憧れの世界でもう一度

五味

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27章 雨乞いを

結論は

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「私が、仮に助けを求めたとしましょう」

ここでいう、彼女を救う事。それが示すのは、彼女個人をと言う訳では無い。

「当家を救うのだと、そう貴女様が、巫女様が仰せであったとして、可能とはとても思えません」
「可能だと、そう申し上げたとしたら」
「信じられませんわ」

求めているのは、家の救済。もはや取り返しがつかないと、彼女がそう考えているクレリー家。そこで、今も暮らしている良き人々。助けるべきと彼女が考える者たち。そこまでを普く救って見せよと、カルラはそうオユキに語る。そして、オユキに対して、それに至るまでの道筋を提示して見せよと。
言葉だけで、ただ、可能だなどと言ったところで納得など出来るものかと、ただその視線が語っている。

「方策は、あるにはあるのです」

しかし、色々と。それこそ、サクレタ公爵家にすら活用ができる方法と言うのは、オユキも既に見出している。ミズキリをはじめ、マリーア公爵とも既に相談していた事柄ではある。ただ、そこで発生する面倒ごと、それをオユキが引くけても構わないのかと、ただただそうした条件が付きまとう方策が。

「雨乞い、これが上手く行くのだとすれば、そこで得られるものは非常に大きいのです」

水と癒しも喜ぶ祭り。
これまで、農耕を行うと言うのに土地を富ませるために使っていたのは魔術ばかり。水と癒しの奇跡を、人が生きる上でも、その他の生命が生きる上でも基本的に必要となる、水という物。それをこれまでは、教会の奇跡にばかり頼ってきた。そうでは無く、いや勿論教会に関わる事ではあるのだが、少なくとも他の者達でも主導可能な祭りを行える。結果として、改善されることはあまりにも多い。食料の不足、町の中で生産される食糧が間違いなく増える。水害は、トモエが聞いた話も総合して考えれば、この世界では起こりようがない。以前に聞いた、水と癒しの神からオユキが直接聞いた話としても、世界全体の水量を増やすのはまだ先の予定とそんな話も合った。要は、水量を増やすために必要な仕組みが今回の事。

「道の維持は難しくとも、水路の維持はやはり難易度がある程度下がります」
「教会、ですか」
「そればかりではありませんが」

ミズキリという、一応本人は慣れていないと、今回が初めてだと言いながらもそれでもウニルから始まりの町まで水路を引いて見せた。要は潤沢な魔石があれば、領主としての権限を正しく振るえるならば、可能なのだ。そして、水路としてゴンドラが進む環境が、領都で見ることもできた。王都にもあると、そんな話を聞いた。加えて、水路として作成されたものには、魔物が発生しないのだとそうした報告も既に受けている。助けになる仕組みは、既に多く存在している。それらを活用すれば、最早安全な往来と言うのも、時間さえかければ可能となる。
今後試すべき項目、既に決まっている調査項目として船舶にも馬車で扱える空間拡張の魔術が利用可能なのか、実際に積み荷を大量に載せてみて、運航が可能なのか。それらも既に始まっている。結果としては、十分以上と呼べるものが既に得られていることもある。

「そこまでを行っておいて、何故」
「回答としては、至極単純です。それらの費用を、では払うべきは誰でしょうか」

解決策は、十分な物が存在している。救うだけなら、交易をおこなうだけなら時間がかかると言う一点を無視すれば単純明快な理屈があるのだと。そう語るオユキに対して、カルラの疑問と言うのは救いを求めるものとしては至極もっともな物。ただし、それに気が付かぬ為政者、その評価をただ下げるだけの質問として。オユキにとって、己の評価と言うのはやはりどこまでも低い。他から与えられた環境、教えられた事。それらがあくまで自分を為しているのだと、ただそう考えている。実態としては、教えたはずの人間にしても、なぜそこまでの飛躍ができるのかと考えているのだとしても。

「神国でしょうか。確かに、王領とされている範囲、その整備であれば神国が、王家が行うべき事なのでしょう。ですが、地方に住まう領主として、確かな権限が与えられている方々、そちらの領度は」

国王の宣言と言うのは、ここにもかかっているのだ。

「各領での自由な歩みを、陛下は既に保証されました。神国に対して、王領を持つ王家に対して求めるのであれば、交渉をもってそれに応えようと」

つまりは、水路を、安全な交易手段を求めると言うのであれば、対価を支払えと。

「ですが、それはこれまで我が領が納めた物が」
「その理屈をもって、では神国と交渉を行うが良いでしょう」
「それは」
「ええ、失敗したのでしょう」

あの強かな存在に、このカルラと言う人物ではとてもではないが太刀打ち出来ない。不足があまりに多すぎる。いってしあめば、ミズキリと同類と言う事は、オユキのはるか上を行く存在なのだ。そんな相手に、オユキ程度が思いつくことすら考え付かぬ、そんな者たちが向き合ったところでいよいよいいようにされるだけ。

「気が付いているのでしょう」
「何を、でしょうか」
「こうした会話でさえ、今回行う決断でさえ、掌の上ですよ」

だからこそ、オユキとしては気が乗らない。

「此処で如何なる決断を下したとして、陛下の思い描くものを超えることなどできはしません」
「巫女様」
「つまりは、今回貴女が押し込まれた、私たちが退けることが叶わなかった、その時点で」

どちらを選んだにせよ、結果は変わらない。
神国が、ただ得をする。そのためだけに動かなければいけない。
仮にクレリー家が失われるとして、神国の庇護から外れるとして。神国としては、既に回収可能な人的資源の回収が終わっている。そちらに対して今後の動機付けを行うのならば、失地回復を謳うだけで何ら問題がない。そして、そうでは無い手段を選ぶと言うのならば、神国の取引相手として改めて名乗りを上げると言うのならば。やはりこれまでと何ら変わりのない仕組みを構築することになる。神国は、多量に向けて引く水路、その維持を王領だけで考えればよい。資源を送る、その販売益に対して、維持費用を乗せて。
過去にもよくある、実にありふれた仕組みづくり。
そして、その仕組みの中に、統治体制の中に容赦なく他を組み込み続けていくのだ。

「仮に貴女が救済を望むとして、既に陛下に言われたことがあるのでしょう」
「はい」
「そして私の考える手助けと言うのは、その流れの外にある物ではありません」

つまり、オユキとしてできる今回の手助け。クレリー家の領地を救う方法と言うのはその延長戦にしかないものだ。それ以外の方法と言うのも、これから先考えていけば見つかるのかもしれない。だが、正直それを置こう余力を使う気が今は無い。そうした内心は抱えたうえで、語るでもなく

「私たちの家が、たった一度の過ちで」
「軽度な物であればまだしも、神国に対して一度弓を引いたのです」

たった一度の過ち、過失だと呼ぶには過ぎた物。トモエに、何よりオユキに人命を奪うと言うかつての世界で生きた者たちにとっては、とてもではないがあまりにも過剰な負荷を与える選択。やはり、それを随分と軽視しているこのカルラに対して。オユキの評価と言うのはどこまでも下がり続けるのだ。
命を奪わなければいけなかった者たち。オユキが直接手を下したのは、間違いなく今も同席している戦と武技の与えた印、それを持つ者達だけ。だが、他は違う。トモエですらも、異なるのだ。
そんな選択をせざるを得ない状況を作った家に対して、明確な敵に対して情けをかけるだけの物をオユキは持ち合わせてはいない。
手を汚す、それ自体を厭う気はない。だが、必要性については正しく考慮されなければならぬ。
オユキの考えと言うのはそれだ。

「我が巫女よ」

尽く突き放すオユキの態度に対して、ここに至って、戦と武技から。

「その方の思いは、我にも届いておる。我にしても、甚だ疑問ではある」

前置きとして、戦と武技にしても、今目の前にいる相手、それが救いたいと考える存在にそのような物を与える気はないのだと。そう、作った上で。

「しかしながら、我らもやはり単独ではないのだ」
「それは」
「はっきりと告げよう。我が姉たる月と安息、水と癒し、それ以外にもいくらかの柱が、その方に対して許すようにとそう考えているのだ」
「神々は、人の自由な歩みを認める、そうではありませんでしたか」

ただ、戦と武技の言葉に対して、オユキからの言い分と言うのも存在している。そして、万が一否定されるのだとすれば。

「我は、それを行う事はない。先ほどの言葉を繰り替えそう。此度の他の柱の思惑、それを我は認めてはおらぬのだとな」

そう改めて前おきを作った上で。

「我以外の、事今回の流れに対して目の届く他の神々。そちらについては、やはり我と意見を異として居る」
「つまりは、死を望むものを受け入れないと、そういう事ですか」
「結論だけを述べればな」

つまり、実態としてそこにある流れは異なるのだと。

「無論、その方らではまだ見えぬ流れ、その先にある物を考えての事でもある。我としても、そこまでを考えたときに、その方らが設けている時間の制限、それがある以上はやむなしと、確かに納得せざるを得ないものが、やはりそこにはあるのだ」

そして、これまでであれば語られなかったであろう背景が、一部とはいえ戦と武技から明かされる。
神々も、やはり一枚岩ではない。そこには、それぞれの思い描く未来という物が、この先世界をどのような位置づけにしたいのかと言うどこまでも相いれないそれぞれの存在意義。それについては明言する事は無く、しかして今回の事はそれに大いにかかわる問題なのだと。だからこそ、力を持つ柱が、問答無用でその権能を使うのだと。

「我らにしても、はっきりと今はとらわれている仕組みに抵触する。法と裁き、そちらから警告も何度となく受けてはおる」
「それを押してもと、そういう話ですか」
「うむ。事、この件に関しては係わる者が関わる事柄が広範に過ぎる」
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