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第1章 小説の第1章は大体説明みたいな感じだよね

14話 それは本当に大切なこと

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「ガッハッハ! お前さん、おもしれぇこと考えるな!」

「ど、どうも……」

 工業区のとある工房にて、俺はドワーフのおっさんに背中をバンバンと叩かれていた。
これまた異世界物のテンプレよろしく、ずんぐりむっくりで髭面の典型的なドワーフだった。

「今説明したような特殊な営業方法を取るので、入店から退店までの流れを説明する案内板みたいなものも作ってほしいんですよ。できるだけ大きめで」

「ガッハッハ! 確かに初見の客は説明がなきゃわからんな!」

 いちいち笑いながら背中を叩かないと話せないのか、このドワーフは!
背中がジンジンと痛んできたぞ!

「食札は大きさが一緒なら材質は問いませんので端材とかで構いません。説明書きの案内板は店の内側と外側それぞれに取りつけたいので、2枚お願いしたいのですが」

「わかった! 最近は仕事が落ち着いてるから3日ぐらいでできると思うぞ!」

「あっ、そんなに早く対応してくださるんですね。そしたら追加で――」

 追加でそれぞれの曜日の日替わりメニューを記した看板も2枚作成してもらうことにした。

 食器も大量に在庫があるとのことで、メニューに合いそうなものを選び、食札や案内板と合わせて納品してもらうことにする。

 しかし何気ない会話で、俺は大切なことに気づかされてしまう。

「メニュー板もすぐできると思うが、店の看板はいらんのか?」

「へ?」

「看板だよ看板! 看板がなきゃ店の名前も何の店かもわからねーじゃねーか!」

 ガッハッハと陽気に笑うドワーフのおっさんをよそに、俺はハンマーで頭を殴られたようなショックを感じていた。

(店の名前とか全然考えてなかったわ……)

 言われてみたら本当に大切なことだし、言われるまで気づかないというのもまた情けない。

「何だお前さん、店の名前を考えてなかったんか?」

「は、恥ずかしながら……」

「ガッハッハ! ホントにおもしろいやつだな! じゃあ店の看板は形の削り出しまで済ませて、後は名前を彫って着色するだけってとこまで進めといてやろうか?」

「すごく助かります! 今日中に考えて明日にはお伝えにきますので……」

「じゃあ明日待っとるぞ! ワシの名前はメイクじゃ、よろしくのう!」

「俺はジョージって言います。よろしくお願いします!」

 最後にまた一笑いして俺の背中を叩いたメイクさんは、「早速取り掛かるかのう!」と言い工房奥へと姿を消した。

 この様子だと3日もかからなそうだと確信した俺は、店の名前で頭を悩ませるのであった。
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