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本編
C19 火中の栗を拾う
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朝目覚めると、身体の重苦しさもかなり楽になっていた。
昨日は身を引きずるようにしなければ全く動くことができなかったが、今日はいつも通り……とまでは行かないものの、短時間ならいつも通り動けそうだ。
今朝も一緒に軽く身体を動かすと、断腸の思いでエリィを見送ってトリオの相手をする。早くまた1日中一緒にいられるようにしたいな。
今朝もパトリツァ夫人がギラついた目でこちらを見ていたが、特に邪魔をする訳ではないのでなんとか笑顔を作って対応する。
朝食も一緒に食べる事になってしまい、正直食べた気がしなかった。手早く食事を終えて、食後のコーヒーを愉しんでいると、こちらをじっと見つめる夫人の目線がつきささる。いつかのような、嗜虐心に歪んだ賤しくて厭らしい笑顔。本当に気持ち悪い人だ。
「何か良いことでもありましたか?とても嬉しそうですが」
「いえ別に。それより、プルクラ様から久しぶりに孤児院に行かないかとお誘いがありまして。子供たちがどうしてもとわたくしに会いたがっているそうで……もしよろしければディディ様もご一緒しませんか?」
目が合ってしまったので訊ねると、また孤児院に行きたいと言い出した。
エリィにあれほど近寄るなと言われていたのに……そこまでして子供達を欲望のはけ口にしたいのだろうか。
しかも僕のことをさらっと愛称呼びしているが、その名はエリィにしか許していない。
「パトリツァ夫人、私は家族でも友人でもございません。愛称呼びはお控えください。
孤児院の慰問ですが、今は少々物騒な時期ですのでおやめください。
どうしてもとおっしゃるならば充分な護衛が必要です。ご主人に使いを出して伺ってみましょう」
ムカムカする感情を抑え込み、まずはエリィにお伺いを立てるように諭すが、護衛など僕一人で充分だろうと嘯かれる。そりゃまぁ、普段だったらそうかもしれないけど、今は本調子には程遠い上、夫人に使用人扱いされる義理はどこにもないのだ。
「それはできません、せめて侍女と一緒でないと。護衛も私の他にあと2名は必要です。その条件でご主人に外出して良いか伺います」
「そんな、お忙しい旦那様を煩わせるなんて……たかが孤児院の慰問くらい、自分で行くかどうか決められないのですか?
それともわたくしへの嫌がらせ!?酷いわ……酷すぎるっ!!」
うわ……嘘泣きしながら地団太踏んで喚き始めたよ。いったいこの人いくつだったっけ?
ぎゃあぎゃあうるさくて頭に響くし、気持ち悪いし、勘弁してくれ。
あまりにやかましくてついに耳鳴りがしてきたので、エリィの許可を待たずに出発する事だけは認め、他に侍女と護衛を一人ずつ伴う事は認めさせた。
馬車を手配し、タシトゥルヌ家の私兵に後をつけるよう指示を出して随時僕たちの居場所と様子をエリィに伝えるよう手筈を整える。
いつもの習慣で愛用の槍斧を背負い、腰に猫闘刃を刺して出かけようとすると、また夫人がぎゃあぎゃあ泣きわめき始めた。
僕の装備が野蛮で神聖な教会や孤児院にはふさわしくないんだと。
ああもう煩いし気持ち悪いし面倒くさい。自分では薄幸の美女のつもりらしいけど、いい年齢をしてワガママを通すために地団太を踏み、ぎゃあぎゃあすさまじい声を上げて泣きわめく姿は醜悪でしかない。
「どうせ誤魔化して、外出そのものをできなくするつもりなのでしょう?そうやってわたくしを監禁してお家を乗っ取る陰謀なのですわ!!今すぐ出発しなさい!!!」
馬車の前ですっさまじい大声でぎゃんぎゃん喚いているから、敷地の外にまで聞こえるんじゃないかと冷や冷やする。この人、恥ずかしいとかみっともないって概念ないのだろうか?
仕方がないので装備を替えてこようとしたのだが、赤子みたいに地団太踏んで泣きわめき、槍斧だけをこの場に置いて行けと叫ぶ。門番にも「今すぐ下品で無粋な武器を取り上げろ」と怒鳴り散らす始末で、門番も途方に暮れている。
これ以上押し問答しても屋敷の外まで騒ぎが聞こえてタシトゥルヌ侯爵家の恥になるだけだろう。できれば近接戦用にマインゴーシュかソードブレイカーを持ってきたかったんだけど、仕方がない。
諦めて猫闘刃だけを携え、槍斧は門番にあずかってもらう事にした。
ああもう、ただでさえ身体がしんどいのに耳元で泣き喚かれたのでズキズキ痛んで頭がまともに働かない。
エリィに出した使いが間に合ってくれると良いのだけど。
昨日は身を引きずるようにしなければ全く動くことができなかったが、今日はいつも通り……とまでは行かないものの、短時間ならいつも通り動けそうだ。
今朝も一緒に軽く身体を動かすと、断腸の思いでエリィを見送ってトリオの相手をする。早くまた1日中一緒にいられるようにしたいな。
今朝もパトリツァ夫人がギラついた目でこちらを見ていたが、特に邪魔をする訳ではないのでなんとか笑顔を作って対応する。
朝食も一緒に食べる事になってしまい、正直食べた気がしなかった。手早く食事を終えて、食後のコーヒーを愉しんでいると、こちらをじっと見つめる夫人の目線がつきささる。いつかのような、嗜虐心に歪んだ賤しくて厭らしい笑顔。本当に気持ち悪い人だ。
「何か良いことでもありましたか?とても嬉しそうですが」
「いえ別に。それより、プルクラ様から久しぶりに孤児院に行かないかとお誘いがありまして。子供たちがどうしてもとわたくしに会いたがっているそうで……もしよろしければディディ様もご一緒しませんか?」
目が合ってしまったので訊ねると、また孤児院に行きたいと言い出した。
エリィにあれほど近寄るなと言われていたのに……そこまでして子供達を欲望のはけ口にしたいのだろうか。
しかも僕のことをさらっと愛称呼びしているが、その名はエリィにしか許していない。
「パトリツァ夫人、私は家族でも友人でもございません。愛称呼びはお控えください。
孤児院の慰問ですが、今は少々物騒な時期ですのでおやめください。
どうしてもとおっしゃるならば充分な護衛が必要です。ご主人に使いを出して伺ってみましょう」
ムカムカする感情を抑え込み、まずはエリィにお伺いを立てるように諭すが、護衛など僕一人で充分だろうと嘯かれる。そりゃまぁ、普段だったらそうかもしれないけど、今は本調子には程遠い上、夫人に使用人扱いされる義理はどこにもないのだ。
「それはできません、せめて侍女と一緒でないと。護衛も私の他にあと2名は必要です。その条件でご主人に外出して良いか伺います」
「そんな、お忙しい旦那様を煩わせるなんて……たかが孤児院の慰問くらい、自分で行くかどうか決められないのですか?
それともわたくしへの嫌がらせ!?酷いわ……酷すぎるっ!!」
うわ……嘘泣きしながら地団太踏んで喚き始めたよ。いったいこの人いくつだったっけ?
ぎゃあぎゃあうるさくて頭に響くし、気持ち悪いし、勘弁してくれ。
あまりにやかましくてついに耳鳴りがしてきたので、エリィの許可を待たずに出発する事だけは認め、他に侍女と護衛を一人ずつ伴う事は認めさせた。
馬車を手配し、タシトゥルヌ家の私兵に後をつけるよう指示を出して随時僕たちの居場所と様子をエリィに伝えるよう手筈を整える。
いつもの習慣で愛用の槍斧を背負い、腰に猫闘刃を刺して出かけようとすると、また夫人がぎゃあぎゃあ泣きわめき始めた。
僕の装備が野蛮で神聖な教会や孤児院にはふさわしくないんだと。
ああもう煩いし気持ち悪いし面倒くさい。自分では薄幸の美女のつもりらしいけど、いい年齢をしてワガママを通すために地団太を踏み、ぎゃあぎゃあすさまじい声を上げて泣きわめく姿は醜悪でしかない。
「どうせ誤魔化して、外出そのものをできなくするつもりなのでしょう?そうやってわたくしを監禁してお家を乗っ取る陰謀なのですわ!!今すぐ出発しなさい!!!」
馬車の前ですっさまじい大声でぎゃんぎゃん喚いているから、敷地の外にまで聞こえるんじゃないかと冷や冷やする。この人、恥ずかしいとかみっともないって概念ないのだろうか?
仕方がないので装備を替えてこようとしたのだが、赤子みたいに地団太踏んで泣きわめき、槍斧だけをこの場に置いて行けと叫ぶ。門番にも「今すぐ下品で無粋な武器を取り上げろ」と怒鳴り散らす始末で、門番も途方に暮れている。
これ以上押し問答しても屋敷の外まで騒ぎが聞こえてタシトゥルヌ侯爵家の恥になるだけだろう。できれば近接戦用にマインゴーシュかソードブレイカーを持ってきたかったんだけど、仕方がない。
諦めて猫闘刃だけを携え、槍斧は門番にあずかってもらう事にした。
ああもう、ただでさえ身体がしんどいのに耳元で泣き喚かれたのでズキズキ痛んで頭がまともに働かない。
エリィに出した使いが間に合ってくれると良いのだけど。
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