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1【運命との出会い】

1-14 ディナー(3)※

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「時間も時間だしそろそろお開きにしようか。つかさくんは今日はこのまま泊まらせてあげなさい。彼が使ってた部屋そのままにしてあるから」
「わかった」
「階段上がって左ね、楓真くんの右向かいの部屋」
 
 
 父さんからつかささんの部屋の場所を聞き頷く。
 自分が抱いて運ぶのが当然のように、「失礼します」と一言声をかけ、うなじと膝裏に腕を通しそっと持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこの格好になってもなお深く眠りについているのか、つかささんが起きる気配は一切なかった。
 
 
「ここは私が片付けておくよ。楓真くんもそのまま休みなさい。初出勤お疲れ様、おやすみ」
「ありがとう父さん。おやすみ」
 
 
 そんな父さんの言葉に有難く甘え、見送られながらリビングを出て廊下を進み、玄関ホールにある階段で静かに二階へ上がる。二階には全部で三部屋存在し、上がってすぐ現れる正面の一番大きな部屋が俺の部屋。その部屋と向かい合うような形で階段を境に左右にそれぞれ位置する二部屋の内、左側がつかささんの部屋だった。
 
 ちなみに、まぁまぁ広さのあるこの家の二階がたった三部屋のみで構成されているのは、各部屋にバストイレが完全に備え付けとなっているからだったりする。
 アルファとオメガは定期的にやってくる性のしがらみからは決して逃れることはできない。一度来てしまうとその身体の熱は約一週間続き、生活もままならない程辛いものだった。
 そんな苦しい期間をたった一人で安全に過ごすためにも、せめて部屋はなんでも揃い頑丈な扉に守られたある種の要塞のように作られていた。
 
 
 短い廊下を進み、目的の部屋の前に立つ。
 
 思い浮かべるのは十二年ぶりに帰国した昨夜の事。
 長時間のフライトで疲れた身体を休めようと自分の部屋に入るその瞬間も、何故だか無性に後ろ手に位置するこの部屋の事が気になっていた。その時はここが誰の部屋なのか知らず、わざわざ父さんに聞く事も、開けて中へ入る事もしなかった為、すぐさま気の所為だろうと見て見ぬふりをし、一秒でも早く休む事を優先した。
 ―――が、今その理由がわかった。
 
 
 ここは、俺が海外へ出てからこの家に来たつかささんが十年近く過ごした彼の部屋。
 
 
 腕の中の大切な存在を落としてしまわないよう慎重に抱え直し、そっとドアノブを回す。
 
 すると、開いた隙間からふわりと香る柑橘系の優しい香り。
 
 
「――っ」
 

 その香りに誘われるよう、ふらりと一歩足を踏み入れれば、家を出て既に三年は経つと聞いていたにも関わらず、この部屋は今も尚、俺を刺激するには十分の香りに満たされていた。
 
 
「……やば、」
 
 
 あまりにも濃い空間に引っ張られてしまわないよう気を引き締め、つかささんを奥のベットへ運ぶ。
 電気をつけていない室内は窓から漏れる月明かりのみで辺りを確認する分には十分だった。

 綺麗に整えられたセミダブルのベットにそっと降ろし、安らかに眠る様子を見つめる。すぅすぅ漏れる吐息を吐き出す小さな口を眺めていると、長居は危険だと警報が頭に鳴り響き、踵を返し部屋を出る――つもりだった。
 
 
「ふ…まさん」
「っ」
 
 
 静かな部屋に響くその囁きで、まるで金縛りにあったかのようにその場から動けなくなってしまった。
 錆び付いたブリキのおもちゃのようにぎこちなく振り返ると、横たわったまま薄ら目を開けたつかささんが俺をじっと見つめている。
 
 
 窓から漏れる月明かりが、都合よく見せる幻覚なのかもしれない。
 
 
 だけど、俺の目にはいま一度、「ふうまさん」と呼ぶつかささんの口の動きが鮮明に見えた。
 
 
 そこからの動きは秒だった。
 
 気付けばベットの上に乗り上げ、立てた両肘の間につかささんの顔を閉じ込め至近距離で見つめる。その間もつかささんの視線は俺からそらされることは無く――視界の端をゆっくり持ち上がる両の腕が通り過ぎ、俺の頭を引き寄せるように俺も重力に逆らわず、そっと、だけどしっとりと、


 唇が重なった。
 
 
「ん、」
 
 
 初めて触れる感触は、何ものにも例えることのできない唯一無二の感触で、何度も何度も角度をかえ、いつまでも離れることができなかった。
 上唇を吸い、歯列を割って中に入り込めば逃げる舌を執拗に追い、絡めとる。
 たまに漏れるつかささんの小さな喘ぎと俺のシャツを握る拙い指の感触がゾクゾクして堪らない。
 
 
 自分のあそこがキスひとつで完全に滾っている。
 
 
 そんな事実にハッと笑いが漏れてしまう。
 俺は下半身バカの猿か。目の前のこの人は、酔って正常な判断を下すことができない状態。そんな人を襲うなんて最低だ。
 
 そう頭ではわかっている、わかっているのに
 
 
「――ぁ、んっ、ふ…まさ」
「っ」
 
 
 俺の太ももに感じるつかささんのそこも健気に存在を主張していた。
 ここで止まることができる男は聖人君子に違いない。
 
 
 そして俺は――
 
 
 
 
 
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