憧れの世界でもう一度

五味

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27章 雨乞いを

嘆きの澱

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かつての世界、かつての舞台。そこから存在していたという四つの公爵家。
他国との交易を、数多の困難を乗り越えて成し遂げて見せたアルゼオ公爵家。
王家の血を絶やさぬためにともとより存在意義が確立していたユニエス公爵家。
そして、かつては存在しなかったあまりに成長著しいマリーア公爵家。

「私は、理解が出来ない事でしたが」

そうして前置きを作った上で。

「かつて、それこそどの公爵家も先代までは足並みがそろっていたのです」

何処も決定打を欠いていた、その事実が確かに存在していた。しかし、今の世代からは違ったのだ。はっきりとした成果を、二つの公爵家が挙げた。そして、残された三つのうち、一つはトモエとオユキが表れたことで頭角をはっきりと現すことになった。なってしまった。
だからこそ、残された二つの公爵家が大いに焦ったのだ。そして、そのままに。

「燃え盛る火が、ただ全てを覆っていくかのようでした」

抵抗もできぬ間に、速やかに。燃え広がる火が、ただただ覆いつくすかのように。
焦りに押されて、目立つ功績を。他家に劣らぬものをとただただ求めて猛進して。その結果が、今回の事に繋がった。焦れば、確認を怠れば、この世界に存在している悪意の塊は容赦なくそこに漬け込むことになる。マリーア公爵領でも、南部の者たちがそうなった様に。そして、徐々に周囲が狂っていく中、この人物はそれを非常に客観的に見てしまう立場であったらしい。
それは、はっきりと悲劇と呼んでもいい物だろう。
狂乱の渦の中、周囲が明らかにおかしい事を言い出す中。己がただ一人その熱に染まれぬままに、傍観するしかない状況。何を言っているのか分からぬと、そう口に出した結果どうなったのか、それが要は今の彼女の諦観の理由。

「これまでは、これまでも新興の家だと下に見ることが出来た公爵家、そこが随分と頭角を現して。以前からも変わらず、その能力だけをもってかなり国政においても権勢を伸ばしていた」

マリーア公爵家に対する外部からの評価と言えばいいのだろうか、それを聞くのはオユキにとっては初めての事。思い返してみれば、生活の場としていたのは基本的にはマリーア公爵領だけ。アルゼオ公爵領については、いよいよ初めて魔国に向かったときに完全に通過する場所でしかなかった。もとより、しっかりと体調不良をその時にも抱えていたため、とてもではないが観光などと言って出歩く気になれなかったこともある。

「そんな家が、王太子妃様のご出産と言う、非常に大きな国事。それにユニエス公爵家と共に間にあった等と聞けば、不要な勘繰りなどと、そう言えるものでしょうか」

勿論、それを行うきっかけとなった者たち。トモエとオユキその存在も知っているのだと。

「それから先の話も、実に華やかな物ばかり。リース伯爵家、マリーア公爵家から分かれたその家には、創造神様からその言葉を語るための印が。さらには、インスタントダンジョンと言う、実に分かりやすい神々の奇跡すら与えられ」

調査が足りぬと、ミズキリとオユキが断じた事柄ではある。しかし、外から聞かされた者たちにとってみれば、本当に理解の及ばぬ出来事であったには違いない。
これまで存在していた、各拠点における資源。それ以外にも、それ以外の資源を魔石を捧げることで回収可能な新規の施設を作ることが出来るのだとそう言われたところでという物だ。為政者にとってみれば、ではこれまでの己の苦労は、様々な計画は何だったのかとそういう話になる。町から町への移動すら難しいこの世界で、どうにか物流を行い続けてきた者達が承服できるような内容ではない。挙句の果てには、制作出来るものが初期は、その情報が公開された時には少なすぎたというおまけまでついて。

「さて、巫女としての位を与えられた異邦人。そして、今私に対して決断せよと迫る貴女」

それだけの積み重ねを。あまりに急な変化をこの世界に齎したものに対して。

「客観的に聞いてしまえば、ええ、然も有りなんとそう言うしか無い物ですね」

一年と少し。
本当に、たったそれだけの期間で、引き起こした数々の事。アルゼオ公爵家だけであればよかった。かの家は、それこそを己の家が行うべき事業と定めて、長くまい進してきたのだ。この時期に結実を迎えたのだとして、労苦を知っている者たちからすればよくぞやり遂げたとそう言う事は出来ただろう。ユニエス公爵家、もとより王家の者が玉座を辞退した時に名乗るべき家として用意されていた家にしても、国策として動くのだと言われれば飲み込むこともまだ可能であった。
しかし、マリーア公爵家までがそれに比肩する功績を次から次へと積み上げたのが何より問題だったのだ。
ただでさえ、神国に存在する二つの神殿、そのうちの一つを領として持っているその家が功績をあげてしまったと言う事が何よりも問題となったのだ。

「恨み言は以上でしょうか」
「ええ、貴女はそういうのでしょうね」
「他に、言いようもありませんから」

そして、ここまでカルラの語る評価を色々と聞いたうえで、やはりオユキの考えと言うのは変わらない。

「確かに、私が、トモエさんが起こしたこともあります。切欠を作った、それも間違いのない事実でしょう」

流石に、オユキとしてもはっきりと自覚をもって行ったことも、相応にあるのだ。ならば、それについては否定できるようなものではない。だが、子の恨み言に対しては明確な反論と言うのがオユキには存在している。

「では、ただそれを黙ってみていただけの方々に、私たちが特にともたらしたマリーア公爵家以外の二つの公爵家。そちらと、何か話し合いを持たれたのでしょうか。負けぬだけの物を積み上げるのだと、行われたことはあるのでしょうか」

為すべきを為せ。他人をうらやみ、ただ己の境遇を嘆く。それが許される立場では無かろう。それがどこまで行っても、オユキの評価だ。

「他者を取りまとめる、そうあれかしと望まれる立場」

オユキの考える、貴族として、人の上に立つ者として。求める物は、至極単純。

「指針を示し、実現のための道を敷き、それに向かってよく人々に語る」

マリーア公爵は、正しくそれを行っている。トモエとオユキが持ち込む種々の事。これがちょうどよい機会だとばかりに顕在化される、あまりに多くの問題。その解決策と言えばいいのだろうか、こうすればよいのではと方々から上がる献策に正面から向き合い、それぞれに対して得られる利益、発生しうる損失。それらを只管に考え採択を行っている。事実、メイをはじめとした始まりの町であれこれと話し合いを持ち、決めた事。それらを公爵に諮ってみれば、他からの案なども取り込んだうえで更に洗練されたものとして返ってくるのだ。現場の者達として、まずは叩き台を作ってくれ、議論はそれらを踏まえたうえで十分に重ねるからと。
少年たち、年端もいかぬ子供であり、彼らの口にすることは凡そこうなればよいなとそんな願望。だが、その姿は確かに誰もが喜ぶ者だろうからと、達成の為にと本当によく尽くすのがマリーア公爵領でオユキの好んでいる相手だ。

「そうしたことは、当然行っていたはずだとそう考えていました」
「ええ。今回の結果が、あまりに明白な証拠なのでしょうね」

そして、そうしたことを日々行っていれば、領内に暮らす者たちにしても、多少の不便はあるのだとしても。己の知る領主の為にと残る選択を行っただろう。だが、現実はそうでは無い。新たにこの世界に生まれた空間を広げる奇跡。それを使った馬車。それらが国王の布告の後に、方々に向かって出発した結果として、それが当然とばかりに住民の移動が起こった。結果として人気が集中したのは、やはり王都。次点は、はっきりと恩恵を言い切ることが出来たアルゼオ公爵領。ユニエス公爵領とマリーア公爵領、ここはいよいよどちらがと比較するのも難しいとそう言った結果となっている。

「住民の賛同を得られぬ為政者たち、そのような物を残す理由が私にはわかりません」

残されたのは、さてどの程度の数の住民か。いよいよ戦う力を持たぬ者たち、日々の生活を細々と送っていた者たちの大半が移動を選択したと聞いている。そして、移動を望んだ者たちの一部には、領で取り立てられた騎士も混ざっていたと聞いた。もはや末期と呼ぶのも、甚だ可笑しな状況だ。神々から、この先拠点を増やす必要が無いと、既にそうした宣言がなされたと言うのは誰もが知っている。だからこそ、オユキとしては失われても構わないのだと、そう理解している。もはや、この世界において、必要も無いだろうと。

「であれば、ここで一度大きく整理と言うのも良いのではないかと」

そう、オユキの基本的な考えは、既にそちらに傾いてしまっている。特に、今後の移動を考えたときに泊っても構わない場所、泊まらなければならない都市が増えると言うのも、やはり面倒ではあるのだ。特に、こうなる原因を見事に作られることになった、アベルの一件がある。オユキにとっては、やはりそうした物が重なれば、トモエと楽しくあちらこちらを見て回る時間が削られると、ただそれが事実なのだと考えるに至っている。

「はっきり言いましょう。巫女としての位は頂いています、それを理由にして、盾として使う事は今後もあるでしょう」

だが、オユキにとっては、そうした結果として受け入れられることと、そうでは無い事が存在している。

「そうして貴女が哀れな者を装って、それで私が何かすることなどありません。故に、助けを求めると言うのであれば、対価を示すのが良いでしょう」
「私の話したことなど、既に想定していたと言う事ですか」
「ええ。いえ、話していただいたこと、それで色々と確信が持てたので無駄と言う事はありません」

そして、改めてオユキはため息を一つ。
聞かされた話など、当に理解していることだ。パワーゲームが常となっている世界で、それを大いに乱すような真似を行えば、そこで生まれる軋轢がどうなるのかなど、理解していたことだ。過去、己もまさにそうした場面を目にし続けてきたのだから。

「故に、ここで決断を」
「では、私もお尋ねしましょうか」

互いに、根深い嘆きを抱えた者たちが、神の前で、容赦なく内面を曝け出せと言われ、話し合いが続く。
結局、互いに互いで、己の言葉で相手ではなく、己を傷つけて。
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