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第4章 いろいろ巻き込まれていく流れ
80話 舞い込んだ依頼 ー 特別営業終了 ー
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「「「終わったぁ!!」」」
6月27日、夜の店内にみんなの満足気な声が響き渡った。
終わってしまえばたった6日の特別営業だったけど、この6日の間に様々なことがあった。
初日は昼100食・夜50食を準備して臨んだけど、昼も夜もまったく料理の数が足りてなくて、並んでくれていたお客様に何度も何度も頭を下げることになった。
なかなか進まない行列にイラついたお客様からクレームが入ったり、長く続く列のせいでご近所様にも迷惑をかけた。
営業が終わった後は全員がヘトヘトに疲れ果てていたっけな。
2日目は、スタッフ達からの申し出もあって昼200食・夜100食を準備することになった。
疲労が大きかったはずなのに、お客様のためにと頑張るスタッフ達の姿に思わず涙をこぼしそうになったのは内緒だ。
夜は数名お断りする程度で収まったけど、200食も用意したお昼はそれでも早めに売り切れてしまい、数十名に頭を下げることとなった。
閉店後に話し合いの時間を設けたけど、これ以上の仕込みは難しいと判断し、お断りすることになろうとも200食を上限とすることが渋々決定された。
3日目にはコスタスさんが同僚を引き連れて食べに来てくれたんだけど、仕事の休憩時間に急いでやってきたらしく、初めて会った時と同じように白銀の鎧を煌かせながら並んでいたので少し周りがザワついた。
コスタスさんの明るい人柄のおかげですぐに受け入れられたうえに、「お偉い騎士団様でさえ並んでまで食べたいお店なのか!」という別の騒ぎが起こったのもいい思い出だ。
4日目にはメイクさんがお弟子さんを引き連れてやってきてくれたんだけど、間に合わせで貼りだしていた注意書きの貼り紙が気に入らなかったらしく、「なぜワシに相談せんかった! ジョージからの依頼なら急ぎで間に合わせてやったのに!」とプリプリしながらカヌウ丼を頬張っていた。
冒険者ギルドのカヌウの在庫が元に戻りそうだと聞かされたのもこの日だった。
5日目は、前日の閉店後に貼りだした貼り紙を読んだ人が「カヌウ丼が今日と明日で終わる!」と騒ぎ立て、昼はもちろんのこと夜にも大層な行列ができてしまい、夜も数十名をお断りすることになった。
朝も夜もご近所様が多い1日で、「近いからって遠慮してたけど、明日で終わるってんなら話は別さね!」とクレシアさんが笑っていたのが印象的だ。
そして最終日だった今日、朝から信じられないぐらいの行列ができていた。
俺は店に住んでいるから気づかなかったけど、出勤してきたスタッフや冒険者ギルド職員から話を聞かされ外に飛び出すと、開店まで数時間あるというのにすでに何十人もの人が列をなしていて驚いた。
ここ数日で常連になった人や行列に誘われてつい並んだ人、ご近所様や非番のギルド職員や警備隊員までもが並んでくれていた。
「冒険者ギルドの職員さんも、6日間ホントにありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
俺の言葉に続いてスタッフ達が頭を下げると、ギルドの職員さん達も笑顔で応えてくれた。
「いやいや、こっちこそ毎日美味しいご飯をありがとよ!」
「最初は大変だったけど、途中から楽しかったんだ」
「マスターがいないから言うけど、ぶっちゃけギルドでの仕事より楽しかったぜ!」
ギルド職員さんの言葉を受けて、疑問に思っていたことを尋ねた。
「そういえば今日はビービーさんは1回も来なかったですね。忙しかったんでしょうか?」
いつもは昼営業中に最低1回、そして閉店後に様子を見に来てたけど、最終日の今日は1回も姿を見せなかった。
「列の整理をしてる時に昼に1回見たよ。セルバイさんと忙しそうに走り回ってたみたいだから、急な依頼か何か入ったんじゃないかな?」
ギルド職員さんがそう言うや否や、営業終了した店の扉がバタンと開かれた。
「どうやら間に合ったみたいだね!」
「「「ビービーさん!」」」
「「「マスター!」」」
噂をすれば影という言葉がこっちの世界にあるのかはわからないが、まさに話していたタイミングでビービーさんが現れたのだった。
「ジョージ、みんなのご飯はまだだよね?」
「はい。今から作ろうと思ってました」
「よかったよかった。今日は料理は作らなくていいよ」
「えっ?」
「セルバイ、中に運び込んでおくれ!」
「わかりました!」
店内からは見えなかったがどうやら外に荷馬車かなにかを停めているようで、そちらからセルバイさんの声が聞こえてきた。
声から少し遅れて、両手に何かを持ったセルバイさんが入店してくる。
「皆さん本当にお疲れさまでした。こちら、マスターからの差し入れでございます」
ドンッとそこそこの重量感のある音と共に置かれたのは、まだ湯気が上がっている大皿料理だった。
「君達、まだあるから運ぶのを手伝ってくれないか?」
「「「はいっ!」」」
セルバイさんに呼ばれて、ギルド職員さん達が外へと駆けだした。
「ビービーさん、これは?」
「ささやかだけどあたいからのお礼だよ。フェーレースのみんな、今回は冒険者ギルドのイザコザに勝手に巻き込んじまって悪かったねぇ。でもおかげ様で助かったよ、ホントにありがとね」
「ありがとうございました!」
料理を手に戻ってきたセルバイさんと職員さん達も倣って頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ良い経験になりました。みんなはどうだった?」
話をみんなに振ると、口々に満足気な感想を語った。
「おいら、すっごく楽しかった! 最初はキツかったけど、慣れてきたらいつもみたいに1人1人のお客様を見ることができたよ!」
「ボクはすごく勉強になった。ご飯を炊くのも速くなったと思う」
「私はやっぱりお客様をお断りするのが申し訳なかったので、もっともっと頑張ろうと思いました!」
「私は店長の仕込みの速さが特に勉強になりました! 調理中の時間の上手な使い方、早く試してみたいです!」
「私はデシャップが上達したと思います。いつもはライオがやってますけど、今回学んだことを生かしたいです」
心底満足そうに語るスタッフ達を見て、ビービーさんが目を細めて言った。
「改めてありがとうね、フェーレースのみんな。さてさて、真面目な話はここまでだよ! 今日はあたいのおごりだから、腹いっぱい食っとくれよ!」
「「「いただきます!」」」
料理を味わいながらセルバイさんと話していると、目の前の豪華な料理はお礼はもちろんうちのスタッフ達の勉強のためにと、王都でも指折りの高級店に無理を言って作ってもらったそうだ。
「ビービーさんの手出しですよね? もっとちゃんとお礼を言わなきゃですね」
「いえいえ、マスターはああ見えて恥ずかしがりですからね。最後に一言ごちそうさまと言ってあげればそれが良いと思います」
「なるほど。わかりました、みんなで食後に挨拶させていただきます」
「そうしてあげてください」
賑やかな声の方に目を向けると、全員が楽し気に笑っていた。
かなり疲れているはずなのに、種族や性別や年齢の壁を越えてギルド職員さん達と楽し気に食事をするスタッフ達。
(みんな、本当にお疲れ様でした)
完全に俺の勘だけど、7月からはもっと忙しくなると思う。
明日の日曜日はしっかりと休んで、少しでも身体を万全な状態にしておいてほしいと願うのだった。
6月27日、夜の店内にみんなの満足気な声が響き渡った。
終わってしまえばたった6日の特別営業だったけど、この6日の間に様々なことがあった。
初日は昼100食・夜50食を準備して臨んだけど、昼も夜もまったく料理の数が足りてなくて、並んでくれていたお客様に何度も何度も頭を下げることになった。
なかなか進まない行列にイラついたお客様からクレームが入ったり、長く続く列のせいでご近所様にも迷惑をかけた。
営業が終わった後は全員がヘトヘトに疲れ果てていたっけな。
2日目は、スタッフ達からの申し出もあって昼200食・夜100食を準備することになった。
疲労が大きかったはずなのに、お客様のためにと頑張るスタッフ達の姿に思わず涙をこぼしそうになったのは内緒だ。
夜は数名お断りする程度で収まったけど、200食も用意したお昼はそれでも早めに売り切れてしまい、数十名に頭を下げることとなった。
閉店後に話し合いの時間を設けたけど、これ以上の仕込みは難しいと判断し、お断りすることになろうとも200食を上限とすることが渋々決定された。
3日目にはコスタスさんが同僚を引き連れて食べに来てくれたんだけど、仕事の休憩時間に急いでやってきたらしく、初めて会った時と同じように白銀の鎧を煌かせながら並んでいたので少し周りがザワついた。
コスタスさんの明るい人柄のおかげですぐに受け入れられたうえに、「お偉い騎士団様でさえ並んでまで食べたいお店なのか!」という別の騒ぎが起こったのもいい思い出だ。
4日目にはメイクさんがお弟子さんを引き連れてやってきてくれたんだけど、間に合わせで貼りだしていた注意書きの貼り紙が気に入らなかったらしく、「なぜワシに相談せんかった! ジョージからの依頼なら急ぎで間に合わせてやったのに!」とプリプリしながらカヌウ丼を頬張っていた。
冒険者ギルドのカヌウの在庫が元に戻りそうだと聞かされたのもこの日だった。
5日目は、前日の閉店後に貼りだした貼り紙を読んだ人が「カヌウ丼が今日と明日で終わる!」と騒ぎ立て、昼はもちろんのこと夜にも大層な行列ができてしまい、夜も数十名をお断りすることになった。
朝も夜もご近所様が多い1日で、「近いからって遠慮してたけど、明日で終わるってんなら話は別さね!」とクレシアさんが笑っていたのが印象的だ。
そして最終日だった今日、朝から信じられないぐらいの行列ができていた。
俺は店に住んでいるから気づかなかったけど、出勤してきたスタッフや冒険者ギルド職員から話を聞かされ外に飛び出すと、開店まで数時間あるというのにすでに何十人もの人が列をなしていて驚いた。
ここ数日で常連になった人や行列に誘われてつい並んだ人、ご近所様や非番のギルド職員や警備隊員までもが並んでくれていた。
「冒険者ギルドの職員さんも、6日間ホントにありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
俺の言葉に続いてスタッフ達が頭を下げると、ギルドの職員さん達も笑顔で応えてくれた。
「いやいや、こっちこそ毎日美味しいご飯をありがとよ!」
「最初は大変だったけど、途中から楽しかったんだ」
「マスターがいないから言うけど、ぶっちゃけギルドでの仕事より楽しかったぜ!」
ギルド職員さんの言葉を受けて、疑問に思っていたことを尋ねた。
「そういえば今日はビービーさんは1回も来なかったですね。忙しかったんでしょうか?」
いつもは昼営業中に最低1回、そして閉店後に様子を見に来てたけど、最終日の今日は1回も姿を見せなかった。
「列の整理をしてる時に昼に1回見たよ。セルバイさんと忙しそうに走り回ってたみたいだから、急な依頼か何か入ったんじゃないかな?」
ギルド職員さんがそう言うや否や、営業終了した店の扉がバタンと開かれた。
「どうやら間に合ったみたいだね!」
「「「ビービーさん!」」」
「「「マスター!」」」
噂をすれば影という言葉がこっちの世界にあるのかはわからないが、まさに話していたタイミングでビービーさんが現れたのだった。
「ジョージ、みんなのご飯はまだだよね?」
「はい。今から作ろうと思ってました」
「よかったよかった。今日は料理は作らなくていいよ」
「えっ?」
「セルバイ、中に運び込んでおくれ!」
「わかりました!」
店内からは見えなかったがどうやら外に荷馬車かなにかを停めているようで、そちらからセルバイさんの声が聞こえてきた。
声から少し遅れて、両手に何かを持ったセルバイさんが入店してくる。
「皆さん本当にお疲れさまでした。こちら、マスターからの差し入れでございます」
ドンッとそこそこの重量感のある音と共に置かれたのは、まだ湯気が上がっている大皿料理だった。
「君達、まだあるから運ぶのを手伝ってくれないか?」
「「「はいっ!」」」
セルバイさんに呼ばれて、ギルド職員さん達が外へと駆けだした。
「ビービーさん、これは?」
「ささやかだけどあたいからのお礼だよ。フェーレースのみんな、今回は冒険者ギルドのイザコザに勝手に巻き込んじまって悪かったねぇ。でもおかげ様で助かったよ、ホントにありがとね」
「ありがとうございました!」
料理を手に戻ってきたセルバイさんと職員さん達も倣って頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ良い経験になりました。みんなはどうだった?」
話をみんなに振ると、口々に満足気な感想を語った。
「おいら、すっごく楽しかった! 最初はキツかったけど、慣れてきたらいつもみたいに1人1人のお客様を見ることができたよ!」
「ボクはすごく勉強になった。ご飯を炊くのも速くなったと思う」
「私はやっぱりお客様をお断りするのが申し訳なかったので、もっともっと頑張ろうと思いました!」
「私は店長の仕込みの速さが特に勉強になりました! 調理中の時間の上手な使い方、早く試してみたいです!」
「私はデシャップが上達したと思います。いつもはライオがやってますけど、今回学んだことを生かしたいです」
心底満足そうに語るスタッフ達を見て、ビービーさんが目を細めて言った。
「改めてありがとうね、フェーレースのみんな。さてさて、真面目な話はここまでだよ! 今日はあたいのおごりだから、腹いっぱい食っとくれよ!」
「「「いただきます!」」」
料理を味わいながらセルバイさんと話していると、目の前の豪華な料理はお礼はもちろんうちのスタッフ達の勉強のためにと、王都でも指折りの高級店に無理を言って作ってもらったそうだ。
「ビービーさんの手出しですよね? もっとちゃんとお礼を言わなきゃですね」
「いえいえ、マスターはああ見えて恥ずかしがりですからね。最後に一言ごちそうさまと言ってあげればそれが良いと思います」
「なるほど。わかりました、みんなで食後に挨拶させていただきます」
「そうしてあげてください」
賑やかな声の方に目を向けると、全員が楽し気に笑っていた。
かなり疲れているはずなのに、種族や性別や年齢の壁を越えてギルド職員さん達と楽し気に食事をするスタッフ達。
(みんな、本当にお疲れ様でした)
完全に俺の勘だけど、7月からはもっと忙しくなると思う。
明日の日曜日はしっかりと休んで、少しでも身体を万全な状態にしておいてほしいと願うのだった。
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