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第3章 いわゆるアナザーストーリーってやつ

61話 変わり出す運命②

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「悩んでるのかい、ミーニャ?」

 いつもは暗くなったらすぐ眠くなるのに、その日はなかなか眠れなかった。

 何回も寝返りを打ったりしてずっとモゾモゾしてたから、お兄ちゃんも気になったのかな?

「ごめんね、うるさかった?」 

「いや、お兄ちゃんもまだ起きてたから大丈夫だよ。なんだか眠れなくてね」

「私も」

 それだけ話したらまた無言になった。
いろんな所から入ってくる隙間風の音がヒュウヒュウと小さく聞こえる。

「ミーニャ」

「なぁに?」

「畑のこととか野菜の販売のこととか、何も気にしなくていいからな? ミーニャが本当にやりたいことを選んでくれよ」

「うん。ありがとうお兄ちゃん」

 正直言うと、私は畑のお仕事があんまり好きじゃなかった。

 女の子だしまだ小さいから、重いものは持てなくてあんまり役に立てないの。

 だから畑で採れたお野菜の販売を頑張ってたんだけど、そのお野菜も、お兄ちゃんの「野菜は土付きで販売する!」っていう変なこだわりのせいで全然売れなかった。

 並べてるお野菜を見てくれる人も、「野菜自体は良さそうなのに、土が付いてちゃめんどくさいよ」って言って買ってくれない。

 値段を下げて下げて、それでも両手の指で足りるくらいの数しか売れない毎日。
朝とあんまり変わらない重さの荷車を引いていると、知らないうちに涙が出ちゃったりする。

 お兄ちゃんや他の猫人族の人達がすっごく頑張って美味しいお野菜を作ってるのに、それがまったく売れないのが悲しくて悔しかった。

 せっかくみんなが頑張って作ったお野菜を、「汚い!」ってバカにしにくるだけの人もいたりして、そんな日はどうしても泣くのを我慢できなかった。

 迎えに来たお兄ちゃんにすがりついて、思いっきり泣いたこともあった。

「お兄ぢゃん~! おやざい、ぢゃんど洗っでがら売どうよぉ~!!」

 わんわんと泣き叫ぶ私を抱きしめるお兄ちゃんの手も、ちょっとだけ震えてた。

「……ごめんな、ミーニャ。でも、お父さんとお母さんの思いが詰まってるから」

 そんな日はお互いを見ないようにしてた。
朝とほとんど変わらない数のお野菜を、2人で泣きながら積み込んでた。

(もうあんな悲しい思いをしなくていいのかな?)

 ジョージさんはお野菜の値段について、「もちろん適正価格で買い取ります」って言ってくれた。
露店で売ってたお野菜も、わざわざ自分から言い出して元の値段で買い取ってくれたし、嘘じゃないと思う。

(私も、あんな可愛いお洋服が着れるようになるのかな?)

 露店で売ってるお野菜を「汚い!」ってバカにしに来る、商人の家の女の子達。
バカにされて悔しいのに、あの子達が着ているヒラヒラの可愛いお洋服が羨ましかった。

 そして、あの子達のお洋服を羨ましいって思ってる自分のことが嫌だった。

 でも、お野菜がいっぱい売れて生活が楽になったら、私もあんな可愛いお洋服を着て、ゆっくりと街を散歩できるようになるのかな?

 ううん、お兄ちゃんが先だよね。

 お兄ちゃんのお仕事のズボン、膝のところに大きめの穴が開いちゃってるから、まずはお兄ちゃんの新しいズボンを買うのが先だよね。

 お兄ちゃんは「風通しがいいから気に入ってるんだ」って言ってるけど、私に気を遣わせないために無理してるってことはわかってるの。

 夏は風通しはいいだろうけど、収穫の時とかは膝をついて仕事をすることも多いから、膝が汚れたり、小石でちょっと切っちゃったりしてるのも知ってるよ?

 冬は穴から入ってくる風が冷たくて、作業と作業の間に一生懸命こすって温めてるの、私は知ってるんだよ?

 スヤスヤと寝息を立ててるお兄ちゃんを見て、もっともっと役に立ちたいと思った。

 そのためには……。
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