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三章 ギルド

イングラ村

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 現在領主不在の三つの村の中の一つ、イングラ村。広い草原があるため牧羊が盛んである。村の規模としては三つの中で一番小さいが、畑作と兼業の上に上質な羊毛や羊乳、またそれを加工したものがミナルディ国内でも評判が良いため、経済的には恵まれている。

「俺はアンドリューだ。一応イングラ村の憲兵隊を纏めている。まあ、纏めていると言っても部下が三人しかいないんだがな」

 官憲の男がそう名乗った。ミナルディではどんな小さい村でも最低一個小隊の憲兵隊が常駐しており、治安維持や犯罪抑制のために働いている。二人のチームで昼夜二交替で仕事にあたっているという。

「私はイングラ村の村長で、ジョージといいます」

 農夫の男は村長だった。村の基幹産業である牧羊が今窮地に陥っており、藁をも掴む思いでピットアインに赴いたそうだ。

「あたしはスージィ。それで三つ編みの子がマリアンヌ、こっちの銀髪がカール。で、あの逆立った赤い髪のがリーダーのチューヤよ」

 大きめの胸を張ってスージィが自己紹介をした。

「ちょっと待て。いつから俺がリーダーになったンだよ?」
「貴様が首席だからな。仕方あるまい」
「ボクはいつだってチューヤの下僕さ!」
「模擬戦で一回でもあたしが勝てたらあたしがやってるわよ」

 いきなりリーダーにされてしまったチューヤが意義を申し立てるが、それは全員一致で却下されてしまう。

「ちっ、わーったよ。今回リーダーになっちまったチューヤだ。よろしく頼む」

 そう言ってチューヤがアンドリューとジョージと握手を交わした。
 ちょうどそこへ、一台の幌馬車が停車した。一頭引きの馬車だがそれなりの大きさはあり、十人くらいなら余裕で乗れそうである。

「お待たせいたしました! 皆さんはこちらに!」

 御者をしていたのはミラだった。いつものゴシック風の黒いメイド服だ。
 それを見て一同が困惑の表情を浮かべた。

「お前、なにもこんな時までそんな服じゃなくたって……」
「そうそう、そんなドレスじゃ動きにくくなあい?」

 チューヤとマリアンヌがそう言うが、当のミラは一切動じる事なく、逆に満面の笑みを浮かべて言ってのけた。

「これがメイドの戦闘服です!」
「「あ、そう……」」
「はい! では参りましょう!」

▼△▼

「それにしても、皆さんはなぜ破格の値段で引き受けて下さったのですかな?」

 村長のジョージのこの質問は、至極真っ当なものだろう。

「言っただろ? オープン記念の特別サービスだ。何しろ初仕事だからな」

 そんなチューヤの言い分も分からなくはないが、それにしても安すぎるため、ジョージには少々の疑念が残っている。

「なに、ちょっとした謝罪とか、恩返しの類だと思ってくれりゃいい」

 それ以上は何も言わないというオーラを出しながらソッポを向くチューヤに、ジョージもそれ以上追及する事はせず、他のメンバーとの雑談に移った。
 やがて馬車は主要な街道から外れ、それほど整備されているとは言えない道へと入っていく。馬車の揺れも大きくなってきたが、御者席のミラから大声が飛んできた。

「みなさーん! ちょっと飛ばしますので!」

 そして馬車が急加速していく。もはや最高速と言っていいかもしれない。揺れも激しくなる中、カールがアンドリューに訊ねた。

「この辺りは盗賊が出るのか?」
「羊毛などを取引する行商人も通るからな。出ないって訳じゃないが、護衛を連れた商人を襲ったにしても、命を懸けるほどの実入りは少ないだろう? なので、かなりレアなケースだと言っていい」
「ではそのレアケースが発生したようだな」
「「!!」」

 カールの言葉に驚くジョージとアンドリュー。アストレイズのメンバーにしてみればさもありなんといった表情だ。

「表向き護衛を連れているようには見えない幌馬車だ。いいカモに見えるんだろう」

 そういってカールが幌馬車の扉を開く。土煙を上げながら四頭の馬が迫ってくるのが見える。

「マリ、他にはいないか?」
「ちょっと待って。探してる――うん、大丈夫。追って来てるのはあの四人。待ち伏せもいないみたいだよ」
「そうか。では足止めして少々可愛がってやろう」

 そう言って右の手のひらから複数の魔法陣を展開させた。青く輝く魔法陣は水属性の魔法。

「おい、馬は殺すなよ?」
「分かっている」

 チューヤからの中々難しい注文を面倒くさそうにあしらい、カールは魔法を発動させた。

 
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