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106 千年前
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物語にはいつか終わりが来る。
時は無常だが、あらゆる苦難もいつかは時間が洗い流してくれるものだ。
俺は突然襲ってきた外道神の一柱、カイリのルーツを探り続け、千年の時を経てついに彼女の核へと辿り着いた。
(……長い旅だったな)
しかし、思いのほか早くルーツを探りあてることができた。
その理由は、彼女が引きこもりだったことだ。
彼女は千年の内、実にその大半を引きこもりとして過ごしていた。
普通、そんなに篭もってると逆に精神を病みそうなものだが、彼女はずば抜けたインドア派の気質を持っていた為、全く苦ではなかったようだ。
(さて、お前達の始まりを見せてもらうぞ。まさか養父のガランが絡んでるとは思わなかったが……。さすがに、俺も動揺するな)
ケーブルに繋がったカプセルが並んだ薄暗い空間に、培養装置から出たばかりのカイリとそれを見守るガランがいる。俺は魂だけの状態で二人のやり取りを見守っていた。
「カイリ、お前には俺の仇である冥王タトナスを殺してもらう。奴は俺の嫁を奪う為に神の権能を悪用し、この俺の心を砕いた。おかげで俺は感情の大半を失い、怒りしか感じないガランドウになってしまったのだ。今、俺の心にあるのは奴への復讐心のみだ。お前は俺の為、『太陽神』の権能でタトナスを討つのだ」
紅蓮の髪の少女が嗤う。
「分かったよ。でも、冥王は自分で自分を殺したんでしょ? だったら、次に転生してくる千年後まで、私はこの部屋で楽しませてもらうよ」
「こんな場所でか?」
「研究がしたいんだ。私には持って生まれた知識がある。そして、太陽神は生命をもたらす恵みの神だ。まだ冥王の力の残滓で新しい命は誕生しづらいけど、このカプセルがあれば命を生み出せるんだろう?」
「お前は俺に似て賢いな。まあ、それもいいだろう。俺の為に兵隊を増やすがいい。創造神の兵隊を殺す為の兵士が欲しい」
「創造神って、タトナスを追って転生を選んだアルカナの姉だっけ。無関係な姉にまで殺意を向けるの? いくら嫁に逃げられたからってさ」
「俺に情けをかける感情はない。奴らに縁のある者は悉く皆殺しにするだけだ。創造神アスエルを殺した後は、アルカナの妹であるラリエルも殺してやる」
――なるほどな。
どうやら前世の俺は、後に外道神の元締めとなるガランの心を砕き、嫁を奪ってしまっていたらしい。
そして、何と俺の前世の妻は寝取ったアルカナだったようだ。
どういう経緯で俺が転生を選んだのかは不明だが、なかなか興味深いやり取りだった。
ラリエルという名前からして、ラリエと名乗ってた彼女も関係してそうだな……。
話し合いが終わると、ガランは娘の元から去った。
奴にとっては太陽神が生まれた時点で、この部屋に用はなかったのだろう。
俺にとっては二人きりになれて好都合だが。
「しかし、復讐など虚しいだけだとお前からも伝えてやったらどうだ」
「わっ!?」
ガランの去った研究施設に、俺は実に千年振りの顕現をした。
彼女はギョッとし、その様が俺には感動的だった。
「久しぶりに俺の存在にリアクションを取ってもらった。感動だな」
「お前……誰なんだ? この外宇宙にいるのは私とガランだけのはずなのに」
「そう騒ぐな。改めて見るとお前、いい女だな」
俺はカイリに近づき、無造作にキスをした。
「ん……っ。や、やめろよ」
「なぜだ? この辺境の宇宙に父親を除けば男は俺一人だ。お前は俺を愛するしかないはずだ。違うか?」
「誰なんだって聞いてるだろ! 質問に答えろ!」
……ふむ。目の前にいるが俺をやった時ほどの力は感じない。
まだ生まれたばかりだからだろうか?
『鑑定』したが、その力は60万に達してる。
まだ俺を超えていないが、鍛えれば怖ろしい戦士に育ちそうだ。
しかし、俺を倒せたのには別の理由があるような気がしてきた。
「……お前の真紅の髪は太陽をモチーフにしたんだな。冥府の神だった俺からすると、生命の輝きを感じられて美しいものだ。……なるほど、俺は無意識にお前を殺したくなかったのか。だから力をセーブしてしまったと。アルカナといいカイリといい、どうも女が相手となると弱いな」
今にして思えば、アルカナの力を押さえられなかったのも元妻だったから、という理由がありそうだ。いや、それを差し引いてもアルカナは強力な女神だったが。失っている記憶を取り戻したらラリエ抜きでも化けそうで怖いな。
「お前、まさかタトナスか?」
「そうらしいが、記憶はない。今はタクマと名乗ってるところだ。ところでお前、俺の女にならないか」
「はぁ!?」
カイリの緊張が最高潮に達してる。
「殺す気で来たが、それよりもお前が欲しい。カイリ、お前も俺の女になれ」
「……い、嫌に決まってるだろ!」
「なぜだ?」
「お父さんだって絶対にお前を認めない」
「そうか。お前にとって父親が恋の障害ということだな。なら、俺が消し去ってやろう」
「いや、ちょっと意味が分からな……」
俺はカイリの頭に触れた。
『冥王』の力が発動し、カイリの頭から父親の記憶が抹消される。
「う……お前、何をした」
「『ヒュプノス』も使っておくか。俺はお前の恋人だ。もう忘れたのか?」
「恋人……そうなのか?」
「俺のことを忘れるなんて抜けてるな」
「何か大事なことを忘れてた気がしたんだけど……。もしかして、お前のことを忘れてたのか?」
「そうだ。俺達は愛し合っているんだ」
紅蓮の髪をすくってキスをする。
「俺と一つになってくれ、カイリ」
「ん……なんだか安心するな」
抱き寄せ、身勝手にキスをした。
何も分からないままカイリは俺のキスを受け入れる。
父親への愛に乗っかる形で、俺はカイリをモノにした。
「ふぁ……。キス、気持ちいいかも」
可愛い女だ。
さて、未来に連れて帰るか。
「貴様ら何をしている!」
あともう少しのところだったのに、ガランが戻ってきてしまった。
「タトナス……! 俺の娘から離れろ!」
「……なるほど、戦力値70万か。器に対してパワーが低すぎるな」
ガランが大剣を召喚し、俺に斬りかかってきた。
だが、カイリが戦力値60万の力で炎を生み出し抗ってくれる。
ガランは目を見開いて驚いていた。
「何故邪魔をする!」
「お前、私のフィアンセに何するんだよ!」
「フィアンセだと!?」
「養父のこんな顔は俺も見たくなかった。だが、お前は俺の敵だったんだ。非情になって始末するしかないんだな」
これは俺の予想だが、ガランは嫁を俺に奪われた腹いせに復讐を考えていた。
だから、どうにかしてカナミという娘と俺を引き合わせ、俺と彼女が親しくなった後で寝取るつもりだったのだろう。
しかし、現実は非情だ。
俺は意図せずしてガランから嫁と娘を寝取ることになってしまった。
運命のイタズラとは悲しいものだな。
「ガラン、あんたは俺にとって父親のような存在だ。無力だった俺に、人の心を信じる大切さを教えてくれた。たとえあんたにどんな思惑があったのだとしても、俺にとってあんたはカナミと引き合わせ、俺を育ててくれた恩人だ」
「何を訳の分からないことを……!」
「分かってくれないか……。当然だな、ここにいるのは俺の知るガランじゃない。ここにいるのは過去のあんただ」
俺はガランに『硬化粘液』を飛ばす。
「つまらない小細工を!」
おお、さすがだ。ガランは大剣を使い、俺の攻撃を弾いた。
強者の神にはこの程度のスキルでは相手にならないらしい。
「どうしたタトナス! 俺の知るお前より力が弱まっているぞ!」
時間を逆行することにも力を割いてる。
今の俺の戦力値はせいぜい80万程か。
ガランも娘を創ることに力を使って70万まで落ちてるか、まだ本気を出してはいないようだ。
この戦い、どう決着がつくかは俺でも読めない。
「しかし、神の世界の因縁、ここでケリをつけさせてもらうぞ」
「貴様がアルカナを奪ったんだろうが……ッ!」
時は無常だが、あらゆる苦難もいつかは時間が洗い流してくれるものだ。
俺は突然襲ってきた外道神の一柱、カイリのルーツを探り続け、千年の時を経てついに彼女の核へと辿り着いた。
(……長い旅だったな)
しかし、思いのほか早くルーツを探りあてることができた。
その理由は、彼女が引きこもりだったことだ。
彼女は千年の内、実にその大半を引きこもりとして過ごしていた。
普通、そんなに篭もってると逆に精神を病みそうなものだが、彼女はずば抜けたインドア派の気質を持っていた為、全く苦ではなかったようだ。
(さて、お前達の始まりを見せてもらうぞ。まさか養父のガランが絡んでるとは思わなかったが……。さすがに、俺も動揺するな)
ケーブルに繋がったカプセルが並んだ薄暗い空間に、培養装置から出たばかりのカイリとそれを見守るガランがいる。俺は魂だけの状態で二人のやり取りを見守っていた。
「カイリ、お前には俺の仇である冥王タトナスを殺してもらう。奴は俺の嫁を奪う為に神の権能を悪用し、この俺の心を砕いた。おかげで俺は感情の大半を失い、怒りしか感じないガランドウになってしまったのだ。今、俺の心にあるのは奴への復讐心のみだ。お前は俺の為、『太陽神』の権能でタトナスを討つのだ」
紅蓮の髪の少女が嗤う。
「分かったよ。でも、冥王は自分で自分を殺したんでしょ? だったら、次に転生してくる千年後まで、私はこの部屋で楽しませてもらうよ」
「こんな場所でか?」
「研究がしたいんだ。私には持って生まれた知識がある。そして、太陽神は生命をもたらす恵みの神だ。まだ冥王の力の残滓で新しい命は誕生しづらいけど、このカプセルがあれば命を生み出せるんだろう?」
「お前は俺に似て賢いな。まあ、それもいいだろう。俺の為に兵隊を増やすがいい。創造神の兵隊を殺す為の兵士が欲しい」
「創造神って、タトナスを追って転生を選んだアルカナの姉だっけ。無関係な姉にまで殺意を向けるの? いくら嫁に逃げられたからってさ」
「俺に情けをかける感情はない。奴らに縁のある者は悉く皆殺しにするだけだ。創造神アスエルを殺した後は、アルカナの妹であるラリエルも殺してやる」
――なるほどな。
どうやら前世の俺は、後に外道神の元締めとなるガランの心を砕き、嫁を奪ってしまっていたらしい。
そして、何と俺の前世の妻は寝取ったアルカナだったようだ。
どういう経緯で俺が転生を選んだのかは不明だが、なかなか興味深いやり取りだった。
ラリエルという名前からして、ラリエと名乗ってた彼女も関係してそうだな……。
話し合いが終わると、ガランは娘の元から去った。
奴にとっては太陽神が生まれた時点で、この部屋に用はなかったのだろう。
俺にとっては二人きりになれて好都合だが。
「しかし、復讐など虚しいだけだとお前からも伝えてやったらどうだ」
「わっ!?」
ガランの去った研究施設に、俺は実に千年振りの顕現をした。
彼女はギョッとし、その様が俺には感動的だった。
「久しぶりに俺の存在にリアクションを取ってもらった。感動だな」
「お前……誰なんだ? この外宇宙にいるのは私とガランだけのはずなのに」
「そう騒ぐな。改めて見るとお前、いい女だな」
俺はカイリに近づき、無造作にキスをした。
「ん……っ。や、やめろよ」
「なぜだ? この辺境の宇宙に父親を除けば男は俺一人だ。お前は俺を愛するしかないはずだ。違うか?」
「誰なんだって聞いてるだろ! 質問に答えろ!」
……ふむ。目の前にいるが俺をやった時ほどの力は感じない。
まだ生まれたばかりだからだろうか?
『鑑定』したが、その力は60万に達してる。
まだ俺を超えていないが、鍛えれば怖ろしい戦士に育ちそうだ。
しかし、俺を倒せたのには別の理由があるような気がしてきた。
「……お前の真紅の髪は太陽をモチーフにしたんだな。冥府の神だった俺からすると、生命の輝きを感じられて美しいものだ。……なるほど、俺は無意識にお前を殺したくなかったのか。だから力をセーブしてしまったと。アルカナといいカイリといい、どうも女が相手となると弱いな」
今にして思えば、アルカナの力を押さえられなかったのも元妻だったから、という理由がありそうだ。いや、それを差し引いてもアルカナは強力な女神だったが。失っている記憶を取り戻したらラリエ抜きでも化けそうで怖いな。
「お前、まさかタトナスか?」
「そうらしいが、記憶はない。今はタクマと名乗ってるところだ。ところでお前、俺の女にならないか」
「はぁ!?」
カイリの緊張が最高潮に達してる。
「殺す気で来たが、それよりもお前が欲しい。カイリ、お前も俺の女になれ」
「……い、嫌に決まってるだろ!」
「なぜだ?」
「お父さんだって絶対にお前を認めない」
「そうか。お前にとって父親が恋の障害ということだな。なら、俺が消し去ってやろう」
「いや、ちょっと意味が分からな……」
俺はカイリの頭に触れた。
『冥王』の力が発動し、カイリの頭から父親の記憶が抹消される。
「う……お前、何をした」
「『ヒュプノス』も使っておくか。俺はお前の恋人だ。もう忘れたのか?」
「恋人……そうなのか?」
「俺のことを忘れるなんて抜けてるな」
「何か大事なことを忘れてた気がしたんだけど……。もしかして、お前のことを忘れてたのか?」
「そうだ。俺達は愛し合っているんだ」
紅蓮の髪をすくってキスをする。
「俺と一つになってくれ、カイリ」
「ん……なんだか安心するな」
抱き寄せ、身勝手にキスをした。
何も分からないままカイリは俺のキスを受け入れる。
父親への愛に乗っかる形で、俺はカイリをモノにした。
「ふぁ……。キス、気持ちいいかも」
可愛い女だ。
さて、未来に連れて帰るか。
「貴様ら何をしている!」
あともう少しのところだったのに、ガランが戻ってきてしまった。
「タトナス……! 俺の娘から離れろ!」
「……なるほど、戦力値70万か。器に対してパワーが低すぎるな」
ガランが大剣を召喚し、俺に斬りかかってきた。
だが、カイリが戦力値60万の力で炎を生み出し抗ってくれる。
ガランは目を見開いて驚いていた。
「何故邪魔をする!」
「お前、私のフィアンセに何するんだよ!」
「フィアンセだと!?」
「養父のこんな顔は俺も見たくなかった。だが、お前は俺の敵だったんだ。非情になって始末するしかないんだな」
これは俺の予想だが、ガランは嫁を俺に奪われた腹いせに復讐を考えていた。
だから、どうにかしてカナミという娘と俺を引き合わせ、俺と彼女が親しくなった後で寝取るつもりだったのだろう。
しかし、現実は非情だ。
俺は意図せずしてガランから嫁と娘を寝取ることになってしまった。
運命のイタズラとは悲しいものだな。
「ガラン、あんたは俺にとって父親のような存在だ。無力だった俺に、人の心を信じる大切さを教えてくれた。たとえあんたにどんな思惑があったのだとしても、俺にとってあんたはカナミと引き合わせ、俺を育ててくれた恩人だ」
「何を訳の分からないことを……!」
「分かってくれないか……。当然だな、ここにいるのは俺の知るガランじゃない。ここにいるのは過去のあんただ」
俺はガランに『硬化粘液』を飛ばす。
「つまらない小細工を!」
おお、さすがだ。ガランは大剣を使い、俺の攻撃を弾いた。
強者の神にはこの程度のスキルでは相手にならないらしい。
「どうしたタトナス! 俺の知るお前より力が弱まっているぞ!」
時間を逆行することにも力を割いてる。
今の俺の戦力値はせいぜい80万程か。
ガランも娘を創ることに力を使って70万まで落ちてるか、まだ本気を出してはいないようだ。
この戦い、どう決着がつくかは俺でも読めない。
「しかし、神の世界の因縁、ここでケリをつけさせてもらうぞ」
「貴様がアルカナを奪ったんだろうが……ッ!」
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