憧れの世界でもう一度

五味

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33章 神国へ戻って

料理の時間

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オユキの作った、果たして料理と呼んでもいいのかと多くの物が疑問を覚えるだろう物。ただ、トモエにしてみれば人が手を加えた物は須らく料理だと、そうした考えでもある。たとえ焼いただけでも、少々塩が過剰であったのだとしても、オユキがトモエの為にと用意した物であるには違い無い。

「あの、トモエさん、大丈夫でした」
「ええ。おいしかったですよ」
「その、私が、ちょっとオユキちゃんから目を離した間に」
「オユキさんがサキさんに聞いたのであればまだしも、そうでは無かったようですから」

だから、オユキが大量の岩塩をキノコに振るのを、見逃してしまったのだと謝るサキに何ほどの事は無いと笑って答えて。そうして話しながらも、では、キノコを使って焼いただけではない料理、それにはどんなものがあるのかといえばとばかりに、今度はトモエが料理をしている。
数種類の、オユキがかつては好きだったキノコを選んだうえで鳥を煮込んでいる鍋の中に。こちらでは、生憎と白菜などは見ていないし、豆腐というのも現状存在しないのだが、それでも他の野菜と共に。こちらでいえば、ポトフとなるのだろう、そうした品を煮込みながらも料理の手は他を。
シイタケの軸を外した上で、その軸と肉を合わせて包丁で軽くたたいて傘の内側に戻す。ついでとばかりに軽くチーズなどもその上にのせて、フード付きの焼き台へ。並べて置いた横に、そっと水を入れた皿とそこにいくつかの香草を浮かべて置く。いっそ、此処に氷を入れても良いのではないかと考えたりもするのだが、それをしたところで早々に溶けるだけだろうとも考えて。

「えっと、トモエさん、それは」
「オユキさんが、長く火にかけた物は苦手とは聞いていますから、それを少しでも抑えるため、でしょうか。勿論、こうして水分を増やすことで狙っていることもあるにはありますが」

要は、火に当てるだけではどうしたところで食材の乾燥が避けられない。だからこそ、こうして他の手段で水分を足そうと考えているというものだ。

「湯煎焼き、でしたっけ」
「そういえば、サキさんはあちらで製菓を行っているのでしたか。そちらは、私の知っている範囲では型を水につけてとするので、また少し違うのですが」
「そう、なんですね」
「はい。それこそ、蒸籠があれば、私も今はそちらを使いますからね」

どうにも、火の通し方とでもいえばいいのだろうか、熱の与え方とでもいえばいいのだろうか。今はまだセツナ相手に試していないため、確証は得ていない。だが、ここまでのオユキを見る限りでは、蒸してあるもののほうが手が伸びている。勿論、余分な脂が落ちている物を、脂ののっていないものを選んだうえでとしているのもそうなのだが、それ以上に。以前、アルノーと話して、焼き菓子と蒸した菓子の二種類を並べてみたことがある。今まさに、サキに言われたものではあるのだが、飲茶としての果物を使って餡を作った、幸いにもこちらには白いんげんがあるため、それで果物と合わせた餡を作って中に詰めた上で、皮で包んだ後に蒸した物。それと、平たく伸ばして焼いたものの二種類を。そうしてみれば、オユキは実に分かり易く、蒸してあるものに基本的に手を伸ばしていた。
己の伴侶を相手に実験のようなと、そうしたことは確かに思うのだが、それほどに常々オユキの食事量というのを問題視しているのだ。それこそ、こちらで栄養補助のための薬剤や、補助食品。そうした物を割と本気で考えてもいたのだ。だが、今回氷の乙女という確かにトモエが考えていた通りと言う訳では無いが、まさにといった種族からオユキが言われたという言葉もある。
なんだかんだと、オユキ自身そこまで食事に対して重きは置いていないのだが、オユキの為にとトモエが用意することを喜んでいるのだ。勿論、セツナから言われた食事に対する色々、それに関してはきちんと二人の時間で共有がなされている。オユキ自身に自覚が無い事だとしても、このような事を言われたのだと、そうした形で。さらには、人としての発現形質があり、凡そ無理ではないかとそうした話と合わせて。
この辺りは、アルノーと色々と話し合った物だ。
一度完成させた料理を冷凍したうえで、その後自然に解凍させてみてはどうかと。
だが、結局のところアルノーには、トモエすらも納得がいくだけの品質が維持できないのだ。かつての世界における冷凍食品、そのほとんどは急速冷凍という方法で作られる。それも、工場で。とてもではないが、一般家庭で行えるようなものではない。トモエにしても、総菜の作り置きなどを手伝いに頼んでいたものが冷凍して等と言う事もあったのだが、それもごくごく限られた物ばかり。

「蒸籠ですか。私は、あんまり使ったことないかも」
「サキさんがあちらにいたときの年齢を考えれば、確かに手の込んだ料理も難しいでしょうから」
「そうですね。私の家は、母が好きで色々と作ってたんですけど」
「それは、良い事ですね」
「それで、私は、休みの日に簡単なお菓子とかを色々作って」

言いたい事は、なんとなくトモエにしても想像がつく。かつては、それこそこちらに来てから、何処に彼女が連れてこられたのかははっきりと分からないのだが、少なくともこちらに来てから早々に諦めたことがある。だが、彼女にしてみればこの世界では無理だろうと考えていたに違いない事、そうした色々がここ暫くの間に解決しているように見えるのだろう。だからこそ、もしかしたらと、そう考えるという彼女の気持ちも理解はできる。そう、トモエでも理解が出来るのだ。

「あの子たちには、話していない事になりますが」
「えっと、みんなにですか」
「あの男、ミズキリの目的の中には、かつての世界とこの世界を繋げるというものが存在してます。本人は口にしていませんが、オユキさんと私の間では、最早間違いないだろうと考えていることとして」

そう、次の品を、せっかく屋外でのバーベキューなのだからとそれらしいものを、素焼きの野菜も並べながらさらには腸詰なども並べていき。なんだかんだと、オユキは全くもって頓着しないのだが、トモエとアルノーで色々と調理用の道具などを頼んでいることもある。火が上がるのを機にせずに、網に油を刷毛で縫って。そして、そこにあれやこれやと並べながらも昨日に討伐したカニについても、焼き上げつつ、ついでにキノコが主役となっている鳥だしの水炊きとは別に、カニ鍋を用意する。幸いにもと言えばいいのだろうか、こちらにはトマトもきちんと存在しているために、そちらの方向で整えながら。オユキは、長く火を使う料理にしてもこうした鍋物と言えばいいのだろうか、そうした物については寧ろ好んで口にするのだ。
ただ焼いただけでは火の気配が強すぎる、だが、そうでない場合は長く火を使っても構わないと、そういう事でもあるのだろう。

「ただ、一番大きな問題と言えばいいのでしょうか」

トモエの言葉に、彼女にとっては意外過ぎる言葉だったのだろう。言葉に詰まった様子のサキに対して、トモエはさらに続ける。希望を持たせるようなことばかりを、華図べきでは無いと。最低限の覚悟位は、持っておいてもらわねばならぬと。

「どの時代に繋がるのか、それについては分かりません」
「えっと」

だが、トモエの説明が悪かったのだろう。どうにも、上手く伝わっていない様子。
まずは、いくらかのカニの足、かつてに比べればどうしたところでかなり巨大になっているために、適当にぶつ切りにしたものを焼き台に改めて並べて置き。既に焼きあがったもの、甲殻の色が変わっている物を鍋の中に。これで、昆布などが見つかれば、それが無くともうまみ成分を科学的に抽出した物があればと、そんな事を考えながらも出汁をとるためにと、他にもキノコを少々放り込んで。ついでとばかりに、他の干し魚も入れて。一煮立ちした後には、こちらにもまた葉野菜を色々と放り込んでいけばいいだろうと。少年たち、サキはトモエと並んで料理をしているのだが、残りの者たちは他の騎士達や、一体何事かと集まってきたウニルの住人向けにアルノーが料理を始めているためにそちらの手伝いに。
主賓でもある、前公爵夫妻に出す物、メインとなるものについても今回はなぜかトモエに任されている。確かに、ここらでトモエのというよりも、オユキが好む類の料理を改めて並べるのもいいだろうが。

「門は一つしかありませんから。例えば、サキさんとこうして話していても、この世界がかつてゲームとして存在していた、それをご存じではない。ですが、オユキさんが務めていた会社はご存じのようでしたから」
「あの、それって」
「私たちは、勿論それなりの期間離れていますが、少なくともオユキさんが、生前とそう呼べる状況になったのは二千三百年を少し超えたところです。サキさんは、何時頃でしょうか」
「私は、その、そこから三十年くらい」

トモエが何を言おうとしているのか、サキはそれを理解するのにあまりにも十分なほど頭が回る。トモエとオユキがこちらに来て、未だに二年に満たない期間。だが、サキは間違いなくそんな二人よりも少し早くこちらに来ていた。だというのに、どうだ。順序が、明らかにずれている。トモエとオユキのほうが後に来たというのに、死んだのだと、そう語る時期が明らかにサキよりも早い。数十年は、最早誤差と呼べるような範囲ではない。

「そして、あの男に関しては、私よりも早かったので」
「そう、ですか」
「はっきりと申し上げるのであれば、繋いだ先が、一体だれのとなるかは、本当に分からないのです。それでもと思うのであれば、ええ、私たちからあの男に確実にそれを行うようにと伝えておきますよ」
「えっと、その、後はジークたちに言われたこともあって」
「シグルド君たちが、ですか」
「その、元の世界には魔物がいなかったので、私もこっちで結構魔物を狩ったりしているので」
「それは、確かに問題ですね」

魔物を狩って、加護を得ているサキ。勿論、彼女が向かうとなれば、シグルドたちが興味を持たないはずがない。それどころか、国交をと考えれば、他にも今周囲にいる騎士たちにしても、異邦と呼ばれている地に向かう事だろう。身体能力が、絶望的なまでに差があるものたちが。
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