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第1部 仮初めの婚約者
困っている下女
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あれから三日後。
クレアは、未だに皇太子の立太子パーティーの際に必要なドレスの調達をすることができずにいた。
やはり食事を抜きにされるのを覚悟の上で、第二皇女のトスカにドレスを借りるべきなのだろうか。
ただ、食事を抜きにされるだけならなんとか我慢はできるのだが、今回は果たしてそれだけで済むのかどうか。
というのも、もしトスカのドレスに手を加えるとすると再犯扱いされ、前回は三日だったのだが今回は更に伸びて、例えば一週間になる可能性もあり、それは正直に言って恐ろしくないとは言えなかった。
とはいえ、第一皇女のイザベラに貸してもらうように願い出るのは気が進まない。
なぜなら、イザベラはトスカよりも、クレアが人質であることを差別をしているからだ。
たとえもう着ないドレスなのだとしても決して貸してくれることは無いだろうが、万が一あったとしたら、その際はおそらく食事を抜きにされることよりも厳しいペナルティが待っているのだろう。
そう思考を巡らせながら、用具室へと向かった。これから皇女宮内の掃除に取り掛かるのだ。
昨日は一階の部屋をしたので、今日は二階の部屋をする予定だが、何せ二階だけでも三十部屋以上あるのだ。
今はまだ朝の八時だが、きっと一日がかりで取り掛かっても今日中には終わらないだろう。
皇女宮の下女たちは、昨日クレアが一階の掃除ができなかった残りの部屋の掃除に取り掛かると言っていたので、一緒に掃除をする者はいないと思われる。
ともかく用具室に入り掃除用具を取り出していると、突然盛大なため息が聞こえた。
「……はあ。どうしよう……。正直に報告したら、あの方はきっと想像もできないようなお咎めを受けるんだわ……」
クレアはその声の内容がとても気にかかったので、声がした方向に視線を移してみると、そこにはお仕着せを着て蹲いる女性がいた。
「……如何されましたか?」
女性はビクッと身体を跳ね上げ、クレアに気がつくと小さく息を吐き出した。
「……クレア様」
「こんなところで蹲って、どうかなされたのですか?」
下女は、本来王族であるクレアとは気軽に会話をできる立場ではないのだが、この皇女宮では下女以下の立場であるクレアに対して、大半の下女は礼儀を気にせず気楽に話しかけていた。
ただ、クレアは目前の彼女とはこれまであまり話したことはなかったはずで、確か名前はアンナといっただろうか。
「…………実は、紛失した物があるのです」
「紛失した物ですか。それは何ですか?」
「いえ、それは、その……」
何かとても言いだしにくそうな雰囲気を醸し出している。だが、それも無理もないのかもしれない。
何しろクレアは下女の格好をしてはいるが一応王族であるし、彼女とはあまり会話をしたことがないのだ。
クレアへの信頼が殆どないので、自分の過失を打ち明ける気持ちになどなれないだろう。
「大丈夫です。私は絶対に他言などしませんから。……そもそも打ち明けられるほど、親しい人はいないのですが……」
それは事実ではあるが、何となく自虐を含んでいて自分で心を抉ってしまったように感じ、クレアは心の中で小さく苦笑した。
「……そうですか……」
アンナも何と答えてよいのか分からないのか、半眼でチラリとクレアを見て少し間を置いてから切り出す。
クレアは、未だに皇太子の立太子パーティーの際に必要なドレスの調達をすることができずにいた。
やはり食事を抜きにされるのを覚悟の上で、第二皇女のトスカにドレスを借りるべきなのだろうか。
ただ、食事を抜きにされるだけならなんとか我慢はできるのだが、今回は果たしてそれだけで済むのかどうか。
というのも、もしトスカのドレスに手を加えるとすると再犯扱いされ、前回は三日だったのだが今回は更に伸びて、例えば一週間になる可能性もあり、それは正直に言って恐ろしくないとは言えなかった。
とはいえ、第一皇女のイザベラに貸してもらうように願い出るのは気が進まない。
なぜなら、イザベラはトスカよりも、クレアが人質であることを差別をしているからだ。
たとえもう着ないドレスなのだとしても決して貸してくれることは無いだろうが、万が一あったとしたら、その際はおそらく食事を抜きにされることよりも厳しいペナルティが待っているのだろう。
そう思考を巡らせながら、用具室へと向かった。これから皇女宮内の掃除に取り掛かるのだ。
昨日は一階の部屋をしたので、今日は二階の部屋をする予定だが、何せ二階だけでも三十部屋以上あるのだ。
今はまだ朝の八時だが、きっと一日がかりで取り掛かっても今日中には終わらないだろう。
皇女宮の下女たちは、昨日クレアが一階の掃除ができなかった残りの部屋の掃除に取り掛かると言っていたので、一緒に掃除をする者はいないと思われる。
ともかく用具室に入り掃除用具を取り出していると、突然盛大なため息が聞こえた。
「……はあ。どうしよう……。正直に報告したら、あの方はきっと想像もできないようなお咎めを受けるんだわ……」
クレアはその声の内容がとても気にかかったので、声がした方向に視線を移してみると、そこにはお仕着せを着て蹲いる女性がいた。
「……如何されましたか?」
女性はビクッと身体を跳ね上げ、クレアに気がつくと小さく息を吐き出した。
「……クレア様」
「こんなところで蹲って、どうかなされたのですか?」
下女は、本来王族であるクレアとは気軽に会話をできる立場ではないのだが、この皇女宮では下女以下の立場であるクレアに対して、大半の下女は礼儀を気にせず気楽に話しかけていた。
ただ、クレアは目前の彼女とはこれまであまり話したことはなかったはずで、確か名前はアンナといっただろうか。
「…………実は、紛失した物があるのです」
「紛失した物ですか。それは何ですか?」
「いえ、それは、その……」
何かとても言いだしにくそうな雰囲気を醸し出している。だが、それも無理もないのかもしれない。
何しろクレアは下女の格好をしてはいるが一応王族であるし、彼女とはあまり会話をしたことがないのだ。
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それは事実ではあるが、何となく自虐を含んでいて自分で心を抉ってしまったように感じ、クレアは心の中で小さく苦笑した。
「……そうですか……」
アンナも何と答えてよいのか分からないのか、半眼でチラリとクレアを見て少し間を置いてから切り出す。
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