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第1部 仮初めの婚約者
私も手伝います
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「……クレア様。実は書物を紛失してしまいまして……」
「書物ですか。それはどういったものですか?」
「えっと、それは……、ちょっと待っていてください」
アンナはエプロンのポケットから、小さな紙を取り出してその文面を読み上げていく。
「それは占星術の本でして、明るい茶色のカバーがかけられています。厚さは中くらいの厚みで、表紙には星の絵が描かれています」
「占星術の本……」
クレアはそれを聞いた途端、何かを思い浮かべた。
よく思考を巡らせてそれが何だったかを思い出してみると、一つのことに思い当たる。
「もしかして、第一皇女、イザベラ様のご本でしょうか」
「…………!」
「違いましたか?」
「い、いえ! 間違っていません。その通りです」
「やはりそうでしたか……」
となると、先程のアンナの呟きの意味を痛いほど理解をすることができた。何しろイザベラは気難しくて他人の失敗を特に嫌うのだ。
おそらく自分の本を下女が紛失したなどと知られてしまえば、それこそアンナは再起不能になるまで罰を課されるだろう。
そう思うと、たちまち恐怖心がクレアの身体中に駆け巡った。以前に食事を抜きにされた時のことを思い出したのだ。
──あのような思いを、誰かにさせてはならない。
「アンナさん。私も捜索を手伝いたいのですが、自分に課された仕事があるので全面的には協力することはできないのです。ですが掃除をしながらであれば、捜索に協力することができるかと思います」
「本当ですか?」
アンナはギュッとクレアの手を握り締めた。
「ありがとうございます、クレア様!」
「いえ。それでは早速取り掛かりますね」
「はい! 私は先ほど一階を見て回ったので、三階を捜索します」
「はい、分かりました」
そうして、二人は掃除をしながら紛失物の捜索をした。
ただ、先ほどアンナがひとり言で言っていた「あの方」とは誰なのだろう。今回の過失と関わりがあるのだろうか。
そもそもアンナ本人が犯した過失ならば、あのようなメモを用意などしていないはずだ。
そう漠然と思いながら、クレアは各フロア内の掃除を行いながら本も探し回っていったのだった。
「書物ですか。それはどういったものですか?」
「えっと、それは……、ちょっと待っていてください」
アンナはエプロンのポケットから、小さな紙を取り出してその文面を読み上げていく。
「それは占星術の本でして、明るい茶色のカバーがかけられています。厚さは中くらいの厚みで、表紙には星の絵が描かれています」
「占星術の本……」
クレアはそれを聞いた途端、何かを思い浮かべた。
よく思考を巡らせてそれが何だったかを思い出してみると、一つのことに思い当たる。
「もしかして、第一皇女、イザベラ様のご本でしょうか」
「…………!」
「違いましたか?」
「い、いえ! 間違っていません。その通りです」
「やはりそうでしたか……」
となると、先程のアンナの呟きの意味を痛いほど理解をすることができた。何しろイザベラは気難しくて他人の失敗を特に嫌うのだ。
おそらく自分の本を下女が紛失したなどと知られてしまえば、それこそアンナは再起不能になるまで罰を課されるだろう。
そう思うと、たちまち恐怖心がクレアの身体中に駆け巡った。以前に食事を抜きにされた時のことを思い出したのだ。
──あのような思いを、誰かにさせてはならない。
「アンナさん。私も捜索を手伝いたいのですが、自分に課された仕事があるので全面的には協力することはできないのです。ですが掃除をしながらであれば、捜索に協力することができるかと思います」
「本当ですか?」
アンナはギュッとクレアの手を握り締めた。
「ありがとうございます、クレア様!」
「いえ。それでは早速取り掛かりますね」
「はい! 私は先ほど一階を見て回ったので、三階を捜索します」
「はい、分かりました」
そうして、二人は掃除をしながら紛失物の捜索をした。
ただ、先ほどアンナがひとり言で言っていた「あの方」とは誰なのだろう。今回の過失と関わりがあるのだろうか。
そもそもアンナ本人が犯した過失ならば、あのようなメモを用意などしていないはずだ。
そう漠然と思いながら、クレアは各フロア内の掃除を行いながら本も探し回っていったのだった。
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