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34. 僕の先生になって!

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 クリフォードを不快にさせたくない。

 その意外すぎる理由にマリィは驚いた。
 以前、お礼の為にフィルバートを別邸に誘ったことがあるが、おそらく同じ理由だろう。

 フィルバートとクリフォードの間にどんな関係があるかマリィには分からないが、フィルバートにとっては重大で絶対に避けなくてはいけない事態のようだった。

 だが、国王は深いため息を吐き、やれやれと肩を竦めた。

「まーだ気にしているのかい? フィルバート。
 いつも言っているだろう、今更だと。
 彼が君のことを毛嫌いしているのは今に始まった話ではないし、今更避けたってあの子が変わる日は二度とない」

「しかし……」

「今の彼がああなったのは自業自得だ。
結局、君が何をしたって彼はもう手遅れなんだ。さっさと諦めなよ。それに……いや、これ以上の言及は止めておこうか。
フィルバート? ……本当は分かっているだろう? 避けるだけが正解じゃないって」

「…………」

 そこまで言われてもフィルバートは考え込む。かなり頑なだ。国王の説得にも応じない。

 一方、そんなフィルバートをルークはじれったく思いとうとう堪えきれなくなったのだろう。頬を膨らまし、彼はフィルバートに叫んだ。

「あの人なんかいい!」

「……ルーク?」 

「あの人と会ったの僕は赤ちゃんの頃が最後だよ。
 お屋敷には来ないし、話したこともないし、あの人のこと親とか思ったことがない!
 嫌なお隣さん、うん、本当にそれ!
 だから、あの人の事なんかいい!」

 ルークは腰に手を当て、フィルバートを見上げる。不思議とそのふくれっ面はマリィにそっくりだ。
 フィルバートはマリィに似たその迫力を前に言葉を詰まらせる。
 そんなフィルバートにルークは遠慮容赦なくずばり聞いた。

「フィルバートは僕の先生になるの嫌?」

「……っ」

 フィルバートは息を飲む。
 ずっとクリフォードのことばかり考えていた彼が初めて目の前の、自分の生徒になるかもしれないルークに意識を向ける。

 嫌か、否か、そう聞かれれば、答えは一つだ。
  


「嫌ではないな……」



 フィルバートは目の前の小さな魔法使いを真っ直ぐ見つめた。

「俺は、君の将来を楽しみにしている人間の1人だ。
 同じ魔法使いだが、君が大人になった時、きっと自分とは違う魔法使いになっいる気がする。もちろん、良い意味で。
 だから、嫌ではない。むしろ望んでいるまである」

 その言葉にルークはぱあっと目を輝かせる。

「じゃ、じゃあ……!」

 そんなルークの前にフィルバートは腰落とす。目線が合い、フィルバートはルークに微笑んだ。

「……気づかせてくれてありがとう。ルーク。
 考えるべきは、過去の過ちではなく、未来の君だな。
 君の家庭教師は、先生がダメなら、俺以外の誰にも任せられない大役だ。
 ただ……厳しくやらせてもらう」

 フィルバートはルークの目の前に手を出すと、何も無いその場所に手の平サイズの光を出した。

「わっ!」

 突然の眩しい光にルークが驚きの声を上げる。
 とても強い光は玉座の間の隅々まで照らし、マリィの驚く顔も、国王の穏やかな顔も全てはっきりと映した。
 そんな光の中でフィルバートは告げた。

「同じことをやってみろ」

「!」

 その口調は正に先生だった。
 ルークは驚いたがフィルバートの意図を組み意を決した。

 手の平を出し、ルークは念じる。頭の中に先程見たフィルバートの光を思い描く。

 それが明確に思い描けた瞬間、ルークは手に力を込めた。

 その瞬間……。


 ルークの手から出たのは、6粒の小さな光だった。


「え……?」


 確かにそれはとても輝いていて確かに眩いものだったが、吹けば飛ぶほど小さい。フィルバートの光とは段違いだ。自分の手の平の光に、ルークは2度見する。

 いつもの自分の魔法ならこのぐらい動作もない筈なのに、とルークは不思議に思い、何度も試すが。やはり6粒が精々だった。
 しきりに首を傾げるルークに、フィルバートは微笑みを浮かべた。

「1番の課題はこれだな。
 光は一番出すのが難しいんだ」

「一番難しい? 出来ないの?」

 不安になるルーク。だが、フィルバートはルークの頭に手を伸ばし、大丈夫だと言うようにその頭を撫でた。

「魔法使いが出す光は、ただの光じゃないんだ。
 今は出せなくてもいつか出せるようになる。少なくとも6粒も出たなら立派なものだ」

「どういうこと……?」

 ただの光じゃないと言われルークは聞いてみる。
 そのルークにフィルバートは優しく答えた。

「魔法使いは基本的に何でも出来るが……光は、誰かに、それも多くの人に愛されていなければ出せないんだ」






























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