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~ワイバーンレース編 最終章~

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 [またいつか、一緒に空へと飛び上がる時まで]

 病院へと運ばれたロメリアは適切な治療を直ぐに受けた為、直ぐに落ち着きを取り戻した。フォルトは治療を終えて病室のベッドにて静かに横になっているロメリアにずっと寄り添って彼女の面倒を見る。彼女が再び目を覚まし、フォルトに声をかけたのは大会の日から3日たった早朝の事だった。

 その間にフォルトはグースや大会委員の役員達にあの日何が起こったのか詳細に説明した。また、調査隊の現場検証にてリンドヴルムが瓦礫に圧し潰されて息絶えてるのが確認され、周囲には他のリンドヴルムが生息していない事も確認された。

 襲撃者の遺体は黒焦げになっており、身元が判別できなかった。襲撃者のリーダー格の男がロメリアに言い放った言葉から、フォルトとロメリアの故郷である帝都『フォルエンシュテュール』からの刺客だということを伝えたが、明確な証拠が無いということで帝都に意見書を出すことは出来なかった。出したとしても帝都からは『事実無根。我々が関わっているという証拠を提示できない全くのデタラメだ。』などといったような返事が来ると確実に分かっていたからだ。

 フォルトは彼らを追及できない悔しさで拳を強く握りしめながら、今後も恐らく襲ってくるであろう襲撃者からロメリアを守ると強く決意をした。

 ロメリアが目を覚ますと、フォルトは早速彼女に棍のことについて話しかける。ロメリアは棍を手にした際の不思議な体験を全て語り、その中でフォルトにどこか似ている男性についても語った。

 フォルトもその男性に全くの心覚えが無く、2人は互いに首を傾げていたが、もしかしたらロメリアが持っている棍は大会前日にレイアが言っていたジャッカルの武器の一つで、ロメリアが会った男性がジャッカル本人ではないのかとロメリアが呟いた。

 フォルトはその人物の特徴とジャッカルではないのかという推測を聞いた時、再びかつて自分がジャッカルの子孫だと言われたことを思い出した。そのことをロメリアに話すと彼女は『間違いないよ!だってその人とフォルト、何か雰囲気も髪も似ているんだもん!』と非常に根拠のない主観が混じった感想を飛ばしてきた。

 また、ロメリアにあまり棍から放たれる力を身に纏うのは危険だから止めた方がいいと進言すると、ロメリアは『私、又はフォルトが非常に危険な状況に陥った場合にだけ、力を使ってもいい?』と言ってきた。フォルトは出来ることなら使っては欲しくは無かったが、彼女の意思も尊重したいと思い、限定的に開放してもいいという条件で力の使用を許可することにした。

 その日から暫くの間、寝込んでいたロメリアの若干固まった体を解したりしながら、2人でリールギャラレーの街を見て回ったり、グースやニファルと一緒に過ごしたりした。日が経つにつれてロメリアも徐々に体の勘を取り戻していき、1週間も経つとすっかり元の状態にまで戻っていた。

 ロメリアが目を覚ましてから8日が経つと、フォルトとロメリアは次の街へ旅立つ準備を整えてリールギャラレーへとグースとニファルと共に向かった。フォルト達はエメラリア港へと向かう街の門とは反対方向に位置する門の前に立つと、後ろを振り返ってグースに別れの言葉をかける。

 「グースさん、今回は貴重な体験とお世話をして頂きありがとうございました!私の入院費まで出して頂いてなんとお礼を言ったらいいか・・・」

 「いえいえ!私もニファルもお2人と一緒に貴重なお時間を共有させて頂きましたので・・・お2人の世話や入院費等の支援をするのは当然のことですよ。」

 グースはロメリアに向けていた視線をフォルトの方へと向けた。

 「フォルト君、今回ニファルの背中に乗ってどうだった?楽しかった?」

 「はい!初めはワイバーンに乗るのがちょっと怖くて本当に乗れるのかなぁって思っていましたけど、楽しく乗らせて頂きました!それに、ニファルと触れ合ったり、グースさんの話や他の魔物達とも触れ合えて彼らを見る目が一気に変わりました。」

 フォルトが目を輝かせながらそう言うと、グースは非常に満足したように笑顔で頷いた。

 「君達が彼らに対する意識を変えてくれただけでも、私はとっても嬉しいよ。確かに彼らは凶暴で人間に危害を与える生き物なのかもしれない・・・でも皆がそうではなく、それぞれ・・・彼らの『本質』を見抜くことで、心を通わして対等な関係を作ることもできる・・・そのことさえ分かってくれれば私はもう何も言うことは無い。」

 「・・・」

 「貴方達は今後も旅を続けていく中で、色んな人や魔物・・・他にも様々な生き物に遭遇するはずだ。その中で貴方達は彼らに対する様々な『噂』や『印象』を聞いたり見たり感じたりするはず・・・その時にそれらの情報に惑わされて彼らの本質を見誤ってはいけないよ。軽々しく『この人は良い人だ』、『この人は信頼できる』といった判断をすると、取り返しのつかない事態に陥るからね。・・・勿論逆も然り、勝手に悪人と判断してその人の意見を聞かなかったりしてはいけないよ。本質を見抜くまで・・・皆の声に耳を傾けるんだ。」

 「・・・はい!」

 フォルトとロメリアはグースの言葉を胸に刻むと、ニファルがロメリア達の前へと歩いて顔を近づける。

 「キュゥゥゥゥゥ・・・」

 厳つい図体からは似つかない可愛らしい声を出すと、ロメリアとフォルトがニファルの頭を優しく撫でる。ニファルはフォルト達から頭を撫でられて気持ちよさそうに目を閉じた。

 「ニファル・・・暫く会えなくなるけど、またいつか、僕達必ず帰ってくるからね。そしたらまたニファルの背中に乗せてくれる?」

 「キュウッ!」

 「あははっ・・・ありがとう、ニファル。ニファルと出会えて、本当に良かった・・・」

 フォルト達が手を頭から離すと、ニファルは名残惜しそうに頭をフォルト達から離して見下ろす。

 フォルト達はグースの方に顔を向け直す。

 「それじゃあ、グースさん!私達、そろそろ街を出ようと思います!本当にこの度はありがとうございました!」

 「こちらこそ、本当にありがとう。何か困ったことがあったら僕達を遠慮なく頼ってくれ。どんな些細な事でも直ぐに駆け付けるよ。」

 フォルトとロメリアはグースとニファルに手を振りながら街を出る。グースは右腕を、ニファルは左の翼をフォルト達が見えなくなるまで大きく振って彼ら見送った。

 街の門を出た先に広がる渓谷を抜けてだだっ広い荒野が一面に広がる。フォルトとロメリアがその荒野をお互い言葉を交わしながら歩いていると、フォルト達の真上を1つの大きな影が風と共に通り過ぎた。

 2人が髪を抑えながら真上に視線を移すと、ニファルが大きな翼を広げて大空へと昇っていた。その姿は大空を支配するワイバーンの威厳を存分に発揮しており、フォルトとロメリアはニファルの姿に惚れ込んだ。

 「ニファル~!また一緒に空に上がる時まで元気でねっ~!私達の事、忘れないでね~っ!」

 ロメリアが大きく天に向かって声を上げると、ニファルは臆病な性格を微塵も感じさせない咆哮を一面に轟かせてロメリアに返事をする。

 荒野に映える太陽の光がワイバーンの黒翼を神々しく輝かせる。
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