憧れの世界でもう一度

五味

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27章 雨乞いを

互いに抱える物

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「この機会に、巫女よ、オユキよ」

やり方に不満があると、そう明言したうえで戦と武技が改めてオユキに語り掛ける。

「我は、その方のあり様を、トモエの在り方をやはり好ましく思うのだ」

戦と武技は、ここにきてはっきりと口にする。選んだのは、月と安息。死後の安寧をその権能に持つ神が、死を想うもの達を選んだのだと語られた。しかしながら、トモエとオユキには、勿論他の者たちにしてもはっきりとそうでは無い神たちから位が与えられている。本人たちは自覚が無いと言うよりも、それをわかっているうえで、やはり現状のトモエとオユキを見てどういった結果が得られるのかを理解しての振る舞いなのだ。選ぶという権利、それを行使したからこそ、後の事に関してはと言う事なのだろう。神々の力関係、その様子がその一言でも十分すぎるほどに垣間見える。

「故に、こうした些事で我を呼ぶことを、己の不足を理解して頼むことを何ら恥じ入ることなどないとも」

そして、気に入っている相手だからこそ、この神が力を取り戻す切欠を作ったトモエとオユキだからこそ必要があるのならば、呼ぶが良いとそう戦と武技は語る。

「生憎と、なかなかに時間をとることが難しく」
「確かに、そればかりは我が負担をするわけにもいかぬものではあるな」

気にするなと、そう言われたところで容赦なく徴収されるものがあるから難しいのだと、オユキからはそう応えるしかない。

「しかし、その方の考える機会、明らかな祝いの席。そちらであれば、その方に負担は与えぬとも」

近々、魔国での一通りの出来事が終われば行うと決めている、水と癒しの神殿での改めての挙式。そこで、招くつもりがなかったと言えば嘘にはなるのだが、きちんとここで明言をされたことは、やはりオユキとしては嬉しいものだ。そして、だからこそ、思う所がある。

「神々からは、やはり配慮を頂けるのですね」
「言いたい事は、まぁ分かるのだがな」

この世界で、オユキが優しさを明確に感じる相手。それは、人ではない。神々ばかり。明確な上位者だからこそ、オユキとしても甘える気になる。そして、その相手は確かにマナと呼ばれる未だにオユキは実感し始めたばかりの物を徴収するのだが、間違いなくそれに対して答えてくれる。幾度も繰り返したからこそ、そこには確かな信頼がある。そも、そのようなくらいが与えられる前から、こちらに来たばかりのころからこの柱は、戦と武技の神はトモエの言葉に応え、あの少年たちにも言葉を届けたりとしてくれたのだ。ならば、オユキからはやはり感謝しかなく、祈りを捧げる相手として、この柱以上はいはしない。アナに対して目をかけている、あの悪戯気な柱については、新興や信頼と言うよりも、警戒が先に立ってしまうためどうにもそうした相手には出来ない。来歴や由来、そこに存在する理などを考えれば、当然納得がいくものではあるのだが。

「何にせよ、今はこの場」

そして、真摯な信仰者。巫女と言う位があるから等全く関係なく。トモエと言う存在を通して、己の比翼を通して信仰を捧げるオユキが崇める柱が、カルラに対して。

「生憎と、今のその方の名は我に届かぬ。呼ぶことも叶わぬ。しかし、この場はまさに今その方が考える場には違いない。我は、己の巫女の、我が信仰者たるオユキの願いに応えて今この場に降りる事を良しとした」

そして、オユキの願いに応えて来たのだと改めて宣言するとともに。

「その方、我が刃の輝きを前に、あらゆる虚飾は、虚妄は一切意味をなさぬと知るが良い」

まさにオユキが望んだままの振る舞いを行うのだと、ここではっきりと宣言が為される。

「ふむ、時間を稼げば等と考えているようだが、度が過ぎれば我とて明確な上位者でもある。その方の思考の一切、それをただ巫女の求めに応じて暴くだけと心得よ」

そして、戦と武技の宣言に対して、ここまでのオユキの振る舞いに対して選択しうる方法を考えたのだろう。そちらに対しては、実に容赦のない回答が戦と武技から。要は、何を考えているのか、眼を届けることが叶うオユキが、声を聞き届けやすい存在が側に居たのだ。ここまでの期間で、ただ人であれば間違いなく不可能であった情報を既に得ているのだと語る。

「ああ、成程。流石は巫女様」

そして、ここにきてはっきりとした敵意がカルラからオユキに向けられる。

「本当に、うらやましい事。恨めしい事」
「では、改めてその話をお伺いしましょう。私が為した事、それに不服があると言うのであれば、今この場で」

そして、そうした態度をとる相手だからこそ、オユキが返す反応と言うのもやはりそうした物になるのだ。かつてトモエがオユキを差して自動的等と言ったものだが、今まさにその通りの事が起きている。自動的、等と飾った言い方をする必要すらない。オユキの理念の根底には、常に同害報復が根深く存在している。恩義には、同様の物で。それもあるため、基本として問題になるような事は無い。だが、そうでは無い場面が、こうした状況が発生した時には実に顕著に。トモエとしては、シェリアが軌道修正位は、任せても問題がないだろうなどと考えて今回の場を用意したのだが、シェリアこそこの場に置くべきではない存在もいない。
近衛の役割は、あくまで主人の護衛。そして、恩義も感じるシェリアであれば、そこに少々行き過ぎた解釈が発生する余地と言うのが、実に単純に存在している。このまま、オユキが決めてしまえば、要はこの空間ではない、この先間違いなく目の前の相手はこの世界から失われる。そこで、シェリアが烙印を押される事は無い。神々の代弁者でもある、そういった位を持つオユキの望みを叶えたのだと、そうした形になるのだから。

「話を、ですか。御身は、本当に私の話を聞こうと」
「正直、私自身には確かにありませんでした。ですが、よくよく言われたのです」

そう、はっきりと、渋々と。
オユキにしても、そうした態度をもはや隠す気も無い。この相手が何を語ったところで、ここまでに聞いた推測が正しいのだとして、結論など見えている。

「ですから、よくよく考えると良いでしょう。私に助けを求めるのか」

そう、この人物が今できる事と言うのは、ただの二者択一。

「それとも、ただ今の状態を良しとして、ここではない先、神国に戻った後に結末を迎えるのか」

オユキとしては、既に決めた事として改めて宣言を行う。
どうにも、現状でこの人物の処分を考えている、積極的に行うつもりであるのは己だけなのだと理解が及んだ。それでも、必要であれば行う事をためらう理由など無かったのだ。ただ、どうであろうか。トモエまでもが話を聞けと、そう勧めるのだ。つまりは、ここで選択を間違えてしまえばその先に待っているのはと、そう考えての事なのだろう。オユキにもそれくらいの理解はある。こちらに来てからも、かつてと同じように。オユキがトモエの事を考えるように、トモエもオユキの事を考えている。それを疑うことなど当然ない。

「はっきりと言いますが、どちらの選択肢にしても、私の不興を買う事には違いありません」

結局のところ、オユキとしての不満はただ一点に集約される。

「今回、私は魔国へ来ること、それについてささやかですが、とても大事にしていることを為すためにとしていたのです」

それこそ、こちらに来てトモエが口にした願い。今はオユキがこちらに残る目的。それを叶えるためにと、そのために時間を使うことが出来るだろうと考えていたのだ。それを盛大に邪魔をしてくれたこの人物、その背後にいるクレリー家。遠因をたどれば、現国王とミズキリ。そちらに対してはっきりと苛立っている。何より、そうした八つ当たりを今己がこの基本的には無関係と分かっている自分つに向けざるを得ないこの状況こそが気に入らない。
他の選択肢は、確かにあったのだろう。
それこそ、ここまで体調が悪くなければ、少しは回復した今であれば思いつくことも多い。しかし、選択の時は既に去った。

「いまさらと、貴女はそう感じているのでしょう。ですが、それを選んだ相手がいるわけです」
「ええ、理解はしていますとも」

そして、目の前の相手にしても。
はっきりと愚昧と呼んでも問題がないだろうクレリー家の者達、その中から、少なくとも己の能力を使ったうえで癒えの存続を果たす方法を考え付いたのが、間違いなくこの目の前の存在。

「ですから、助けることなど不可能だと、その理解ももはや」

そして、目の前の人物は既に覚悟を決めている。
軟禁状態を受け入れたのは、どうせ死と言う結末しか存在しないとそう理解しているからこそ。
トモエとオユキの元にいる異邦人、それを求めたのはせめて末期の時まではまだ見ぬ芸術に触れ、心豊かにと願っての事。つまりは、人の晩年における趣味を持つ、それを愉しむ時間を求めた結果として。
ここで、オユキも理解できることとして、相手の姿がはっきりと。

「気が付いた時には、手遅れだったのです」

そして、結論を出すことなく彼女が滔々と訴える。
それは、被害者としての理屈。しかして、オユキにとっては加害者としての理屈。カリンが語らざるを得ないと、そう話して聞くことを善しとしなかったもの。しかし、サキがそれをオユキの前で語り、選択してしまったという事実が存在する事柄。この人物は、知らないはずだ。そうした事実が存在しているというのは、要はミズキリと現国王がこうした実情を理解したうえで、今回の場を用意したのだ。

「当家が、サクレタ公爵家と共同して動かざるを得なかった」
「ええ、五公として存在しており、ユニエス公爵家の家督を持つ者が、マリーア公爵領に」
「危機感を覚えるのは、ええ、当然の帰結でしょう」

とにもかくにも、間が悪かったのだ。
アルゼオ公爵家は、魔国との繋がり、王太子妃の存在がある限り盤石だ。何よりも、魔道具の需要と言うのは過去の世界における機械の類と全くもって遜色が無い物だ。つまりは、他の二つはそれぞれに求めなければならないものがあった。他国との繋がり、それを求めてみても良いのだろうが、生憎と最も近い国はサクレタ公爵家にとってみれば神敵と定められた者たちの国。クレリー公爵家については、オユキの理解が未だに及んでいないものではあるのだが。

「公爵家として、拮抗しなければならなかったのです」
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