憧れの世界でもう一度

五味

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27章 雨乞いを

他の場所では

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「今頃は、オユキさんも時間を使っている頃でしょうか」

ここ暫くは常の事として、町の外に出て太刀を振るう日々が続いている。
少し前には、アンソクコウノキを伐採するために刃を使わねばならなかったのだが、それも今となっては懐かしさを感じるほど。一応は、香木としてある程度の量はトモエとしても確保をしている。オユキのほうでは、やはりよく分からぬと言った様子ではあるのだが、生前と変わらず軽く香りを付けた衣服に袖を通すことには違和感を覚えていない様子。寧ろ、そうでは無い物に比べて、どことなく嬉しそうにするのだからわからない物でも無いはずではある。少なくとも、トモエとタルヤ、一応はそうした話をされたシェリアにしても理解をしている。知らぬは本人ばかり、そうしたことのなんと多い事か。

「トモエ卿は、宜しかったのですかな」
「ええ。オユキさんには必要な事でしょう、それから、こちらの皆さんにも」

トモエのほうでは、正直オユキが感じるような己の中から何かが失われる感覚、そうした物を覚える事と言うのがいよいよない。オユキで不足する物、それは創造神に与えられた功績を通して、トモエからも支払えると言いう事は理解している。確かに、余剰の功績を示す器、これから色が抜けていくのもここまでの間で理解はしている。だが、そこまで。始まりの町でカナリアにマナの枯渇を言われたときにしても、正直理解が出来ていない程度。疲労は、生前にも得たような、根深い疲労と言うのはしっかりとした実感があった。だが、オユキのように体調を崩すほどの物があったのかと言われれば、やはり違う。必要であれば、トモエからもしっかりとと望んではいるのだ。それが叶うのならば、オユキは今ほどの事を得ていないだろうと思うからこそ、変われるのならばと心より願ってはいる。今もこうして、首から下げる器から色が抜けるこの時にも。
そも、トモエとオユキの想定では、立場が逆であるのが本来の流れ。だからこそ、考えることがある。叶わぬ事を、それでもと望んでしまう。

「死を望む相手を、それに向き合う覚悟を持つ者を」
「オユキ様自身で、説得せよとは、また酷な事を」
「ええ、理解はあります」

ローレンツの言葉に、トモエも当然そんなことは理解しているのだとそう応えるしかない。

「ですが、ここでオユキさんがクレリー公爵家を完全に追い落としてしまえば」

そう、トモエに対して面倒を運んだあの家を、オユキは許してはいない。今後の邪魔になると、今後もつまらぬことを持ち込んでくるとはっきりと警戒している。過去に起こしたことに対して、はっきりと敵意を向けている。だが、その感情に従って、こちらの世界で選択する方法を選んでしまえば。

「オユキさんの決断は、そこで決まってしまいますから」

そう話しながらも、トモエはやはり己の太刀を一度見る。ローレンツとこうして話しながらも、やはり周囲から忽然と現れる魔物を切り捨てる手は止められない。相も変わらずよく分からぬ人形、マリオネータ等と呼ばれているらしいのだが、繰りても無いと言うのにきちんと伸びている糸。粘性の体を動かす、スライムと呼ばれている魔物。どうにも、ミリアムの力によってはやされた樹木がきちんとアイリスの祖霊による加護を使ったらしい。ここまでに見ていた、前回訪れたときには見なかった動物型の魔物、日々の糧として肉などに変わる魔物と言うのがすっかりと数を減らしてしまっている。
そのアイリスのほうはと言えば、雨乞いを行うと聞いて以降はそちらはそちらで色々と予定が埋まったようでセラフィーナとイリア、加えてこちらで見つけた何人かの者達。そちらと、日々忙しく祭祀を執り行うための準備に励んでいる。雨が降る事を喜ぶ素性であるらしく、カナリアが行う物に合わせてそちらはそちらでと考えているらしい。豊穣祭、これから先の実りを願う祭りにしても、日が近い事もある。トモエなどは、てっきりそちらに合わせるのかと思えば、どうやらそのころには一度神国に戻ってそちらでもとするのだとか。

「やはりと、そう思いはしますが」
「ええ。オユキさんは、これから先最早とそう考えています」

トモエにとって、楽しい事はある。だが、オユキには無い。こちらに来た時、その流れをかつてオユキ自身がはっきりと口にした。その言葉を、何の気も無しにオユキは口にしたのだろうが、だからこそ本音に近い物だとトモエは考えている。

「私が居なければ、オユキさんはただこちらを確かめて。かつて己が時間を使った世界は、確かにこのようであったと確かめて」
「そして、多くの狩猟者とと言うわけもありませんか」
「ええ。恐らくは、かつて見に行ったと語っていた場所、それを目指す最中でやはり結果を得た事でしょう」

何処かそこらで。
かつてオユキははっきりとそう語った。
当人としては、自身を顧みてそれが間違いないだろうと、そうした話をしただけなのだろう。だが、トモエにしてみれば、ああ、それが根底にあるのだと確かに感じる一言ではあった。どうにもならぬ憧れが、かつての両親その気配を感じるからと没頭していたものをもう一度確かめて。そして、かつてであればどこまでも存在しなかった、オユキは基本的に係わってい案かったはずの人が暮らす場に存在する煩わしさにやはり辟易として。
さて、オユキがそうなったときには、ミズキリが、オユキにとっての古なじみが、もしくは神々がなにがしかの手を打ったには違いないのだが、それはもはやトモエの知っているオユキとはやはり異なる存在だ。そうした流れを得るのだろう、トモエが納得のいく結末と、思考とは違う過程をたどるオユキ。それは果たしてどう呼ぶべきものか、かつての世界ではそうした思考実験なども行われていたはずではある。

「私だけ、それで足りるのならば良いのですが」
「トモエ卿は、随分と頼られているように」
「それこそ、生前と変わりません」

トモエの未練は、はっきりと言ってしまえばオユキそのもの。

「私だけで十分、それが事実であれば、オユキさんはこちらに来ていませんよ」

そう、過去の事でオユキはこちらに来ている。はっきりと、未練を持っている。トモエが、トモエだけで十分であれば、勿論このような結果を得ているわけがないのだ。お互いに。

「過去には、父をはじめとして子供や孫が」
「どうにも、オユキ様は身内と認識した相手には」
「ええ。私とは違って、随分と」
「本当に、宜しかったのですかな」
「仕方が無い事ですから」

ローレンツの疑問は、そんなオユキがクレリー家のあの令嬢、カルラと言う哀れな女性に対して、情を移してしまえば、その先はいったいどうなる事かと。ただ、トモエとしてはそれを踏まえた上でも今回の事は必要だと考えている。

「オユキさんは、皆さんが考えるよりもかなり頑固ですよ」
「そうは見えない。それがただ、よく知らぬと言う事なのでしょうな」
「ええ。基本は外行きです。例えば、いえ例えと言う事もありませんか」

そう、事ここに至っても、夜の時間をオユキが大事にしている。トモエとゆっくりと過ごす時間が大切だと、そう考えて日々を過ごしている。時には、そこに他人を招くこともあるのだが、向かい合って座るのはやはりトモエと。他の者達と向き合っているのかと言われれば、やはり配置は過去子供たちに許していたような配置ばかり。

「オユキさんは、本当に心を許す相手と言うのが少ないのですよね」

今も昔も変わらず。表面上は、社交性を身に着けてしまっているから、困ったものなのだ。これが、トモエのように実に分かりやすい態度であれば、まだ問題が少ない。人当たりよく、柔和な様子で振る舞えてしまうからこそ、周囲の勘違いを助長する。それを、罠として平然と使って見せるだけのしたたかさも、すっかりと身に着けてしまっていることもある。

「だからこそ、こちらでもユーフォリアさんが側に居てくれればと、そう考えるのですが」

あの人物は、随分と色々と上手いのだ。それが当然とばかりに、ユーフォリアは気が付いていたのだから。トモエが大分後になって気が付いたこと、人との距離の取り方がオユキにしても独特だと。それがあったはずだと言うのに、オユキは随分と気やすい、トモエに対して向ける物ともまた異なる関係性を随分と早くに築き上げていたものだ。一応、神国に戻るミリアムにたいしてトモエからも強く言ってはみているのだが、どうにも反応が鈍い。本人としても、間違いなく望んでいることだろう。だが、どうにも様子をうかがっている限りでは事今回の問題に関しての調整を頼まれている以上にオユキが改めてと望んだ式の調整、そちらを任されている様子でもある。

「自業自得、そうとしか言えないのですよね」
「トモエ卿も、政治面は苦手と言うほどでもなさそうですが」
「得意ではありませんし、見ず知らずの相手が何を考えているかそれはわかりませんから」

こうして、ローレンツが、騎士として身を成した人物が当然としてできることも、トモエにできるようなものではない。

「とすると、トモエ卿は」
「ええ、以前の物ははっきりと脅し、ですね」

どうにも、あのままの流れでは、あまりにオユキを軽視する流れが変わらぬだろうと、そう考えたからこそ踏み切ったものではあった。だが、どうだろうか。声を上げてみたものの、やはりこちらの者たちは多少の配慮を行いながらも、それでもオユキに対して実にあれこれと。制限時間まで、明確にしてしまったのがまずかったのだろうか。トモエとしては、そればかりをただ反省する日々。しかし、今のままでは、やはりそこまでオユキが持つと思えないのもただ事実。

「トモエ卿にしても、思慮の日々と言う事ですかな」
「本当に。人の世はままならぬ、かつての世界ではそう度々繰り返されていましたが」

思惑が多く絡む。自分だけではない、刃の理だけではない。そんな世界と言うのは、かつて一切かかわらなかったのもあるのだが、そこで根付いた価値観と言うのが実にはっきりとトモエにも苦手意識を与えてくれる。

「トモエ卿もオユキ様も、常々人に対して日々を愉しむためにと心を尽くされている様子」
「私達にも、あるにはあるのですが」

そう、こうなる前までは、王都に一度行かなければならなくなってからは、それにしても随分と遠い。魔国では、それができると考えていたのだが、それにしても今となっては。
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