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第3章 いわゆるアナザーストーリーってやつ

62話 変わり出す運命③

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「ごめんなさい!」

 あの夜の決意が揺らいだ。

 目の前で「どどどどど……」って信じられないぐらい動揺してるジョージさんから提案された内容は、あまりにも魅力的すぎた。

 まず、お給金が信じられないぐらい高かったの!

 他のお店で日雇いの給仕のお仕事をしたことがあったけど、その時は1日まるまる働いて銀貨2枚だった。

 休憩もちょこっとしかなくて、ホントにまるまる1日働いた。
『賄いも出すよ』って聞いてたから期待してたのに、クタクタに煮込まれた野菜クズが少しだけ入ったスープが1杯だけで、ガッカリした思い出がある。

 もちろん食べれるだけでありがたいんだけどね。
期待しすぎちゃった私が悪いの。

 でも、この街ではそれが普通。
いろんなお店のお手伝いをさせてもらったけど、1日まるまる働いて銀貨が3枚だとラッキーって思えるぐらい。

 それなのに、ジョージさんはこんなことを言い出したの!

「もし働いてくれるなら、1時間で銅貨9枚かな。お昼の4時間だけなら銀貨3枚と銅貨6枚、昼も夜も働いたら銀貨7枚と銅貨2枚になるね」

「そっ……、そんなにいただけるんですか!?」

 思わず口に出ちゃったけど、これはしょうがないよね?

 だってお昼の時間に働くだけで、他のお店でまるまる1日働くよりもたくさんのお給金がもらえちゃうんだもん!!

 ジョージさんのお店でまるまる1日働いたら、他のお店で3日働くのより多いお給金がもらえちゃうのよ!?

 ショックが大きすぎて、しばらくぼうっとしちゃった。

 気がついたらジョージさんが心配そうな顔で見てた。

「条件が良すぎます!」

 魅力的すぎるけど、ダメ!
ジョージさんはこの街に慣れてないみたいだから、私がちゃんと教えてあげなきゃ!

「私もたまに宿屋さんとかご飯屋さんのお手伝いをさせてもらうことがありますけど、1日働いて銀貨2枚か3枚ぐらいですよ!?」

「えっ!? マジで!?」

 やっぱりジョージさんは、お給金の相場?ってのを知らなかったみたい。

 それからちょっとのあいだジョージさんは考え込んでたみたいだけど、なんだか怒ってるみたいに険しい顔になった。

(ハッキリ言い過ぎちゃったかな!? ジョージさんにはジョージさんの考えがあったかもしれないのに……)

 考えてみれば、お給金だってそれぞれのお店で違うもんね。
私はやったことないけど、大きな商会が人手不足の時に出す求人は普通より多いお給金で出してるって聞いたことあるし。

「あのぉ、ジョージさん?」

 心配になって控えめに声をかけると、ジョージさんはハッとして笑顔に戻った。
よかった、本気で怒ってたんじゃないみたい……。

「ごめんごめん、考え事してた。えっと、この前も話したけど、俺がやろうとしてるお店はちょっと変わった内容になってるから、その辺も含めてお給料をちょっと割高に設定してるんだよ」

 やっぱり考えがあったのね!
私みたいな子どもが生意気に口を挟むべきじゃなかったよね。反省。

「そう……なんですね。ちなみにお仕事内容っていうのは?」

 そこからの話や説明も驚きの連続だった。

 どのお店も人員はできるだけ減らして、少ない人数であれもこれもやらないといけないのが普通なのに、ジョージさんのお店では1人1人の役割分担がしっかりとしてるみたいだった。

 奥のキッチンは見たこともない魔道具ばっかりだったわ!
つまみをひねるだけで火がつくコンロ?っていう魔道具とか、変な形のフタをひねれば延々と水が出るジャグチ?っていう魔道具とか、ボタンをいくつか押すだけで食材を自動で温めてくれるレンジ?っていう魔道具とか。

(これ全部、お家にもほしいな……)

 ジョージさんの説明を聞きながら、ついついそんなことを考えちゃった。

 でも、そんな呑気なことを考えながらも、私の頭の中にはレジって言う場所でのお仕事内容がずっとグルグル回っていた。

(働きたい! こんなステキなお店で働きたい! でも……)

「お客さんが少ない時間帯を見計らってご飯を食べに行ったのに、そこですごく待たされたらミーニャだって嫌だろう?」

 こんなにちゃんとお客さんのことを考える人と一緒に働きたい!

 でも、私は働こうと思ったら別のところでも働ける。

 頭の中に、可愛くて大好きなお友達の顔が浮かんでる。

 笑顔で私に話しかけるジョージさんに、しっかりと伝えないといけなかった。
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