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(シュンスケ!あんた一体なにをそんなに取り乱しているのよ!)
イトが今まで見たこともない位取り乱したシュンスケを見てぽかんとしているとお互い目が合った。
「あ!いた!いた!いましたーつ、妻が……すみません」
「あ、いた?よかったよかった!はははは!」警護員は面倒事が解決したとばかりに笑うと「手でも繋いでなさいな」と片手を上げてまた人混みに消えて行った。
「……あれ?すみません……もしかして探してました……?」
「あ、あ、当たり前だろう……いなくなったのかと……」シュンスケはしょぼんとしながらも肩でホッと息を吐いている。
「すみません……人がたくさんいて驚いてしまって……」イトは申し訳ない気分になったのでしょんぼりした。
「いや、わかってる……君が慣れていないのは知っていたのに……タイミングを図っていたらこんなことに……すまん」
「……?」
「人が沢山いるから……て、手を繋ごう」気を取り直すように言うシュンスケにイトは動揺した。
「ええ!?いやいやいやいや……」
「また迷子になるぞ」シュンスケに魔法の言葉を唱えられてイトは渋々それに従わざるを得なくなりました。
「お義母さんがいたら離しましょうね」
「……わかった」
シュンスケの手はとても大きかったのでイトの手はすっかり隠れて見えなくなる。シュンスケは歩幅を合わせてくれたのかゆっくり歩くと「……何をしてた?」と聞いてきたので「そこのお店を見てました」とイトは答えた。
「片仮名だからわからなくて……でもこの前のケーキ?みたいなのが並んでる……ケーキ屋さん?」
イトはケーキによく似た商品がガラスのケースにたくさん並んでいる店を眺めながら首を傾げた。
「イト、そうだ。ケーキ屋だ。ケーキが欲しいか?」シュンスケは身を屈めるとイトの顔を覗き込んだ。
「……え?……いりません。見てるだけです」(お金ないもの)
「そ、そうか?いらんのか」
「はい」(シュンスケは私がお金を持っていないのを知らないのかも……外の人は普通に持っているのかもしれない……)
イトはお金はどうしたら手に入るんだろう……とぼんやり考えた。さすがのイトも買い物にお金が必要なのは理解している。
でもそれの手に入れ方がわからない……
「……ケーキ……食いたくないか?本当は欲しいんじゃないか?この前は少ししか食わせてやれんかったし……」イトがぼんやりしているのを見てシュンスケはそう言ってきたけれどイトにはお金がない……
「え?いやいや、本当にいらないんです」(煽るな煽るな!)
「そ、そうか?欲しいのがあれば言えよ?」
「は……はい……」(だから買えないんだよー)
イトは気を取り直すと隣の店を眺めた。商店街はイトが見たことない物ばかりでとても楽しかった。
イトがお店を眺めているとシュンスケが横から「欲しいか?」「買いたくないのか?」と煽ってくるのは若干鬱陶しいが、それでもシュンスケがいなければそもそも商店街は見られなかったんだし……とイトは気にしないことにした。
「イト、ほら……これなんかどうだ?服を一着買ってはどうかなー?と思ってるんだが……」
シュンスケはガラス張りのお店を指差すとそこにはマネキンがワンピースを着ていた。
イトはとても素敵だなー……と思ったけれど……しかし、お金がないので「とても素敵ですが……私、お金がないので買えないんです……せっかく勧めてくださったのにすみません」と申し訳なさそうに言った。
もしかするとシュンスケはイトがお金を持っていないのをやはり知らないのかも……と思ったからだ。
シュンスケの性格上意地悪く煽り続けたりはしない気がする。
「私のことばかりですみません。旦那様は何か欲しいものはないんですか?」
「な、なにを言っているんだ?俺が買ってやるから……ほら、何でも欲しい物を言ってみろ、な?この洋装が欲しいか?それとも喫茶店で何か飲むか?イトが決めていいぞ。なんでも買ってやるぞ?俺は特に欲しい物はない」
「ええ?」
「店の中に入るか?」シュンスケはイトの背をそっと押した。
「ま、待って……待ってください」
「どうした?遠慮するな」
イトはシュンスケを見上げると「……服よりも……ケーキ食べたい」と言った。
カランコロンと扉を開けると音がする。
「イト?どれがいい?読めるか?」
「はい、……前みたいなケーキがいいです」
「クリームケーキだな」シュンスケはそう言うと向かいの席からメニューを指で辿った。
「く、りー、む、けー、き」
「く、りー、む、けー、き」イトはシュンスケが言ったことを片仮名を眺めながら復唱するとにっこり笑った。
「買ってくれる?ありがとうございます」
イトの前にケーキと紅茶が、シュンスケの前にはコーヒーが運ばれてきた。
「いいか?イト……どうやって食べるかわかるか?」
「手で?」イトは以前シュンスケが手づかみでケーキを食べさせてくれたのを思い出して手で掴む素振りを見せた。
「いや、あれは特別だ。普通ケーキはその……フォークで食べる」シュンスケはケーキが乗った皿の手前にある小さなフォークを指さして「その飲み物は紅茶だ。砂糖を入れて飲んでもいいし……」シュンスケは自分の側にあるシュガーポットを手に取ると中をイトに見せた。
「四角い……砂糖?」
「そう、これは小さなトングでとる」
イトは説明を受けるとコクコク頷き、慣れない手つきで慎重にケーキを口に運んでいる。
「ははは、イト……うまいか?」シュンスケは頬杖を付くとイトを見つめて笑う。
「…………」イトはクリームを口の端につけながらコクコク頷いた。
(ケーキうまい!)
イトはシュンスケの脳内に直接語り掛けた。
イトが今まで見たこともない位取り乱したシュンスケを見てぽかんとしているとお互い目が合った。
「あ!いた!いた!いましたーつ、妻が……すみません」
「あ、いた?よかったよかった!はははは!」警護員は面倒事が解決したとばかりに笑うと「手でも繋いでなさいな」と片手を上げてまた人混みに消えて行った。
「……あれ?すみません……もしかして探してました……?」
「あ、あ、当たり前だろう……いなくなったのかと……」シュンスケはしょぼんとしながらも肩でホッと息を吐いている。
「すみません……人がたくさんいて驚いてしまって……」イトは申し訳ない気分になったのでしょんぼりした。
「いや、わかってる……君が慣れていないのは知っていたのに……タイミングを図っていたらこんなことに……すまん」
「……?」
「人が沢山いるから……て、手を繋ごう」気を取り直すように言うシュンスケにイトは動揺した。
「ええ!?いやいやいやいや……」
「また迷子になるぞ」シュンスケに魔法の言葉を唱えられてイトは渋々それに従わざるを得なくなりました。
「お義母さんがいたら離しましょうね」
「……わかった」
シュンスケの手はとても大きかったのでイトの手はすっかり隠れて見えなくなる。シュンスケは歩幅を合わせてくれたのかゆっくり歩くと「……何をしてた?」と聞いてきたので「そこのお店を見てました」とイトは答えた。
「片仮名だからわからなくて……でもこの前のケーキ?みたいなのが並んでる……ケーキ屋さん?」
イトはケーキによく似た商品がガラスのケースにたくさん並んでいる店を眺めながら首を傾げた。
「イト、そうだ。ケーキ屋だ。ケーキが欲しいか?」シュンスケは身を屈めるとイトの顔を覗き込んだ。
「……え?……いりません。見てるだけです」(お金ないもの)
「そ、そうか?いらんのか」
「はい」(シュンスケは私がお金を持っていないのを知らないのかも……外の人は普通に持っているのかもしれない……)
イトはお金はどうしたら手に入るんだろう……とぼんやり考えた。さすがのイトも買い物にお金が必要なのは理解している。
でもそれの手に入れ方がわからない……
「……ケーキ……食いたくないか?本当は欲しいんじゃないか?この前は少ししか食わせてやれんかったし……」イトがぼんやりしているのを見てシュンスケはそう言ってきたけれどイトにはお金がない……
「え?いやいや、本当にいらないんです」(煽るな煽るな!)
「そ、そうか?欲しいのがあれば言えよ?」
「は……はい……」(だから買えないんだよー)
イトは気を取り直すと隣の店を眺めた。商店街はイトが見たことない物ばかりでとても楽しかった。
イトがお店を眺めているとシュンスケが横から「欲しいか?」「買いたくないのか?」と煽ってくるのは若干鬱陶しいが、それでもシュンスケがいなければそもそも商店街は見られなかったんだし……とイトは気にしないことにした。
「イト、ほら……これなんかどうだ?服を一着買ってはどうかなー?と思ってるんだが……」
シュンスケはガラス張りのお店を指差すとそこにはマネキンがワンピースを着ていた。
イトはとても素敵だなー……と思ったけれど……しかし、お金がないので「とても素敵ですが……私、お金がないので買えないんです……せっかく勧めてくださったのにすみません」と申し訳なさそうに言った。
もしかするとシュンスケはイトがお金を持っていないのをやはり知らないのかも……と思ったからだ。
シュンスケの性格上意地悪く煽り続けたりはしない気がする。
「私のことばかりですみません。旦那様は何か欲しいものはないんですか?」
「な、なにを言っているんだ?俺が買ってやるから……ほら、何でも欲しい物を言ってみろ、な?この洋装が欲しいか?それとも喫茶店で何か飲むか?イトが決めていいぞ。なんでも買ってやるぞ?俺は特に欲しい物はない」
「ええ?」
「店の中に入るか?」シュンスケはイトの背をそっと押した。
「ま、待って……待ってください」
「どうした?遠慮するな」
イトはシュンスケを見上げると「……服よりも……ケーキ食べたい」と言った。
カランコロンと扉を開けると音がする。
「イト?どれがいい?読めるか?」
「はい、……前みたいなケーキがいいです」
「クリームケーキだな」シュンスケはそう言うと向かいの席からメニューを指で辿った。
「く、りー、む、けー、き」
「く、りー、む、けー、き」イトはシュンスケが言ったことを片仮名を眺めながら復唱するとにっこり笑った。
「買ってくれる?ありがとうございます」
イトの前にケーキと紅茶が、シュンスケの前にはコーヒーが運ばれてきた。
「いいか?イト……どうやって食べるかわかるか?」
「手で?」イトは以前シュンスケが手づかみでケーキを食べさせてくれたのを思い出して手で掴む素振りを見せた。
「いや、あれは特別だ。普通ケーキはその……フォークで食べる」シュンスケはケーキが乗った皿の手前にある小さなフォークを指さして「その飲み物は紅茶だ。砂糖を入れて飲んでもいいし……」シュンスケは自分の側にあるシュガーポットを手に取ると中をイトに見せた。
「四角い……砂糖?」
「そう、これは小さなトングでとる」
イトは説明を受けるとコクコク頷き、慣れない手つきで慎重にケーキを口に運んでいる。
「ははは、イト……うまいか?」シュンスケは頬杖を付くとイトを見つめて笑う。
「…………」イトはクリームを口の端につけながらコクコク頷いた。
(ケーキうまい!)
イトはシュンスケの脳内に直接語り掛けた。
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