無いのはおかしいわね?
「相当賢い個体かしら? それらしい痕跡がここまで無いのも凄いわね」
「も、もう居ないとか……?」
「でも被害は出ているみたいだし、どこかに居るはずよ」
群れで過ごさないのがグラップルフォックスの習性だけど、他個体がいてもおかしくないんだけどね?
「これは難儀な依頼じゃ、これくらいの面倒さは想定内じゃて。ぼやいても仕方ない、進むぞい」
「はぁい……」
「夕方になったら戻るわよ」
さらに奥へ進むあたし達。
そこへ依頼を受けているらしい冒険者とすれ違う。
「お、森で別パーティと会うとは珍しいな」
「そうじゃな。お主たちは達成したようじゃのう」
男ばかりの五人パーティで、師匠の言う通り彼らの後ろには大きなイノシシが運ばれていた。
「ああ! 今日は美味い酒が飲めそうだ」
「酒……ごくり……」
「師匠?」
「お、おう……」
「はは、爺さんに女の子とは面白いな。あんた達の獲物は?」
「グラップルフォックスよ。なんか困っているって聞いたから、この子が受けたの」
「へ、へへ……」
イラスがあたしの後ろで愛想笑いをしていると、相手パーティの顔色が変わった。
「あいつか……辞めといたほうがいいぜ? あいつはこっちが探している時は出てこない。油断したところにがっと来る感じだ」
「ふうん」
「警戒心は他の個体と比べてもかなり高いよ。追っていることがヤツに知られたら完全に姿を消すか――」
「――こっちを始末するまで襲い掛かってくるか、だな」
「ひゅん……!?」
くっくと笑う冒険者にイラスが可愛い反応をする。すぐに明るい表情になり、手を上げてから移動を始めた。
「ま、手を出さなきゃそれほど怖い相手でもねえよ。ほどほどに探索して見つからなかったら帰ればいいさ」
「気を付けてな」
そう言って去って行った。割といい人達だったわね。
でも、どこかには居るってのは間違いなさそうだし、このまま探索してみよう。
「魔物って賢いんですねえ」
「昆虫系はそれほどでもないけど、犬みたいな動物になるとぐっと賢くなるわね。懐けばテイマーって職業になって魔物と一緒に戦う、みたいな人も居るわよ」
「あ、ワンちゃんと一緒だったらいいですね……」
「そんなに可愛いもんじゃないけど……」
緩い顔でそんなことを言うイラスはさておき、ずっと探索をしてくれている師匠に追い付く。
そこであたしは土の上に足跡があるのを見つけた。
「あ、グラップルフォックスの足跡」
「え!? ど、どれです!?」
「お、やるのう。これじゃな」
師匠が片膝を突いて見た草むらの場所に狐の足跡があった。成人男性の手を広げたのと同じくらいだから結構大きな個体のようだ。
ずっと逃げきれているから成長しているのかもしれない。
「……追ってみるか」
「そうね」
「うう……あ、あっちに……」
あたし達は見つけた足跡を慎重に探し、二つ、三つと見つけて辿っていく。
このまますぐに巣までいける……というほど、この世界は甘くない。
「……妙ね」
「うむ」
「え? え? このままいけば会えるんじゃないですか?」
「そうだけど、今まで捕まっていない個体がこんなにハッキリと跡を残すと思う?」
「あ」
「だからこれは――」
【グルゥゥゥ……!!】
「――罠ってことよ!」
木の上でこちらを見ていたらしいグラップルフォックスが、気づいたあたしへ一足飛びで襲い掛かって来た。
「ふむ、噂に違わぬ賢さじゃて! 剛の三、斬鋼《きりはがね》!」
【くぉおん!】
「空中で避けた……! やるわね! それ!」
師匠の斬撃を空中で身を反らして回避するグラップルフォックス。そのままあたしに牙を突き立てようとしたので即座に剣を抜いて顔面に攻撃を仕掛けた。
しかし、それも顔を逸らして躱す。すぐにイラスも攻撃を仕掛けたが、グラップルフォックスは分が悪いと見たのか着地と同時に距離を取った。
「ふうん、本当に賢いわね? しかも前に見たことがあるヤツより大きいわ」
「変な動きをしますね……」
「人間と体の造りから違うからのう。回避方法も様々じゃて。しかし、姿を晒したのは失敗じゃったな?」
瞬間、師匠の気合が周囲を覆う。
殺気とも違う『相手を攻撃する意思』がこの場を支配した。
「これ……渓谷でも感じた気配……」
「師匠のテリトリーね。あたしはよくわかんないんだけど、相手の動きまで分かるらしいわよ? さ、囲んで終わりにしましょうか」
あたしはイラスに声をかけて不敵に笑う。依頼達成は目前になった。
「森の奥に入るとこんなものじゃ。さて、グラップルフォックスの捜索といくか」
森に足を踏み入れて少し経った。
そこであたしの隣を歩くイラスが不安げに口にしたことを、前を歩く師匠が軽く説明してくれた。
で、師匠がお気に入りのサングラスを外して懐に入れるとそのまま周囲の状況を観察し始めた。
「なにをされているのですか……?」
「魔物が移動している痕跡が無いか確認しているのじゃよ。地上を移動する魔物なら足跡などが残っていてもおかしくない」
「続けると、人が襲われるということは森の浅いところにも出現するってことだからこの辺りから確認を始めるのが効率もいいってわけ」
「へー」
あたしも地面や木をチェックしながらイラスに言っておく。この子は冒険者じゃないからセオリーみたいなのは知らないから教えながら進む形になるわね。
「ふん、ずっと捕まっていないだけあって痕跡は残さんのう」
「そうね。あ、森林ウサギの糞があるわ」
「うんち……!?」
「なに驚いているのよ? あたし達だって出すんだし、魔物だって出すわよ。お肉が美味しいから見つけたら狩っておきましょう」」
「うう……お姫様……」
いいのを見つけたあたしに何故か渋い顔で呟き、てくてくとついてくるイラス。
あたしも最初は大変だったけど、慣れればどうってことないんだけどね?
そういった『魔物を発見するための技術』みたいなのを話しながら、視線は森のあちこちに向けて移動を続ける。
それにしてもこの森に居るはずのグラップルフォックスの痕跡がまるで無いのはおかしいわね?
「相当賢い個体かしら? それらしい痕跡がここまで無いのも凄いわね」
「も、もう居ないとか……?」
「でも被害は出ているみたいだし、どこかに居るはずよ」
群れで過ごさないのがグラップルフォックスの習性だけど、他個体がいてもおかしくないんだけどね?
「これは難儀な依頼じゃ、これくらいの面倒さは想定内じゃて。ぼやいても仕方ない、進むぞい」
「はぁい……」
「夕方になったら戻るわよ」
さらに奥へ進むあたし達。
そこへ依頼を受けているらしい冒険者とすれ違う。
「お、森で別パーティと会うとは珍しいな」
「そうじゃな。お主たちは達成したようじゃのう」
男ばかりの五人パーティで、師匠の言う通り彼らの後ろには大きなイノシシが運ばれていた。
「ああ! 今日は美味い酒が飲めそうだ」
「酒……ごくり……」
「師匠?」
「お、おう……」
「はは、爺さんに女の子とは面白いな。あんた達の獲物は?」
「グラップルフォックスよ。なんか困っているって聞いたから、この子が受けたの」
「へ、へへ……」
イラスがあたしの後ろで愛想笑いをしていると、相手パーティの顔色が変わった。
「あいつか……辞めといたほうがいいぜ? あいつはこっちが探している時は出てこない。油断したところにがっと来る感じだ」
「ふうん」
「警戒心は他の個体と比べてもかなり高いよ。追っていることがヤツに知られたら完全に姿を消すか――」
「――こっちを始末するまで襲い掛かってくるか、だな」
「ひゅん……!?」
くっくと笑う冒険者にイラスが可愛い反応をする。すぐに明るい表情になり、手を上げてから移動を始めた。
「ま、手を出さなきゃそれほど怖い相手でもねえよ。ほどほどに探索して見つからなかったら帰ればいいさ」
「気を付けてな」
そう言って去って行った。割といい人達だったわね。
でも、どこかには居るってのは間違いなさそうだし、このまま探索してみよう。
「魔物って賢いんですねえ」
「昆虫系はそれほどでもないけど、犬みたいな動物になるとぐっと賢くなるわね。懐けばテイマーって職業になって魔物と一緒に戦う、みたいな人も居るわよ」
「あ、ワンちゃんと一緒だったらいいですね……」
「そんなに可愛いもんじゃないけど……」
緩い顔でそんなことを言うイラスはさておき、ずっと探索をしてくれている師匠に追い付く。
そこであたしは土の上に足跡があるのを見つけた。
「あ、グラップルフォックスの足跡」
「え!? ど、どれです!?」
「お、やるのう。これじゃな」
師匠が片膝を突いて見た草むらの場所に狐の足跡があった。成人男性の手を広げたのと同じくらいだから結構大きな個体のようだ。
ずっと逃げきれているから成長しているのかもしれない。
「……追ってみるか」
「そうね」
「うう……あ、あっちに……」
あたし達は見つけた足跡を慎重に探し、二つ、三つと見つけて辿っていく。
このまますぐに巣までいける……というほど、この世界は甘くない。
「……妙ね」
「うむ」
「え? え? このままいけば会えるんじゃないですか?」
「そうだけど、今まで捕まっていない個体がこんなにハッキリと跡を残すと思う?」
「あ」
「だからこれは――」
【グルゥゥゥ……!!】
「――罠ってことよ!」
木の上でこちらを見ていたらしいグラップルフォックスが、気づいたあたしへ一足飛びで襲い掛かって来た。
「ふむ、噂に違わぬ賢さじゃて! 剛の三、斬鋼《きりはがね》!」
【くぉおん!】
「空中で避けた……! やるわね! それ!」
師匠の斬撃を空中で身を反らして回避するグラップルフォックス。そのままあたしに牙を突き立てようとしたので即座に剣を抜いて顔面に攻撃を仕掛けた。
しかし、それも顔を逸らして躱す。すぐにイラスも攻撃を仕掛けたが、グラップルフォックスは分が悪いと見たのか着地と同時に距離を取った。
「ふうん、本当に賢いわね? しかも前に見たことがあるヤツより大きいわ」
「変な動きをしますね……」
「人間と体の造りから違うからのう。回避方法も様々じゃて。しかし、姿を晒したのは失敗じゃったな?」
瞬間、師匠の気合が周囲を覆う。
殺気とも違う『相手を攻撃する意思』がこの場を支配した。
「これ……渓谷でも感じた気配……」
「師匠のテリトリーね。あたしはよくわかんないんだけど、相手の動きまで分かるらしいわよ? さ、囲んで終わりにしましょうか」
あたしはイラスに声をかけて不敵に笑う。依頼達成は目前になった。
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