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1【運命との出会い】
1-15 ない記憶(1)
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「ん、…ぃ…ったぁ…」
窓から漏れる暖かな陽の光が顔面を襲い、目覚ましもなしに自然と目を覚ますと一番に感じたのは頭の鈍痛。しきりにガンガン響くそれに、横向きのままじっと動かず目を瞑って耐えている間、頭の片隅では昨夜のことを思い返す。
楓珠さん楓真さんと三人でトヨさんの退勤を見送ってから飲みの場所をソファに移動し飲み直そうとなったまでは覚えている。しきりに隣に座り接近してくる楓真さんとの距離を頑なに保とうとしていた事も。
だけどそこまでだ。
いつの間に寝てしまったのか、いくら考えても思い出せずにいると、ふといまこの瞬間、腰を抱く手の感触にいま自分はベットにひとりじゃないことに初めて気がついた。
え、と漏れる僕の声が聞こえたのか背後に感じる存在が、んん~っとさらに僕を腕の中へと抱き込んでいく。
「え、え」
「ふぁ…ぁ~…今何時、ですか…」
「えと…」
わけもわからず聞かれたことに答えるべく時計を探す。室内を見回すうちにここが楓珠さん宅の僕の部屋だという事に気がついた。であれば時計は、と腕に力を込め後ろを振り向いた瞬間、上半身裸の楓真さんが視界に飛び込んできた。
「っ!?!?」
「ん~…まだ6時前ですよつかささん…もう少し寝ましょ」
「え、あ、ちょ…っ」
自らスマホで時間を確認した楓真さんは役目は終えたと言わんばかりにスマホを放り、何かむにゃむにゃ言いながら再び僕を腕の中へ閉じ込めてしまう。さっきと違い真正面から抱かれた事により立派な胸筋が視界いっぱいに広がる光景は、つい今しがた悩まされていた頭痛など一瞬で吹き飛ばしてしまうくらい強烈で、緊張して、動けなかった。
ダイレクトに感じる温かい人肌と、規則正しい心臓の鼓動が、今の状況は夢ではないことを鮮明に物語っている。
「ふ、楓真さん、あの、」
どうにか起きて欲しくてペチペチ二の腕を叩く。その筋肉もまた素晴らしいもので、こんな状況でもなかったらじっくり触らせてもらいたい…なんて一瞬現実逃避をしかけてしまった。
慌てて正気に戻り、お~い、楓真さ~んとなぜかささやき声になってしまいながらも必死に呼びかけを続ける。
「ん、……つかささん」
「起きましたか?」
奮闘すること数分後、ようやく覚醒したのかゆっくり瞬きを繰り返しながら目が開きぼぅっと僕を見る。
そして、
「おはよ……ござ…ます」
チュッと、ハンコを押すかのように一瞬触れて離れていく楓真さんの唇をぽかんと見送る。
「体調は大丈夫ですか?」
「え、と……」
何事もなくふわりと微笑まれ、いまさっきの出来事は幻だったのか、と一人混乱している僕などお構い無しに片手は腰にまわしたまま、もう片方の手が優しく前髪を撫でていく。
例えるならこれは、一夜を共にした次の日の朝、みたいな甘い雰囲気のよう―――。
「……違い、ますよね?」
「何がですか?」
「えと、僕達何もなかった…ですよね?」
「んー……ご想像におまかせします。とりあえず、昨夜はかわいかったです、とだけ伝えておきますね」
「えっちょっ楓真さん!?」
「そろそろ起きましょうか」
ん~~と伸びをしながら起き上がっていく楓真さんを慌てて追いかける。そこでまた新たに気付いた事が……。
自分が今着ている服が昨夜と変わっていた。
あきらかにサイズの違うダボダボの……これは昨夜楓真さんが着ていた服だ。
そして、掛け布団が捲れてあらわになった自分の足が何も覆われていない事にも今はじめて気がついた。
「――!?」
なぜこんな事にも気が付かなかったのだろうか、鈍すぎる自分に驚愕しながら脊髄反射で掴んだ布団を頭から被り、体操座りしながら本気で昨夜の事を思い返す。が、一向に何も思い出せない。その代わり思い出したかのようにバッと手を伸ばすのは首に巻かれたシンプルな黒のチョーカー。
……大丈夫だ。付けてる。
慣れた手触りについ、ホッと一息出てしまう。
これは僕の命綱。片時も外さずいままで生きてきたそれは、今も尚うなじを守っていた。まだそのときでは無い……大丈夫。
ドキドキはやる心臓を落ち着かせながら改めて自分の身をかえりみてみるが、ひとつ言えるのは身体に感じる違和感は特に無い、という事。
だがズボンはおろか下着まで履いていないことを知り、恐る恐るお山座りのまま布団の中で自分の素肌をくまなく探してみた。
今の状況を楓真さん目線で言うと、背中を向けたミノムシが何かガサゴソしている不審な動き。
だからだろうか、あっと思った時には予告なしに布団を剥がされ座り込んだ背中を包み込むように伸びてきた楓真さんの手がそのままあらわになった右太ももに触れ、そっと内側を押す。
「お探しの物はこれですか?」
「――っ!」
そこには、虫刺されのような、赤い跡。
「悪い虫に吸われちゃいましたね」
「っぁ……」
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