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第1部 仮初めの婚約者
人質王女の理由
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そうした暮らしが七年を過ぎた頃、乳母のメリッサが流行病で亡くなってしまった。
病で床に伏せた時点で、すぐに本宮から医者を派遣してもらい治療を施してもらったのだが、それでも病には勝てなかった。
そうして、無理やり連れて来られた敵国で、唯一の味方だったメリッサが亡くなった。
──その日からクレアは、敵国にたった独りで生きることになったのだ。
『クレア様……、申し訳ございません……』
『メリッサ……。私の方こそ、助けてあげられなくて、故郷に帰してあげられなくて……ごめんなさい……』
クレアはメリッサが亡くなった後も離れで一人で暮らすことを希望したが、皇帝はそれを許さず彼女を皇女宮へと移した。
それは、今から五年ほど前のことであり、クレアは皇女宮に住むようになって三ヶ月ほどは、簡素ながらドレスの着用を許されていた。
また、皇女宮に移り住む前は、時折離れに訪れる講師により最低限の講義は受けていたが、皇女宮では決まった日に皇女たちと共に講義を受けることができるようになった。
だが、それがきっかけで最初は自分に対して無関心だった皇女たちが、段々とクレアに対して嫌悪感を曝け出すようになっていったのである。
どうやら、クレアが自分たちよりも講師から評価が高かったことが癇に障ったらしい。
そうして、クレアは皇女宮で暮らして四ヶ月目に入る頃には衣服を下女の衣服に替えられ、これまで日に三度皇女たちと共に摂っていた食事は殆どパンのみとなり回数も二度に減らされ、食事場所も食堂ではなく私室で短時間で摂るように言いつけられた。
また、クレアの私室も移動させられ、現在の居室は元々物置部屋だった部屋であり、居住用ではないのでとても狭かった。
一体どこから入手してきたのかと首を傾げたくなるほど、倒壊寸前の酷く軋むベッドが一つ辛うじて置かれ、あとは換気用の窓と小さなテーブルという到底王女の部屋とは思えない部屋であった。
この世界では、権力者が正しいと言えばそれがたとえ間違ったことであっても、それがまかり通ってしまうのである。
そのような環境に置かれながらも、クレアはじっと耐えていた。
当初は祖国から助けが来てくれるかもしれないと思っていたが、講師から国際事情を学ぶようになると、それは儚い希望なのだということを知る。
この列強国である帝国に祖国が逆らうことなど、絶対にできないと悟ったからだ。
だが、クレアは絶望に呑み込まれたり、周囲の人間に媚びて現在置かれている環境を良くしようとは微塵も考えなかった。
それは亡くなった乳母のメリッサとの彼女が生前からの約束があったからだ。
『クレア様。何があってもご自分をお責めになられたりせぬよう。そして周囲の絶望に呑み込まれてはなりません。あなた様には大きな希望があるのですから』
『希望?』
『はい』
その希望が何なのか詳しいことは聞くことはできなかったが、クレアは何故か漠然と今でもその希望が自分の奥深いところで息づいているように感じていた。
だから、彼女は今日も顔を上げて足をしっかり大地に付け、今を生きているのである。
病で床に伏せた時点で、すぐに本宮から医者を派遣してもらい治療を施してもらったのだが、それでも病には勝てなかった。
そうして、無理やり連れて来られた敵国で、唯一の味方だったメリッサが亡くなった。
──その日からクレアは、敵国にたった独りで生きることになったのだ。
『クレア様……、申し訳ございません……』
『メリッサ……。私の方こそ、助けてあげられなくて、故郷に帰してあげられなくて……ごめんなさい……』
クレアはメリッサが亡くなった後も離れで一人で暮らすことを希望したが、皇帝はそれを許さず彼女を皇女宮へと移した。
それは、今から五年ほど前のことであり、クレアは皇女宮に住むようになって三ヶ月ほどは、簡素ながらドレスの着用を許されていた。
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だが、それがきっかけで最初は自分に対して無関心だった皇女たちが、段々とクレアに対して嫌悪感を曝け出すようになっていったのである。
どうやら、クレアが自分たちよりも講師から評価が高かったことが癇に障ったらしい。
そうして、クレアは皇女宮で暮らして四ヶ月目に入る頃には衣服を下女の衣服に替えられ、これまで日に三度皇女たちと共に摂っていた食事は殆どパンのみとなり回数も二度に減らされ、食事場所も食堂ではなく私室で短時間で摂るように言いつけられた。
また、クレアの私室も移動させられ、現在の居室は元々物置部屋だった部屋であり、居住用ではないのでとても狭かった。
一体どこから入手してきたのかと首を傾げたくなるほど、倒壊寸前の酷く軋むベッドが一つ辛うじて置かれ、あとは換気用の窓と小さなテーブルという到底王女の部屋とは思えない部屋であった。
この世界では、権力者が正しいと言えばそれがたとえ間違ったことであっても、それがまかり通ってしまうのである。
そのような環境に置かれながらも、クレアはじっと耐えていた。
当初は祖国から助けが来てくれるかもしれないと思っていたが、講師から国際事情を学ぶようになると、それは儚い希望なのだということを知る。
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だが、クレアは絶望に呑み込まれたり、周囲の人間に媚びて現在置かれている環境を良くしようとは微塵も考えなかった。
それは亡くなった乳母のメリッサとの彼女が生前からの約束があったからだ。
『クレア様。何があってもご自分をお責めになられたりせぬよう。そして周囲の絶望に呑み込まれてはなりません。あなた様には大きな希望があるのですから』
『希望?』
『はい』
その希望が何なのか詳しいことは聞くことはできなかったが、クレアは何故か漠然と今でもその希望が自分の奥深いところで息づいているように感じていた。
だから、彼女は今日も顔を上げて足をしっかり大地に付け、今を生きているのである。
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