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二度目
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しおりを挟むエリザは迷う事無く、リアムに突撃した。
「また、お会い出来ましたねぇ!エリザ、また会える気がしていたんですぅ」
エリザは甘ったるい声を出し、くねくねと腰を振る。
エリザを認めようと努めて来たが、やはり、目にすると、嫌悪感に襲われた。
どうして、彼女なの___!?
そんな風に思うのを、止められない。
リアムは一度目の時と同様に、儀礼的な笑みを浮かべ、優しく返した。
「僕も会えてうれしいよ、エリザ、パーティにはもう慣れたかな?」
「慣れてきましたけどぉ、まだ不安ですぅ…」
エリザがリアムに何かを強請ろうとしている…
一度目の時、わたしはそれを遮り、二人で話したいと彼女を連れて行き、
醜態を晒す事になった___
わたしはそれを思い出し、ぐっと、唇を噛んだ。
「リアム様ぁ、あたしと踊って頂けますかぁ?」
リアムは行ってしまうだろうと思ったが、「すまないけど…」と断りを入れた。
「最初のダンスは、ジスレーヌと踊る事にしているんだよ、その後で良ければ」
リアムの言葉に、わたしもエリザも驚いていた。
そんなわたしたちに構わず、「ジスレーヌ」と、リアムはわたしの手を引き、フロアへ向かった。
「リアム様ぁ!次は、あたしとですからね~!約束しましたからねぇ!」
エリザの声を後ろに、わたしたちは向き合った。
リアムはわたしの手を取り、腰に手を当てる。
わたしはまだ驚きの中にいたが、曲に合わせ、自然に踊っていた。
「どうしたの?随分、驚いているみたいだけど?」
「いえ、あなたが、断るとは思っていなくて…」
「そんなに、彼女と踊って欲しかった?
残念だけど、僕は君と踊る為に来たんだよ、ジスレーヌ」
わたしは、リアムが誘ってくれた時、「気分転換した方がいい」と
言っていたのを思い出し、納得した。
「気を遣って下さって、ありがとうございます…」
「気を遣っている訳じゃないけど…
大切に思っているよ、君は僕の大事な婚約者候補だからね」
リアムが「ふっ」と笑う。
わたしの胸に喜びが溢れていた。
だが、曲が終わると、リアムは二曲目を誘う事無く、わたしを椅子の方へ促した。
「エリザと踊って来るよ、飲み物は?」
「果実水を…」
リアムはそれを渡してくれた。
そして、「リアム様~」と駆けて来たエリザの手を取った。
瞬間、嫉妬の炎が燃え上がった。
エリザはリアムの腕に絡みつきながら、こちらを振り返った。
そして、口の端を大きく引き上げた。
どくん!!
嫉妬や怒りで爆発しそうになる。
「いけないわ!!」
わたしは自分を諫めた。
我を忘れ、一度目の時の様な事になってはいけない!
エリザがしたたかな女である事は、分かっている。
わたしが隙を見せれば、彼女はそれを利用し、わたしを陥れるだろう…
このまま、エリザを避け続ければ、きっと、大丈夫よ…
気持ちを落ち着かせ、そっと目を上げると、リアムの姿が消えているのに気付いた。
リアムだけではない、エリザの姿も無い___
わたしは嫌な予感がし、椅子から立ち上がった。
二人は何処に行ったの…?
捜して歩きながら、わたしはふと、テラスの方を見た。
一度目の時、わたしはエリザをテラスに誘った。
もしかしたら…
当たっていて欲しくないと願いながら、わたしは開いた窓の向こうを覗いた。
そこには、見つめ合う二人の姿があり、わたしは茫然となった。
エリザがわたしに気付き、顔だけで振り返るとニヤリと笑った。
そして、これ見よがしに、リアムに抱き着いた。
「エリザ?」
「うわあああん!リアム様ぁ~!
あたし、ジスレーヌ様から、意地悪を言われたんですぅ!」
エリザの声は大きく、それは、はっきりとわたしの耳に届いた。
二度目の今のわたしは、エリザと話した事は一度もない。
どうして彼女がそんな嘘を吐くのか…?
だけど、それよりも、エリザが一度目の時と同様の事を言い出した事に、わたしは恐怖を感じた。
わたしが幾らエリザを避けていても、無駄だったのね!
運命は最初から、決まっていたのか___
わたしは自分の無力さに打ち震えた。
エリザにはそんな事は関係無く、泣きながら更に訴えていた。
「あたしが非常識だって!リアム様に話し掛けるなって言うんですぅ!
ジスレーヌ様は伯爵令嬢で、あたしは男爵令嬢だから、従いなさいってぇぇ!」
これで、終わりだわ…
涙が滲み、視界がぼやけた。
立去ろうと踵を返した時、リアムの声が耳に入った。
「それは、君の勘違いではないかな?
ジスレーヌが、そんな事を言う筈は無いからね___」
わたしは恐る恐る、リアムを見た。
リアムは冷静に、エリザの腕を掴み、自分から引き離した。
「あたしが、嘘を吐いてるって、言うんですかぁ?
酷いわぁ!リアム様を信じて、打ち明けたのにぃぃぃ!!」
その声に、周囲も何事かとこちらを振り返った。
周囲を味方に付ける事が、エリザの狙いだ___
わたしは青くなったが、リアムは落ち着いた口調で話した。
「ジスレーヌは、爵位を振り翳すような人ではないよ。
十歳の頃から聖歌隊に入り、聖歌隊を辞めても、修道女の手伝いをし、
教会に奉仕している。十四歳位の頃には、『修道女になりたい』と言っていたそうだよ。
分け隔てなく、皆に優しく、使用人たちも皆、彼女が好きなんだ。
ジスレーヌは、そういう人だよ」
「そ、そんなの、リアム様の前でだけですよぉ!猫かぶりですよ!
裏では酷い悪女なんですぅ!」
「悪女というのは、平気で嘘を吐いたり、人を悪く言って陥れようとする人間の事だよ。
ジスレーヌは君を悪く言った事は無いし、他の誰の悪口も言った事は無い。
さぁ、嘘泣きは止めなさい、僕の周囲には、もっと上手に嘘泣きをする者がいるからね、
残念だけど、僕にその手は通じないよ」
「ほ、本当だもん!あたし、ジスレーヌ様から意地悪されたんだもん!!」
「ジスレーヌを悪く言う様なら、もう二度と、君と会う事はないよ、エリザ」
「そ、そんなぁ~酷いわぁ!!」
尚も喚き散らしているエリザを放り、リアムはテラスから出て来た。
わたしは逃げるのも忘れて、立ち尽くしていた。
「ジスレーヌ、聞いてたの?」
リアムがわたしに気付き、目を丸くした。
「はい…あなたが、わたしを信じて下さるなんて…思わなくて…」
リアムは小さく笑った。
「僕を見縊って貰っては困るよ、
僕は九歳の頃から、継母と異母妹に鍛えられているんだよ?」
『もっと上手に嘘泣きをする者…』
あれは、ルイーズとジェシカの事だったのか!
確かに、エリザよりも、ルイーズとジェシカの方が一枚上手だろう。
「それに、僕は君を知っている、ずっと、君を見て来たからね…」
リアムがわたしの腰を抱く。
わたしは促されるまま、フロアへ行き、リアムと踊っていた。
頭はまだぼんやりとしていたし、まだ不安は完全には拭えていなかったが、
この瞬間だけでもいい、リアムと触れ合っていたかった。
「やっと、二度目のダンスを踊ってくれたね」
リアムがからかう様に言い、うれしそうに笑った。
わたしの胸はときめき、微笑み返さずにはいられなかった。
一度目の時とは違い、帰りの馬車の中でも、わたしたちの間には、気恥ずかしい空気があった。
リアムは、館に着くまで、わたしの手を握ってくれていた。
わたしもその手を離そうとはしなかった。
一度目の時、リアムはわたしを冷たい目で見ていた。
わたしを信じる気持ちは、少しも無かった筈…
わたしはルイーズに従い、ルイーズの様になろうと努めていたから…
でも、今日のリアムは、はっきりと言ってくれた。
『ジスレーヌは、爵位を振り翳すような人ではないよ』
『十歳の頃から聖歌隊に入り、聖歌隊を辞めても、修道女の手伝いをし、教会に奉仕している』
『十四歳位の頃には、「修道女になりたい」と言っていたそうだよ』
『分け隔てなく、皆に優しく、使用人たちも皆、彼女が好きなんだ』
『ジスレーヌは、そういう人だよ』
リアムは、わたしを見ていてくれた。
その彼の言葉の通り、わたしは変われたのだろうか?
わたしは、許されたのだろうか?
わたしは、リアムを愛してもいい___?
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