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330 ◇幾つになっても子ども
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「晃くん! 晃くん、こんなの置いてあった!」
今日も抜け出されてる……。せめて気付け、僕。
寝起きの頭でぽやぽや考える晃は、すっかり早寝早起きだ。一太の早起きに付き合っていると、晃も自然と早く眠たくなる。
「扉の前に二つ置いてあったんだけど、何だろう」
今日も一太は随分早起きだ。いや、まあ、一太にしてはのんびり、なのだろうか。晃が携帯電話を確認すると、安定の六時半過ぎ。扉の前、ということは、今日は一太は、晃に声を掛けずに起きるつもりで、一度部屋の外に出たのだろう。
「んー? クリスマスプレゼントじゃない?」
真っ赤な長靴の入れ物。その中に詰まったたくさんのお菓子。クリスマスに定番のプレゼントだ。何か欲しい物はない? と母に聞かれて、別にない、と答えると、いつもこれが置いてあった。中学三年生までは子どもだ、と言って中学三年生まで。もちろん、手術が済んで、晃の食べる物に制限がなくなってからだけれど。
久しぶりに見たクリスマスプレゼント。お菓子は好きだから、食べるけど。また、いらないって言ったのに置いてる、とかいつも思ってたけど。昨年、一太の枕元にプレゼントを置いてから、晃には母の気持ちが少し分かるようになった。
好きな人、大事に思う人に何かをプレゼントしたい気持ち。喜ぶ顔を想像して、つい準備してまう気持ちが。
「ええっ? クリスマスプレゼント? 俺たち、大人なのに?」
二つの同じプレゼントを両手に抱えて布団の横にしゃがむ一太は、去年も同じことを言っていた気がする。
サンタクロースは、良い子の所にしか来ないから俺の所に来なかった。来ないままに大人になってしまった、と。
「母さんから見たら、幾つになっても僕たちは子どもだよ」
「晃くんは陽子さんの子どもだけど……」
「いっちゃんのことも、自分の子どもみたいに思ってるってことじゃない?」
「え?」
「だから、プレゼントが二つ置いてあるんでしょ」
「へえ……」
派手な色のプレゼントを見下ろして、一太は少しだけ頬を緩めた。
「僕たち良い子だから、プレゼントが届いたね」
「そう? ……そうかな?」
自分はどうかしらないが、一太は間違いなく良い子だ。昨日、一太のお陰でのんびりできた母が、どんなに喜んでいた事か!
料理はハードルが高いが、洗濯物を畳んでおいたことにも大喜びしていた母を見て、こんなことで良かったんだなあ、と晃は少し反省してしまった。テレビを見ながらただ、乾いていた洗濯物を畳むだけ。それだけの事が、あんなに母を喜ばせるなんて知らなかったのだ。してもらうことが当たり前すぎて気付かなかった。
一太との生活でも、できる家事はなるべくやろう、と晃は決意してプレゼントを一つ受け取る。
寒い中話していて、くしょんとくしゃみをし始めた一太を咄嗟にもう一度布団に引きずり込もうとして、はたと晃は気付いた。
「これ、部屋の前だった?」
「うん」
良かった、と晃は胸を撫で下ろす。母が、プレゼントを枕元に置こうとしていなくて良かった。二人で一つの布団に寝ている所を見られたら、流石に気まずい。男同士とはいえ、気まずい。……やめるつもりはないけれど。
晃は、母が、自分を少しだけ大人扱いしてくれたことに安心して、とりあえず一度、一太を布団に引きずり込んで温めた。
今日は、五分で逃げられた。
今日も抜け出されてる……。せめて気付け、僕。
寝起きの頭でぽやぽや考える晃は、すっかり早寝早起きだ。一太の早起きに付き合っていると、晃も自然と早く眠たくなる。
「扉の前に二つ置いてあったんだけど、何だろう」
今日も一太は随分早起きだ。いや、まあ、一太にしてはのんびり、なのだろうか。晃が携帯電話を確認すると、安定の六時半過ぎ。扉の前、ということは、今日は一太は、晃に声を掛けずに起きるつもりで、一度部屋の外に出たのだろう。
「んー? クリスマスプレゼントじゃない?」
真っ赤な長靴の入れ物。その中に詰まったたくさんのお菓子。クリスマスに定番のプレゼントだ。何か欲しい物はない? と母に聞かれて、別にない、と答えると、いつもこれが置いてあった。中学三年生までは子どもだ、と言って中学三年生まで。もちろん、手術が済んで、晃の食べる物に制限がなくなってからだけれど。
久しぶりに見たクリスマスプレゼント。お菓子は好きだから、食べるけど。また、いらないって言ったのに置いてる、とかいつも思ってたけど。昨年、一太の枕元にプレゼントを置いてから、晃には母の気持ちが少し分かるようになった。
好きな人、大事に思う人に何かをプレゼントしたい気持ち。喜ぶ顔を想像して、つい準備してまう気持ちが。
「ええっ? クリスマスプレゼント? 俺たち、大人なのに?」
二つの同じプレゼントを両手に抱えて布団の横にしゃがむ一太は、去年も同じことを言っていた気がする。
サンタクロースは、良い子の所にしか来ないから俺の所に来なかった。来ないままに大人になってしまった、と。
「母さんから見たら、幾つになっても僕たちは子どもだよ」
「晃くんは陽子さんの子どもだけど……」
「いっちゃんのことも、自分の子どもみたいに思ってるってことじゃない?」
「え?」
「だから、プレゼントが二つ置いてあるんでしょ」
「へえ……」
派手な色のプレゼントを見下ろして、一太は少しだけ頬を緩めた。
「僕たち良い子だから、プレゼントが届いたね」
「そう? ……そうかな?」
自分はどうかしらないが、一太は間違いなく良い子だ。昨日、一太のお陰でのんびりできた母が、どんなに喜んでいた事か!
料理はハードルが高いが、洗濯物を畳んでおいたことにも大喜びしていた母を見て、こんなことで良かったんだなあ、と晃は少し反省してしまった。テレビを見ながらただ、乾いていた洗濯物を畳むだけ。それだけの事が、あんなに母を喜ばせるなんて知らなかったのだ。してもらうことが当たり前すぎて気付かなかった。
一太との生活でも、できる家事はなるべくやろう、と晃は決意してプレゼントを一つ受け取る。
寒い中話していて、くしょんとくしゃみをし始めた一太を咄嗟にもう一度布団に引きずり込もうとして、はたと晃は気付いた。
「これ、部屋の前だった?」
「うん」
良かった、と晃は胸を撫で下ろす。母が、プレゼントを枕元に置こうとしていなくて良かった。二人で一つの布団に寝ている所を見られたら、流石に気まずい。男同士とはいえ、気まずい。……やめるつもりはないけれど。
晃は、母が、自分を少しだけ大人扱いしてくれたことに安心して、とりあえず一度、一太を布団に引きずり込んで温めた。
今日は、五分で逃げられた。
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