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~ヴァンパイア・ガール編 第1章~

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[知らせ]

 「いや~、今日は沢山歩いたね~。久しぶりじゃない、こんなに歩いたのって?」

 フォルト達はグース達と別れた後陽が殆ど暮れるまでひたすらに街道を歩き、街道沿いのとある宿屋の一室に泊まることになった。ロメリアは自分のベッドに勢いよく座り込むと、僅かに体がベッドの弾力で跳ね上がる。

 多少休憩を入れていたとは言え、久しぶりに半日近くずっと歩いていたので2人の足には疲労が目に見えて溜っていた。フォルトは自分のベッドにゆっくりと腰掛けて脹脛を優しく揉む。

 「そうだね。前こんなに歩いたのは3週間・・・いや、4週間・・・1か月だったかな?サンセットフィートへと歩いていた頃ぶりだね。」

 「はぁ~・・・もうビーチバレーをやった時からそんなに経ってるんだね~。月日が経つのって早いよね~。」

 ロメリアもフォルトと同じように自分の脹脛を揉みながら短い溜息をつく。彼女が部屋に設置されている古時計に目をやると時刻は午後7時を過ぎており、時刻を確認するのと同時にロメリアのお腹が鳴った。

 「あっ・・・」

 ロメリアが恥ずかしそうに両手でお腹を抱えると、顔を赤らめてゆっくりとフォルトの方へと向けた。フォルトは小さく微笑むと口元に手をやった。

 「ロメリア、ご飯食べに行こうよ。僕も1日中歩いてお腹ペコペコだよ。」

 「う、うん・・・」

 フォルトとロメリアは部屋に鍵をかけると、階段を下りて1階のロビーに出ると、受付の横にある食堂へと向かった。食堂にはいくつかの机に1~4人までの人々が座っており、食事をとりながら談話をしていた。食堂へと入ると、カウンターには様々なパンやスープ、ライスの他に調理された野菜、肉、魚を存分に使った料理が並べられており、ビュッフェ形式をとっていた。

 フォルト達はそれぞれ自分達が食べたい物を食べられる分だけ取ると、食堂の丁度中央にある2人用の席に座った。2人はそれぞれ向かい合うように座ると、早速食事の挨拶を済ませて食事を始めた。妙に濃ゆい味付けがされている料理が2人のお腹を一気に満たしていく。

 「・・・ねぇロメリア・・・味濃ゆいよね、ここの料理達・・・とても美味しいけどさ。」

 「ていうか、フィルテラスト大陸に入ってからずっと味が濃ゆい料理しか食べていないような・・・そんな気がしない?」

 「分かる。この大陸は調味料の種類が豊富なのかな?」

 フォルト達がゆっくりと手を緩めずに料理を口に運んでいると、フォルト達の隣にある2人用の席に大柄で茶髪の髪をオールバックにしている男がフォルト達の方を見ながら座った。

 2人はその男を見た瞬間、互いに顔を見合わせて短く溜息をつく。その男はにやにやと相変わらずの何処か気に食わない笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 「よぉ、フォルト、ロメリア!まさかこんな所でも会うなんてな!元気にしてたか、お前達?」

 「ま~た会ったぁ!何でこんなにケストレルと会うことが多いのっ⁉」

 ロメリアが思いっきり汚いものでも見るように顔を引きつると、ケストレルがロメリアの方を見る。

 「何だよ、ロメリア。そんな嫌いなもの無理やり押し付けられた時みたいな顔しやがって・・・でもお前、そんな顔してるけど本当は俺とまた会えて嬉しかったりするんだろ?」

 「うわっ・・・何言ってんの、ケストレル。もしかして寝ぼけてるの?」

 ロメリアはより苦虫を嚙み潰したような顔をしてケストレルを見つめる。ケストレルは軽く笑い声をあげると、自身が取ってきた料理を食べ始めた。意外と小食なのか、ケストレルの食器にはあまり料理が入っていなかった。

 フォルトはパンを引き千切って口に含んで咀嚼すると、飲み込んでケストレルに話しかける。

 「ところでケストレルも今日この宿に来たの?」

 「いいや。俺はもう3日ぐらいずっとこの宿にいるぜ。」

 「3日も?何でそんなに・・・」

 フォルトの問いにケストレルはスプーンをスープの中へと入れるとゆっくりとかき回し始めた。

 「本当は俺のダチが車で迎えに来てくれるはずだったんだけどさ、全然来ねえんだよ。歩いて次の街に行こうにも森を抜けないといけない上に暫く宿屋は無いしな。」

 「可哀そうに・・・きっとケストレルが胡散臭いから逃げちゃったんだよ・・・」

 ロメリアが何気なく呟くと、ケストレルの手が止まり、ロメリアを睨みつける。

 「おい、ロメリア。手前、それ以上余計な口開くと、ケツの穴にスプーンぶち込むぞ?」

 「そんな事やったらお尻血だらけになっちゃうよっ!そんなことも分かんないのっ⁉」

 「んな事は分かってて言ってんだよ!俺だってあんまり人格非難されると傷つくんだよっ!」

 「だって・・・胡散臭いんだもん・・・」

 ロメリアがぼそりと呟くと、ケストレルはスープをかき混ぜていたスプーンを握りしめてその場から立ち上がった。ロメリアは身の危険を感じ、フォルトの傍へと回り込むと、抱きついた。暑苦しいから離れて欲しい。

 「ロメリア・・・前の穴と後ろの穴・・・どっちにスプーンぶっさされてえか?」

 「どっちも嫌だよっ!」

 「だったら両方にぶっ差してやるっ!ケツ出せ、ケツ!」

 「いやああああああああああっ!ごめんなさい!本当にごめんなさいっ!もう言いませんからっ!お尻は止めてっ!フォルト!助けて!私のお尻守ってええええええええっ!」

 ロメリアは近くにある柵を乗り越えてケストレルと距離を取ると、ケストレルもすぐさま柵を乗り越えて、食堂内を逃げ回るロメリアを追いかけまわした。ロメリアは喧しい叫び声をあげ、ケストレルは鬱陶しい怒号を飛ばしている。

 2人共自分より年上の筈なのに言うことの聞かない子供の様に走り回る姿を見たフォルトはとても情けなく思い、一人静かに食事を進めた。

 そんな中、ロビーの方から受付にいた男性が食堂全体に声をかける。

 「こちらにケストレル・アルヴェニア様はいらっしゃいますでしょうか!」

 ケストレルは受付の男の声を聞くと、左腕にロメリアを抱え、今まさにロメリアのお尻にスプーンを刺そうとしていた体勢のまま固まった。ケストレルは小さく舌を打つと、スプーンを下げてロメリアを床に落とし、男から手紙を受け取った。ロメリアは涙目になりながらフォルトの下へとやってくると、勢いよく抱き着いてきた。・・・鬱陶しいから直ぐに離れて欲しかった。

 ケストレルは自分の席に腰を掛けるとスプーンを食器の上に置き、手紙の封を切って中から茶色の羊皮紙を取り出すと目を通した。暫く目を通していると、ケストレルが小声で呟いた。

 「・・・マジかよ。向こうでそんなことが起こっていたなんてな。・・・道理で迎えに来れねえわけだ。」

 「・・・何があったの、ケストレル?」

 フォルトがケストレルに静かに語りかけると、ケストレルはフォルトに手紙を渡した。フォルトはその手紙に目を通すと、ロメリアが覗き込むようにフォルトに顔を近づける。

 「・・・エメラリア港がテロリスト集団『コーラス・ブリッツ』に襲撃された・・・エメラリア港って・・・」

 「私達が立ち寄ったあの港の事だよね。・・・ケストレルの友人の方って、私達をリールギャラレーにまで送ってくれた・・・」

 「ああ、あいつのことだよ。どうやら、テロの襲撃の巻き添えを食らっちまったらしいな。怪我で迎えに行けないっていう手紙を出すのが遅れちまって申し訳ないって書いてるし・・・しょうがねえな。」

 ケストレルがスープを口に流し込んでいる中、ロメリアがケストレルに声をかける。

 「ねぇ、ケストレル・・・『コーラス・ブリッツ』ってどんな集団なの?」

 「・・・世界で最も規模がデカく、凶悪なテロリスト集団の名前だ。世界中には他にもテロリスト集団が存在し、一応それぞれには明確な目標ってもんがあるんだが、こいつらの目的は一切不明。何をもってテロ活動を行っているのかも分かってない。拠点も構成人数も不明・・・取り合えず、底が知れねえ集団だ。」

 ケストレルはスープを飲み干すと、机の上にコップを置いた。

 「だがその集団を率いている幹部は『8人』いるってことだけは分かっている。・・・そして奴らは『八重紅狼(やえべにろう)』と呼ばれて畏怖されている。」

 「八重紅狼・・・」

 「幹部1人の戦闘能力は非常に高く、2人いれば大陸の首都を陥落させることが可能と言われ、3人いれば確実に首都を滅ぼせる程だと言われている。・・・随分現実離れした話だが、現に奴らに滅ぼされた国は多数あって、1世紀前には以前この大陸の首都がおかれていた地域がたった3人の八重紅狼によって滅ぼされたらしいからな。」

 「・・・人間だよね、その人達?」

 「だと思うがな。・・・人間離れしてるが。」

 ケストレルはパンを手に取ると、ゆっくりと咀嚼し始める。フォルトとロメリアは互いに顔を見合わせるとケストレルの友人からの手紙を再び見つめる。

 2人の食器に残っている料理はすっかり冷たくなっていた。
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