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二度目

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わたしはローレン伯爵家に戻り、宣言通りに、結婚式の準備を手伝った。
母が先頭に立ち、取り仕切っているが、ミシェルと共に、わたしも加わった。

宿泊客用の客室の準備、宿屋の手配、料理やケーキの手配…
披露パーティは、館の庭を使うので、庭の手入れや植え替えも行われている。
花屋を呼び、イメージを伝え、花の種類を決める。

ミシェルのドレスは仕上げの段階に入っていた。
真っ白でふわふわとしたドレスは、清楚で可愛らしく、ミシェルに良く似合っていた。

「とっても素敵よ、ミシェル!」
「ありがとうございます」

頬を赤らめ微笑むミシェルは、幸せそうだ。

「ジスレーヌ、あなたはどのドレスにするの?新調したら?」
「リアム様から頂いたドレスにします」
「気に入っているのはいいけど、同じドレスばかりでは駄目よ、
身形に気を遣わなくては、誰も寄って来ないわよ?」

奇異な目で見られてしまえば、社交界でも爪弾きになってしまう。
誰からも声を掛けられず、壁の花になってしまう。
尤も、わたしは既に経験済だ。

「他の時には違うドレスにします、でも、今回はリアム様のドレスが着たいんです」

リアムが去ってしまえば、あのドレスを着る事は二度と無いだろう。

「ふふ、ジェイドとミシェルに感化されて、あなたも結婚したくなったんじゃない?」

母がからかう様に言い、わたしは「お母様はどのドレスに?」と急いで話を変えた。

結婚なんて…

出来る筈がない___


◇◇


リアムから離れれば、気持ちも落ち着く、
嫉妬に身を焦がす事もないと、わたしは自分に期待していた。

実家に帰ると安堵したし、幾らか気持ちも落ち着いた気がした。
わたしは気持ちの整理をし、リアムを諦めよう、エリザを認めようと努めた。
日中は良いのだが、夜になると胸が切なく疼き、涙を流してしまう。
自分でも成す術がなかった。


「どうした、元気ないな?何かあったのか?」

誰にも打ち明ける事は出来ない。
兄に聞かれても、わたしは「いいえ」と頭を振るだけだった。

「そういえば、暫く教会には行ってないだろう?気分転換でもして来いよ」

兄に言われ、「はっ」とした。
以前は何かある度に祈りに行っていたというのに、思いつきもしなかった。
わたしは「そうね、行ってきます」と早速準備をし、ロラとマーゴを連れて教会に向かった。


神父や修道女たちと挨拶を交わし、礼拝堂で祈りを捧げると、
今まであったモヤモヤが晴れて行く気がした。

わたしは一体、何の為に、二度目の今を生きているのか…

一度目の自分が浮かんできた。

使用人たちにいつも酷く当たっていた。
仕立て屋にはいつも急がせ、直させてばかりだった。
格下の者たちを、権威を持って抑え付けようとした。
自分の為に、伯爵家の財産を散財させた…

今思えば、愚かだったと分かる。

これまで、わたしは自分なりに変わろうとしてきた。
正しい行いをし、奉仕をする事で贖罪をしたかった。
少しは良くなっていると思いたい…

わたしにはまだ、贖罪をしなければいけない人がいる。

リアムはわたしの所為で爵位を継げなくなり、命までも落とした…
愛する人の全てを、わたしが奪った!

リアムへの贖罪をしなければ…


そしてそれは、リアムとエリザが結ばれる事で、完結する___


「自分の想いを抑えるのよ…」


◇◇


兄の結婚式には、リアムも招待されていた。
礼拝堂に入って来た彼は眩しく、わたしの胸は切なく鳴った。

リアムは迷わずにわたしの傍に来て、わたしの手を取った。

「痩せたね、大丈夫?」

そっと、労わるように訊かれ、わたしは涙が込み上げた。

「はい、大丈夫です…」

答える声は震えていた。
リアムは何も言わず、わたしの手をポンポンと叩いてくれた。


結婚式は厳かに進んだ。
誓いの言葉、指輪交換、誓いのキス___
どれも幸せに包まれ、羨ましく、胸が締め付けられた。

兄とミシェルの姿が、自分とリアムに重なる…
だが、それは、自分からエリザの姿へと変わった…


礼拝堂を出た所で、ミシェルがブーケを投げた。
ブーケは高く弧を描き、わたしの元に収まった。
ミシェルがそれを確認し、うれしそうな笑顔を見せた。
わたしは笑顔を作り、兄とミシェルに手を振った。

式が終わると、館に移動し披露パーティとなった。
そこでも、リアムはわたしの傍から離れなかった。
うれしいと思ってはいけないのに、その想いは止められない___

「今日は、ずっと辛そうだったね…」

リアムが言い、わたしは目を上げた。
いつものリアムとは違い、その顔は何処か暗かった。

「僕は待つから、君が想い人を忘れるまで…」

「何を…?」

リアムが何を言っているのか分からず、聞き返そうとしたが、
頬を撫でられ、息と共に飲み込んだ。

「侯爵家で待っているよ、帰って来てくれるね?」

甘く微笑まれ、わたしは「はい」と頷いていた。


◇◇


兄とミシェルの結婚式も終わり、わたしがローレン伯爵家に居る理由も無くなり、
デュラン侯爵の館に戻る事にした。
リアムの近くに身を置く事には、まだまだ不安があった。
だが、リアムは「待っている」と言ってくれた…

喜んではいけないのに…
戻りたいと思ってしまう…

何て、浅ましいのだろう!自分で自分が嫌になる。
ああ、想いが全て消えてくれたらどれだけ良いか!

「運命を受け入れるの、贖罪をするのよ!」

リアム様の為に…

わたしは自分に言い聞かせた。


侯爵家に着くと、リアムがわたしを出迎えてくれた。

「良く戻って来てくれたね」

リアムが微笑み、大きな花束を渡してくれた。

「庭に咲いていた花だよ、今日は疲れているだろう、明日、散歩に行こう___」

こんな風にされては、気持ちを抑える事は難しい。
わたしは花束に顔を埋めた。


冷たくしてくれたらいいのに…

どうして、離れさせてくれないの…


◇◇


侯爵家に戻ってから、わたしは上手く気持ちを抑え、過ごしていた。
リアムとは、不審に思われない程度に距離を置いた。
晩餐の時に顔を合わせる位で、
リアムが部屋を訪ねて来ない限りは、会う事も無かった。


「ジスレーヌ、最近体調はどう?
もし良ければ、パーティに同伴して貰いたいんだけど…」

その日、リアムからパーティに誘われた。
わたしは直ぐに『あのパーティだ』と、本能的に察し、震えた。

「わたし、パーティは…」

わたしは断ろうとしたが、リアムが「たまには気分転換をした方がいいよ」と
熱心に誘って来たので、つい、頷いていた。

二人を前にして、動揺しない自信は無いというのに…
それとも、二人を見届ける事が、わたしに課せられた贖罪なのだろうか?


◇◇


パーティの日、わたしがドレスを出していると、
クロエが「またそのドレスですか?」と、あからさまに嘆息してみせた。

「貧乏貴族でも、見栄位張るものなのに」

ローレン伯爵家は名家で十分な財もあるので、《貧乏貴族》では無いが、
クロエはこれまでのわたしの態度から、そう決めつけていた。
特に否定する必要も無いので、放っておく事にした。

「このドレスは特別なんです」

リアムの贈ってくれたドレスは、わたしの鎧だ。
きっと、わたしを勇気付けてくれる___

「この髪飾りもね」

クロエは呆れて眺めていたが、メイドたちは丁寧にドレスを着せてくれ、
髪を梳かし、髪飾りを付けてくれた。


「お待たせしました、リアム様」

玄関ホールに立つリアムの元へ行く。
わたしを迎えた彼の目は、何処か熱っぽく見え、胸が鳴った。

「良く似合うよ、ジスレーヌ、素敵だ…」

リアムが微笑み、頬にキスをする。
甘い幸せに包まれたが、それは直ぐに冷たいものに変わった。

きっと、今夜で、終わりね…





パーティの会場に入り、リアムはわたしを連れて挨拶に向かった。

「ラシェーヴ卿、紹介します、僕の婚約者候補のローレン伯爵令嬢、ジスレーヌです」

やはり、一度目の時に紹介された男性だ___
わたしは緊張しつつ、挨拶をした。

「ジスレーヌです、ラシェーヴ卿、どうぞお見知りおき下さい」

「こんなに綺麗なお相手がいるとは、羨ましいですな___」

この先の展開を知っているわたしは、気もそぞろで、会話に集中出来る筈も無かった。
そして、それは程なく、見事に再現された___

「リアム様ぁ~♪」

明るい大きな声が、リアムの名を呼んだ。

エリザだ___!

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