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「あのお店のケーキも食べてみたい」
「そうか、そうか……でもな?イト……腹がはち切れるから今日はこれでケーキは終わりにしろ?な?」シュンスケはケーキの上に更にケーキのお強請りをしてくるイトにケーキが入った箱を掲げて見せる。
商店街にはどうやら何個もケーキ屋があるようでイトは見るたびにシュンスケにケーキを買うよう要求していたからだ。
「……そうだ。また来よう、な?また……」
「はい」イトはシュンスケの言葉に頷いたけれどきっともうこうして商店街に来ることはないだろう、と思った。
(はぐれて……結局シュンスケは私と合流しちゃったし……般若怒ってるだろうなぁ……)
イトがしょんぼりしていると八百屋の店主がイトに向かって手招きをしてくる。
「……?」イトが素直にフラフラとそちらに行くとみかんを割って1/4くれた。
イトが不思議に思っているとシュンスケが後ろから「試食ですか?イト、食べていいって」と教えてくれたので口に入れる。
「美味しい?」店主が聞いてきたので「美味しい!私、初めてみかんを食べました!」とイトが嬉しそうに言うと店主は「ほうか!ほら、もっと食べりい」と次々にみかんを渡した。
シュンスケは慌てて「あ、買います!買いますので」とそれを阻止している。
「みかん……お餅の上にのせるだけじゃない」
「みかん美味かったか、イト」シュンスケは片手で箱入りのみかんを抱えて持つとイトはおまけでもらったみかんを袋にぶら下げる。二人は空いた手を繋いだ。
「美味しかったです。食べられない飾りだと思っていました」
「飾り?ああ……鏡餅か」
イトは正月前に行った奉公先の玄関で見た鏡餅を思い出す。
そこの家の人はとても優しくて私の視線に気付くと「それは鏡餅で、上に乗ってるのはみかん」だと教えてくれたのだ。
「もう持てないからいただいても買えないのですが……」
「いいから食べて行きなさい」肉屋の前を通ると、店主が揚げたての惣菜を油紙で挟みイトに渡してきた。
「いや、お代を……」シュンスケが慌てて財布を取り出そうとすると「いらない。サービスだから。ほら、その辺りでゆっくり食べな」店主はそう言って笑いイトとシュンスケに手を振って追い払った。
「……?」
「……腹がいっぱいか?せっかくいただいたし……腹が空いているなら食べたらいい」イトはその惣菜を半分に割るとシュンスケに片方あげた。
「では半分は旦那様に」
「ははは、ありがとう」
齧るとホクホクした食感の惣菜はイトの口に物凄く合った。
「コロッケだな……」
「コロッケ?美味しい」
「美味いな、イト」
シュンスケは爽やかに笑うとイトを覗き込んだ。
イトはなんだか顔が熱くなる気がして「はい」と俯いた。
それからも道を歩くたびに食べ物を扱うお店から「試食」を貰う。「商店街ってお腹がいっぱいになりますね」
「……こんなことはあまりないが……何か特別なんだろうか」シュンスケがイトの口元についたソースを拭うと「もうそろそろ帰るか」と言った。
(やだなぁ……般若のいる家に帰るの…でも……お腹が苦しくなってきたし……)
「……はい」
「乗合バスで帰るか」シュンスケはそう言うとバス停までイトを連れて行った。バス停にはトタンで囲われ、木でできたベンチがあってシュンスケがイトに隣に座るように促した。
「まだ少し時間があるな」
シュンスケは腕時計を見るとそう言ってイトの手を握った。
「寒くないか?」
「大丈夫です」
シュンスケの手は大きくて温かくてイトを安心させた。
辺りには人気は殆どなくて、時折ガラゴロと車が音を立てて通り過ぎて行く。
イトはぼんやりとそれを眺めた。
「イト」
シュンスケに名前を呼ばれたので顔を上げるとイトの頬に何かが当たった。
「え?」
イトがシュンスケを見ると彼は顔を真っ赤にしていたので(どうしたのだろう……)と声を掛けようとすると乗合バスがやって来たので有耶無耶になってしまった。
家に帰ると般若が玄関で待っていて、その後ろからサツキがひょっこりと顔を出している。
「すみません。はぐれてしまって……」とイトが謝罪をすると般若が怒りを露わに「シュンスケと……何もしてないでしょうね?」とお決まりの質問をしてきたので、(何かって何?)とイトが口を開こうとした時「何もないですよ。二人で商店街を歩いて買い物をしただけです。な?」とシュンスケが言った。
「ほらね?おばさん!シュンスケがイトさんに手ぇ出すわけないじゃん!なーシュンスケ!」とサツキが義母の肩を叩いた。
イトは(やっぱりサツキさんは優しいなぁ)とニコニコしていると義父が「とにかく無事でよかった」とボソリと呟いたので般若は怒りを鎮めるしかなかったようだ。
「でも!シュンスケ!お前には約束守ってもらうからな!」とサツキはシュンスケを睨みつけている。
「約束……」
「なんでも買ってくれるって言ったじゃん!楽しみにしてたのにさ!」サツキがそう言うとシュンスケは「あー……そ、それは……」と気まずそうにイトを見たのでイトは慌てて「あ……わ、私……荷物を置いてきますね!」と部屋に引っ込んだ。
(流石に一応事実上の妻の前では言えないこともあるよね)
イトはそう思いながら部屋の襖を閉めた。
「そうか、そうか……でもな?イト……腹がはち切れるから今日はこれでケーキは終わりにしろ?な?」シュンスケはケーキの上に更にケーキのお強請りをしてくるイトにケーキが入った箱を掲げて見せる。
商店街にはどうやら何個もケーキ屋があるようでイトは見るたびにシュンスケにケーキを買うよう要求していたからだ。
「……そうだ。また来よう、な?また……」
「はい」イトはシュンスケの言葉に頷いたけれどきっともうこうして商店街に来ることはないだろう、と思った。
(はぐれて……結局シュンスケは私と合流しちゃったし……般若怒ってるだろうなぁ……)
イトがしょんぼりしていると八百屋の店主がイトに向かって手招きをしてくる。
「……?」イトが素直にフラフラとそちらに行くとみかんを割って1/4くれた。
イトが不思議に思っているとシュンスケが後ろから「試食ですか?イト、食べていいって」と教えてくれたので口に入れる。
「美味しい?」店主が聞いてきたので「美味しい!私、初めてみかんを食べました!」とイトが嬉しそうに言うと店主は「ほうか!ほら、もっと食べりい」と次々にみかんを渡した。
シュンスケは慌てて「あ、買います!買いますので」とそれを阻止している。
「みかん……お餅の上にのせるだけじゃない」
「みかん美味かったか、イト」シュンスケは片手で箱入りのみかんを抱えて持つとイトはおまけでもらったみかんを袋にぶら下げる。二人は空いた手を繋いだ。
「美味しかったです。食べられない飾りだと思っていました」
「飾り?ああ……鏡餅か」
イトは正月前に行った奉公先の玄関で見た鏡餅を思い出す。
そこの家の人はとても優しくて私の視線に気付くと「それは鏡餅で、上に乗ってるのはみかん」だと教えてくれたのだ。
「もう持てないからいただいても買えないのですが……」
「いいから食べて行きなさい」肉屋の前を通ると、店主が揚げたての惣菜を油紙で挟みイトに渡してきた。
「いや、お代を……」シュンスケが慌てて財布を取り出そうとすると「いらない。サービスだから。ほら、その辺りでゆっくり食べな」店主はそう言って笑いイトとシュンスケに手を振って追い払った。
「……?」
「……腹がいっぱいか?せっかくいただいたし……腹が空いているなら食べたらいい」イトはその惣菜を半分に割るとシュンスケに片方あげた。
「では半分は旦那様に」
「ははは、ありがとう」
齧るとホクホクした食感の惣菜はイトの口に物凄く合った。
「コロッケだな……」
「コロッケ?美味しい」
「美味いな、イト」
シュンスケは爽やかに笑うとイトを覗き込んだ。
イトはなんだか顔が熱くなる気がして「はい」と俯いた。
それからも道を歩くたびに食べ物を扱うお店から「試食」を貰う。「商店街ってお腹がいっぱいになりますね」
「……こんなことはあまりないが……何か特別なんだろうか」シュンスケがイトの口元についたソースを拭うと「もうそろそろ帰るか」と言った。
(やだなぁ……般若のいる家に帰るの…でも……お腹が苦しくなってきたし……)
「……はい」
「乗合バスで帰るか」シュンスケはそう言うとバス停までイトを連れて行った。バス停にはトタンで囲われ、木でできたベンチがあってシュンスケがイトに隣に座るように促した。
「まだ少し時間があるな」
シュンスケは腕時計を見るとそう言ってイトの手を握った。
「寒くないか?」
「大丈夫です」
シュンスケの手は大きくて温かくてイトを安心させた。
辺りには人気は殆どなくて、時折ガラゴロと車が音を立てて通り過ぎて行く。
イトはぼんやりとそれを眺めた。
「イト」
シュンスケに名前を呼ばれたので顔を上げるとイトの頬に何かが当たった。
「え?」
イトがシュンスケを見ると彼は顔を真っ赤にしていたので(どうしたのだろう……)と声を掛けようとすると乗合バスがやって来たので有耶無耶になってしまった。
家に帰ると般若が玄関で待っていて、その後ろからサツキがひょっこりと顔を出している。
「すみません。はぐれてしまって……」とイトが謝罪をすると般若が怒りを露わに「シュンスケと……何もしてないでしょうね?」とお決まりの質問をしてきたので、(何かって何?)とイトが口を開こうとした時「何もないですよ。二人で商店街を歩いて買い物をしただけです。な?」とシュンスケが言った。
「ほらね?おばさん!シュンスケがイトさんに手ぇ出すわけないじゃん!なーシュンスケ!」とサツキが義母の肩を叩いた。
イトは(やっぱりサツキさんは優しいなぁ)とニコニコしていると義父が「とにかく無事でよかった」とボソリと呟いたので般若は怒りを鎮めるしかなかったようだ。
「でも!シュンスケ!お前には約束守ってもらうからな!」とサツキはシュンスケを睨みつけている。
「約束……」
「なんでも買ってくれるって言ったじゃん!楽しみにしてたのにさ!」サツキがそう言うとシュンスケは「あー……そ、それは……」と気まずそうにイトを見たのでイトは慌てて「あ……わ、私……荷物を置いてきますね!」と部屋に引っ込んだ。
(流石に一応事実上の妻の前では言えないこともあるよね)
イトはそう思いながら部屋の襖を閉めた。
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