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4話

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窓の外を見るとすっかり薄暗くなっている
陽は落ちてしまった

夜中に徒歩でウィリアム様の屋敷には行けないだろう
王都の宿屋に一泊しよう
幸い…少しならお金もある
荷物を持ちながら考えていると、私の良く知る令嬢が向こうから歩いてきた

「あら?誰かと思えば…レオナード様に捨てられたシャーロットじゃないの」

卑しい笑みで金色の髪をいじりながら呟く彼女
派手派手な化粧や装飾品、匂いのきつい香水に思わず顔を歪める

彼女、ベネット・デズモンドを忘れるはずもない、この匂いで覚えてしまった
デズモンド伯爵家の令嬢で、レオナード様に恋焦がれている
だが、なぜこんな時間にここにいるのだろうか

疑問に思っているとわざわざ彼女は答えてくれた

「ふふ、私ね?今日レオナード様にお呼ばれしたの…あなたの代わりにね」

「そうですか…では」

また遊ばれる女性が増えるんだなと考えながら
ベネットの隣を通り過ぎようとすると

「ま、まちなさいよ!!まだ終わってないわ!」

「なんですか?」

「ふん!私はずっと思っていたのよ!あなたはレオナード様の隣にふさわしくないわ!私こそが隣にいるべきで、私を愛してくれる予定でしたの、どんな色目を使ったのか知りませんが…ボロがでて捨てられてしまったのね…ざまぁないですわ!いい気味よ!あなたの態度は昔か」

「あの、もういい?話が長い」

「な!なんですって!」

「私にはもう関係ないから好きにしてください、私はウィリアム公爵様の所へ嫁ぐことになりましたので」

私の言葉にあぜんとした表情のベネットだが、突然吹き出す

「ぷふ!!この国一番のイケメンのレオナード様の次はあの豚公爵ですか!お似合いですわね!」

「………ねぇ、ベネット…一つだけ言っておいてあげるわ」

ベネットに詰め寄る、私が普段浮かべている愛想笑いもしてないからか
怖いのか、一歩後ろに引き下がる彼女にさらに詰め寄った

「いい?レオナード様が愛しているのは…自分自身だけよ…それがあなたの幸せになるのかしら?」

「な…なにを言って」

「…いずれ、わかるわよ」


そう言って、私はベネットから離れて再び歩き出した
彼女は気付くだろうか?レオナード様はどうしようもない男だと

無理かもね
くすりと笑う私をベネットはただ見つめていた









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

王宮を出る寸前、背後から足音が聞こえ振り返ると
少女が私に抱きついてきた

「お姉様!行かないで!」

ふわりと揺れる銀の髪、まだ幼い彼女は私を離さないと抱きしめる
私はしゃがみ込み、彼女の顔を見つめる

涙目で私との別れを悲しんでくれる優しい子

「ごめんね、ステラ様…もうお姉様にはなれないの」

レオナード様の妹君…ステラ・アゼラビア様
兄君とは違って優しい子で、私が王妃教育でこの王宮に住んでから
よく一緒に遊んだ、本当の姉のように慕ってくれるこの子を
私も本当の妹のように思っていた

正直、ギリギリまでレオナード様との婚約破棄を悩んだのは
ステラの存在が大きかった

「お姉様…いつものようにステラと呼び捨てしてください!」

「ごめんね…ステラ様…」

いやいやと、首を横に振り
ステラは私の胸に泣きつく

「兄君のことは私が謝罪します!だからお願い!ステラのお姉様でいてよ!」

「ステラ…様…今はお許しください…」

「なんで?ステラの事嫌いになったの?お姉様!」

私は首を横に振る
違う、ステラの事は大好きだ…正直犯罪が許されるのなら連れていきたい
だが、そんな事できない…だから

「ステラ様、お願いがあります」

「な、なに?」

「レオナード様はどうしようもないお人です、あの方が王になればこの国に未来はないかもしれません…だからいっぱい勉強して民に好かれる良い女王を目指してください…もしあなたが女王となり、私に許可してくださるのならまたお姉様にしてくれますか?」


私の言葉にステラは涙を拭い
力強く頷く

「わかった、ステラ…頑張る…」

「ありがとうございます…ステラ様…」

私も抱きしめながら彼女の白銀の髪を優しく撫でる
そして別れを惜しむ彼女に最後の挨拶をして

王宮から出る
外はすっかり暗くなっている、点々と道にある街灯のおかげで街に行くのには困らないが
宿は空いているだろうか

心配しながら、王宮から街道に繋がる石階段を降りていく
扇型に広がる階段を降りていくと馬車が止まっていた
派手ではないが品の良い装飾の馬車、繋がれた馬もよくしつけられているのが分かった
こんな時間に?ベネットが来た時の馬車だろうか?


不思議に思い、近付くと馬車の御者らしき人物がこちらに近づいてきた
その方は執事の格好の初老の男性
白髪のよく似合う方で、私を見るなり綺麗なお辞儀をした


「お待ちしておりました、シャーロット様」

私の名前を呼ばれ、驚くが
彼の続く言葉で安心した


「ウィリアム様に仕える執事のオルターと申します…婚約のお手紙読んで頂けたでしょうか?」

「ウィリアム様の…婚約の件ですがもちろんお受け…」

最後まで言う寸前でオルターさんが人差し指を立てて静かにとジェスチャーする

「お返事は、是非とも旦那様にお願いします…屋敷に来てくださいますか?」

オルターさんはそう言って丁寧に馬車の扉を開く
小さなランタンのついた馬車の中はどこか暖かそうで
冷めないようにだろう、毛布も積んであるのが見えた

こうした優しい気遣いができる
あの人にはやく会いたいと思った

「お願いできますか?オルターさん」

彼はただ黙って頷いてくれた


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