憧れの世界でもう一度

五味

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33章 神国へ戻って

塩のありか

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こちらの貴族というのは、かつての世界に合ったそれとは違うのだなと。そんな事を、オユキは今更ながらに実感する。あちらこちらに拠点となる街があるとはいえ、それでも野営の必要とでもいえばいいのだろうか、そうした物が出てくるのだ。
騎士達は、度々蛮族のような格好になるところは見ているのだが、それは文官寄りの者たちにしてもそこまで変わることが無く。必要とあれば、当たり前のように屋外での食事を良しとする者たちなのだと。

「ふむ、岩塩か」
「はい。こうして、私たちにしても不都合なく利用できていますが」
「確かに、高級品ではあるな。魔物から手に入るものでもあるのだが、岩塩坑は領内には二つほど。領都にも確かにあるのだが」
「領都に、あるのですか」
「うむ。銀鉱山、魔物が現れるようになった廃鉱、そちらに以前その方は足を運んだと聞いているのだが、それ以外にも無論あるとも」
「だとすると、いえ、値段に関してはいよいよ輸送故、ですか。王都や領都でも値段が変わっていないところを見ると、そのあたりが商業ギルドの仕事と言う事ですか」

嗜好品というよりも、必需品。値段の固定を考えるためと考えれば、成程と納得できるものだ。

「その方は、聞いていた通り」
「いえ、異邦からの物であれば、歴史を学んでそうしたことを知っている物ですから」

過去に、現在でも。そうした値段の固定とでもいえばいいのか、それが行われていたことくらいは、知っている物だ。何も利益の確保を考えてというばかりではなく、それに従事する者たちを守るために。坑道に入り、岩塩の採掘を行う。そして、それらを外に運び出す。異邦の事を考えるまでも無く、それは間違いのない重労働。さらには、こちら特有の不安として、廃鉱山、魔物が出るようになった鉱山の存在がある。それこそ、何の脈絡もなく魔物が現れるようになったところで不思議でも無い。

「そちらは、採取者ギルドの領分ですか」
「ふむ。狩猟者たちか。それとも、傭兵か」
「傭兵たちの賃金を考えると、狩猟者にとも思いますが」
「確かに、その方が作った流れというのを聞いているのだが、わかっていようが」
「それについては、契約で縛るのが」
「いや、そうか、そうだったな。戦えるもの、そういった物たちが中に入り、加護を多く得た者たちが活動してしまえば」
「よもや」
「そうした説があると、そういう事だ」
「なんという事でしょう」

前公爵の言葉に、オユキは頭を抱えるしかない。
ここにきて、まさかとでもいえばいいのだろうか。オユキとしては、それこそ誰かが、過去の異邦人の誰かが望んだ結果などと考えていたのだ。だが、話を聞くにそうした仕組みだけが解放されており、周囲に気を使って言葉を濁しているのだが、その言葉の裏にはただただそれが事実なのだと話している。
割合に関しては、分からない。それこそ、領主の権能の内いくらかを使えば、明確に分かるのだろう。こうして明らかに不安視している以上は、事実であるには違いなく。相も変わらず、この世界で、こうして相応の位の相手と話してみれば、オユキの知らぬ事というのが色々と出てくるものだ。そして、何よりもとでもいえばいいのだろうか、そこまで余裕が無い以上は期限とでもいえばいい物が近いと、それも理解ができる。成程、道理でマリーア公爵その人がダンジョンという仕組みに乗り気だったわけだと、そんな事を納得しもしながら。

「いっそとも思いますが」
「言いたい事は分からぬでもないが、やはりその時に何処までというのもあるのだ」
「これまでに、前例は」
「王都の近郊で、魔物が現れるようになった岩塩坑があったはずだが、そこはやはり騎士たちの仕事となっている」
「つまりは、それほどですか」
「ふむ」
「いえ、その、確かに過去の経験はありますが、私はあまり人里には寄り付かなかったこともありまして」

トモエに、まずはとばかりにオユキがせっせと焼き上げたキノコを渡してみれば。勿論、少女たちが何やら緊張を湛えて、オユキを見守っていたのだが、何を言われる事も無く。そもそも、焼き台の網に軸をとって並べて、塩を振るだけなのだ。オユキが選んだ手に入ったキノコ、シイタケにエリンギだけと言う事もあり、調理と言われれば首をかしげるしかないようなものではあったのだが、トモエはそれをいたく喜んで食べたのだ。その姿を見て、勿論オユキは喜んだのだが、ではとばかりにトモエが変わるといわれて今はオユキがこうして前公爵夫妻と同じ席でトモエの用意とアルノーのほうで用意が終わるのを待っている。
はっきりと言ってしまえば、過剰に焼いたこともあってしっかりと焦げていたりとそうしたことがあったのだが。トモエはそれを口に出す事は無く、ただ、ここ暫くオユキがトモエの為にと行う事が、かつては役割分担としてあまり機会の無かったこと、トモエが取り上げていたことを行うさまを喜んで。

「そのような背景か」
「オユキさん、かつてはそうだったとはいえ」
「こちらに来てから、と言う事であれば、その」

夫人から、少々言いたい事があるのだとそうした枕が置かれるのだが、オユキとしてはこちらに来てからというもの、自分に由縁のある事ではあるのだが忙しなさを友としている。

「どうしたところで、こう、所謂」
「ええ、わかっていますとも。息子夫婦から、そのあたりを少し世話をするようにと言われているのですが」
「ああ、そうだったのですか。ですが、その、私としても」
「それなのだが、その方、こちらにも屋敷を構えてとするつもりはないのか」
「ウニルにも、ですか」
「うむ。魚介の類は気に入っているようであるし、こちらにも色々とギルドはある。今後は、魔国との折衝も増える以上は、その方が好んでいるらしい魔道具か、これらの取り扱いに関してもな」

確かに、ウニル、この町については色々と魅力的な部分がある。造船所とでもいえばいいのだろうか、オユキにとっては見覚えのない、何やら巨大な建屋もできておりそこでアマツが間違いなく造船に手を出しているのは想像できる。ミズキリにしても、今後橋の真ん中に拠点を用意するという話もある。そのあたりの監視を行うというのであれば、間違いなく利点ではある。何よりも、オユキとしても今後時間を使ってみたいと考えている、魔道具、それについてウニルが、魔国へもっていく銀、その一部であれど融通してくれるだろうことを考えれば。

「その、問題としては」
「その方の客人か。改めて聞きたいのだが」

言われて、オユキは改めてセツナとクレドに関する説明を行う。それこそ、前公爵も理解しているだろう翼人種たちとの関係性を暗に示したうえで、その者たちが拉致をしてきたのだと言う事から始まり、オユキの種族としての長、その人物に色々と教えを乞う事になったのだと。さらには、セツナの集落と繋ぐための門を求めると、そこまで含めて。

「開閉に、問題がと言う事か」
「セツナ様が言うには、一度門の働きを見たときに、多少軽減はされると言う事ですが門の先にあるマナ、でしたか。それが流れ込んでくるには違いないと言う事のようで」
「氷の乙女であったか、我にしても初めて聞く種族ではあるのだが其方の里というのは雪と氷に閉ざされているのだという話を聞く限りは」
「ええ。冬と眠りの気配が強く、種族としての祖は風雪と氷嵐の柱だとか」
「オユキさん、里と繋ぐ門ですが、例えば、そちらを貴女の新しい屋敷の中にというのは難しいのかしら。どうにも、話を聞いている限りであればその方が色々と不都合が無いのではなくて」
「門を、屋内、屋敷に、ですか」

夫人から言われた言葉は、オユキにとってあまりにも予想外とでもいえばいいのだろうか。そこまでの自由を、特定の種族とのやり取りを一個人に、一つの家に任せるようなことを許すのかと。言ってしまえば、オユキとしては氷の乙女、間違いなくこちらに、神国に存在しないだろう資源を持つ種族とのやり取りに関しては、公爵家の、他の貴族家も行えるようにと考えていた。何よりも、オユキたちが今後こちらに残らなかった時を考えて、その方がいいだろうとも考えていたのだ。交易が成立した時に、その方が何かと不都合も無いだろうと。
だが、前公爵夫人の話では、独占しても構わないと、そう話しているように聞こえる。

「貴女の家にも、勿論使用人がいるでしょう」
「ああ、成程。ですが、私たちは今後も移動を重ねますし」
「その移動に関しても、なのですが、例えばその氷の乙女の長たる方は、貴女を監督しない事を良しとするのかしら」
「言われてみれば、確かに」

今後、というよりも頼んだ者たちが到着すればオユキとしても早々に華と恋の国に顔を出す心算がある。その時までに、オユキがセツナの手から離れることが出来るのかと言われれば、首をかしげるしかない。どちらかといえば、不可能だとそんな事を考えてもしまう。今後の移動を考えれば、間違いなくカナリアには頼むことになるだろう。祖霊の加護、豊穣の加護を与えることが出来るアイリスにしても、華と恋は喜ぶには違いない。
つまるところは、今いる者たちというのが、そっくりそのまま移動する可能性が高いと、そのような話になる。
だが、大きな問題とでもいえばいいのだろうか。新しい門は、行き先が固定されるのだと、マリーア公爵がそんな話をしていたのだが、オユキの側には医師役を頼んでいるカナリアがいる。そして、そのカナリアが持っている魔術の一つに門の繋がる先を切り替えるというものが存在しているのだ。
マリーア公爵には既に報告しているはずのそれを、前公爵夫妻が知らないのだろうかと、そんな事を考えては見るのだが。

「確かに、その方らにとっては寧ろ都合が良いかもしれぬな」
「ええ。勿論、色々と配慮といいますか」

そんな事を考えて、はっきりと疑念を覚えていると視線をもって訴えたからだろう。相手はからは当然理解しているのだと、そうした回答が返ってくる。そも、オユキとカナリアがここまで使った門というのはあくまで神殿に設置されている物でしかない。そして、他国にとなれば間違いなく騒ぎになるのだと、その程度の予想は出来ているのだろうと。
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