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《145話》

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 ディノートでは18歳が成人である。
 なので19歳のサラは実はアルコールを飲んでも良いのだ。
 ただ食の方に意識が行っているのでアルコールに興味を示さないだけ。
 だが国王が「酒が飲みたいのぉ」の言葉を聞いて、興味を引かれたらしい。

「セブンさん、お酒、そんなに、美味しいですか?」

「まぁ俺は嫌いではないぞ」

「ドクターざるだもんね♡」

「俺だってセブンと張るくらいには飲めるぞナナ」

(これは、嫉妬、と言うヤツ、ですね)

 サラはレオンハルトの言葉に、レオンハルトがセブンに嫉妬してそんな発言をしたのだと気付いた。
 何時の間にか恋愛偏差値が上がっている。
 主に他者に対して。
 己の恋愛偏差値は相変わらず底辺なので安心して欲しい。

 サラはセブンに嫉妬するレオンハルトが可愛く思えて隠れてくふくふ笑う。
 ソレに気付いたセブンがサラに視線を合わせてニッ、と笑った。
 視線だけで意思の疎通が出来る。
 何故自分たちの恋愛偏差値は上がらないのであろうか、この2人は。

「じゃぁ私、今日は飲みやすいワイン手元にあるから持ってドクターの家に行くわ♡」

「俺も行くから飯は頼んだセブン」

「お前ら自分たちで食事の用意しようと言う意識は無いのか?」

「下手な物買っていくよりドクターの方が美味しいもの出してくれるじゃない♡」

 むっ、とレオンハルトがむくれる。
 流石にこれは張り合えられない。
 セブンの料理の腕は超1流だ。
 張り合えるのは天界の全能神専属侍女様くらいだろう。
 それ程にセブンの料理は美味しいのだ。

「サラちゃんもお酒のんでみたいでしょ?」

「はい、です!」

 満面のサラの笑顔を見て、セブンは今日の診療所は午前中までだな、と午後診をそうそうに諦めた。
 診療所が開く、15分前の会話であった。

 さて、ワインに合う料理である。
 赤も白も持ってくると言っていた。
 なら肉料理も魚料理もいるだろう。
 レシピを考えながらセブンは市場を歩く。

(鶏肉・豚肉・牛肉・チーズ・サーモン・鯛・野菜・マッシュルーム・じゃが芋・全粒粉…さて、何を作るか…………?)

『私もご相伴に預かるので料理は多めに作ってくれ』

 頭の中に中性的な甘いアルトの声が響いた。
 所謂『天啓』である。
 こんな天啓あって良いのだろうか?
 神が人間に料理を強請るなど。

(サイヒ様が来るなら酒も追加せんといかんな。酒屋も寄って帰るか。アラにマジックエコバックを借りていて良かったな)

 とても1人では抱えられない材料の量になる事は目に見えていた。
 そしてセブンは貧弱である。
 サラから、サイヒから貰ったマジックアイテムのエコバックを借りていたのだ。
 それにしてもエコバックの似合う男である。
 
 市場に向かえばそこらかしらの店から声がかかる。
 セブンの料理好きは有名なのである。
 素材選びの眼も良く、そして値切りのプロだ。
 それぞれの店の店主たちが「今日は値切らんぞ」と気合を入れてセブンを店に招く。

 そして合わせて2時間にわたる口論のお陰で、セブンは旬の素材を3割引きで手に入れることが出来たのだった。
 ほくほくである。

「買い物に時間を使ってしまった、帰ったら急いで支度をせんとな」

 クックックッ、と悪人笑いをするが、この界隈にセブンのこの笑いに引くものは居ない。
 皆慣れているのだ。
 3歳ほどの子供まで「お医者さんきげんいーね☆」とまで言われている。
 子供のお母さんも「見ちゃいけません!」とは言わない。
 寧ろ「今日は相当気合入れて料理を作るつもりなのね、今度レシピを聞かないと!」と寧ろセブンの高笑いは好意的に受け入れられていた。

 セブンは料理を作ると材料を買った店におすそ分けをするのだ。
 ソレ目当てに店に来る主婦も少なくない。

 悪人顔に悪人笑いのセブン。
 意外とディノートでは愛されている人物なのであった。
 なお本人が気づく様子は今後数十年後も無いのであるが。
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