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第7話
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机に向かって万年筆を握る。高価な紙にすらすらと筆記体で、文字を書いていく。
『唐突にこのような手紙を送り申し訳ございません。わたくしの無礼をお許しください。単刀直入にお話を申し上げますと、ただいまハンプソン子爵の長女であるソフィア様をお預かりしています。拉致や誘拐ではありません。彼女は彼女の意思で私の屋敷にや滞在しております。ここに記載されている住所におります故、来てくださればいつでも面会していただくことが出来ます。ですがお嬢様がそちらへ自発的に帰宅なさることはないでしょう。彼女は自宅へ帰りたくないと言っているためです。わたくしは人が増えたことでうれしさもありますので、ここに居続けていただければ愉悦でございます。もちろん子爵のお心も十分大切ですので、お嬢様を返してほしいということならば、謝罪をするためにもわたくしもお伺いします』
手紙の封の上に蝋を垂らし、鉄のスタンプをその上に乗せた。蝋が完全に溶けてから、スタンプを取り、使いの者に渡してくるように命じた。今は幸い晴れているために、事故でも起こらない限り、この手紙は通常通り届くだろう。
二階へ降りて日の当たるラウンジへ行ってみると、ソフィアは器用に指を動かして裁縫をしていた。破れて直して言ってメイドに渡していたジャケットをソフィアが直している。
「ウィル様」
糸を切り、針を針刺しに刺した。
「手紙を出したから、今日は穏やかに過ごせると思うよ。でも、手紙を読んですぐに激昂してここまで来られると大変だけどね」
「大丈夫です。両親は私のことを心配したことはありません。私は自立できると両親は思っていますから」
「今まで大変だったね。何か決定的な打開策があれば、それをすぐに行うのだけれども」
椅子を引きソフィアと向かいあって座った。ソフィアはジャケットに付いた糸くずを取っている。そして特に意味なさげにつぶやいた。
「結婚でもできれば一番いいんですけれどもね」
結婚してしまえば屋敷に帰らなくてもいい、メイドとして働かなくてもいい。今までの生活のなにもかもが、やっと意味のあるものとなる。家に帰らない理由の一番となる。
「難しいだろうね」
「はい。私は今、顔が腫れてしまっていますし、誰か知り合いや友人がいるわけでもありません」
表情を曇らせながらも指先は器用に動かして、ジャケットの穴をふさいでいく。
「僕から提案してみてもいいかな」
「はい、なんでしょうか」
ソフィアは顔を上げてみるとウィルは微笑んでいた。
「僕はまだ独身なんだ」
「ウィル様と結婚ですか?」
「話が早いね」
「ご迷惑になります」
元からソフィアはウィルに助けられたというだけで大きな恩を感じていた。その上結婚までするとなるとソフィアは一生かけても返し切れない恩ができる。その恩を返す自信がソフィアにはない。
「それに、私ではいけないと思うのです。ウィル様はウィル様に見合った女性とご結婚なさるべきです」
「僕は君のことを十分に見合っていると思っているよ」
「私は思えません」
その上ウィルにいろいろ言われてもペテン師の口ぶりの様で、違和感があった。
「僕と結婚してしまえば家から逃れることが出来るよ」
「大丈夫です。私は一人でもどうにかなります」
「どうにかなってるなら、もうすでにどうにかなってるさ。君は何年も妹のせいで我慢してきたんだろう?僕はソフィアに変なことしようとしているわけでも、金をよこせとも言っているわけじゃない」
今まで何人も会ってきた中でこれほどに真摯にソフィアと向き合い、助けると言ってくれる男性がいなかったからかもしれない。
「君が嫌ならいいのだけれどもね。これが一番いい方法なんじゃないかって思っただけ」
「私は、その」
「不満を言ってくれたまえよ」
自らの心の中での不安をソフィアはよく理解していた。
「私はミアに奪われることが怖いんです。ミアの虜になってしまった男性はみんな私のことを侮辱し、悪口をたちまち言い始めてしまう。それがとにかく怖いんです」
ソフィアの手は震えていた。今までに何度婚約者を奪われて、その婚約者に見下されてきたものか。
「僕はただ妻がほしいだけなんだ。それも君の妹さんみたいな人は苦手だと言っただろう。穏やかで物静かな君の方が何倍良い事か」
「でも」
「僕は裏切ることはない。はっきりという」
それをソフィアは信じられなかったけれども、ウィルと結婚すればここに居続けることが出来る上に、不自由なく暮らすことが出来る。
「証拠なんかはないけど、でも僕は約束を破ったことが無い」
「そんな嘘おっしゃらなくてよろしいんですよ」
「嘘じゃないさ。僕は今まで馬鹿正直に生きてきたからね」
自信満々に胸を張って宣言するウィルを見てソフィアはおかしくなってしまった。馬鹿おかしく生きてきたのならばこんなに高級そうなものに囲まれて生活できるわけがない。
「でもね。正直なことを言うと、僕は一目ぼれしてしまったかもしれない。こんな現象あると思っていなかったのだけれどもね」
「私にですか?」
「もちろん。ソフィアみたいな女性を今まで探していたよ」
「嬉しい言葉ですわね」
なぜだかウィルは今までの男性とは何かが違う気がした。何が違うのかはっきりということはできないけれども。この人なら約束を破らないのではないかと、ソフィアは微かに感じた。
「その結婚、お受けいたします」
『唐突にこのような手紙を送り申し訳ございません。わたくしの無礼をお許しください。単刀直入にお話を申し上げますと、ただいまハンプソン子爵の長女であるソフィア様をお預かりしています。拉致や誘拐ではありません。彼女は彼女の意思で私の屋敷にや滞在しております。ここに記載されている住所におります故、来てくださればいつでも面会していただくことが出来ます。ですがお嬢様がそちらへ自発的に帰宅なさることはないでしょう。彼女は自宅へ帰りたくないと言っているためです。わたくしは人が増えたことでうれしさもありますので、ここに居続けていただければ愉悦でございます。もちろん子爵のお心も十分大切ですので、お嬢様を返してほしいということならば、謝罪をするためにもわたくしもお伺いします』
手紙の封の上に蝋を垂らし、鉄のスタンプをその上に乗せた。蝋が完全に溶けてから、スタンプを取り、使いの者に渡してくるように命じた。今は幸い晴れているために、事故でも起こらない限り、この手紙は通常通り届くだろう。
二階へ降りて日の当たるラウンジへ行ってみると、ソフィアは器用に指を動かして裁縫をしていた。破れて直して言ってメイドに渡していたジャケットをソフィアが直している。
「ウィル様」
糸を切り、針を針刺しに刺した。
「手紙を出したから、今日は穏やかに過ごせると思うよ。でも、手紙を読んですぐに激昂してここまで来られると大変だけどね」
「大丈夫です。両親は私のことを心配したことはありません。私は自立できると両親は思っていますから」
「今まで大変だったね。何か決定的な打開策があれば、それをすぐに行うのだけれども」
椅子を引きソフィアと向かいあって座った。ソフィアはジャケットに付いた糸くずを取っている。そして特に意味なさげにつぶやいた。
「結婚でもできれば一番いいんですけれどもね」
結婚してしまえば屋敷に帰らなくてもいい、メイドとして働かなくてもいい。今までの生活のなにもかもが、やっと意味のあるものとなる。家に帰らない理由の一番となる。
「難しいだろうね」
「はい。私は今、顔が腫れてしまっていますし、誰か知り合いや友人がいるわけでもありません」
表情を曇らせながらも指先は器用に動かして、ジャケットの穴をふさいでいく。
「僕から提案してみてもいいかな」
「はい、なんでしょうか」
ソフィアは顔を上げてみるとウィルは微笑んでいた。
「僕はまだ独身なんだ」
「ウィル様と結婚ですか?」
「話が早いね」
「ご迷惑になります」
元からソフィアはウィルに助けられたというだけで大きな恩を感じていた。その上結婚までするとなるとソフィアは一生かけても返し切れない恩ができる。その恩を返す自信がソフィアにはない。
「それに、私ではいけないと思うのです。ウィル様はウィル様に見合った女性とご結婚なさるべきです」
「僕は君のことを十分に見合っていると思っているよ」
「私は思えません」
その上ウィルにいろいろ言われてもペテン師の口ぶりの様で、違和感があった。
「僕と結婚してしまえば家から逃れることが出来るよ」
「大丈夫です。私は一人でもどうにかなります」
「どうにかなってるなら、もうすでにどうにかなってるさ。君は何年も妹のせいで我慢してきたんだろう?僕はソフィアに変なことしようとしているわけでも、金をよこせとも言っているわけじゃない」
今まで何人も会ってきた中でこれほどに真摯にソフィアと向き合い、助けると言ってくれる男性がいなかったからかもしれない。
「君が嫌ならいいのだけれどもね。これが一番いい方法なんじゃないかって思っただけ」
「私は、その」
「不満を言ってくれたまえよ」
自らの心の中での不安をソフィアはよく理解していた。
「私はミアに奪われることが怖いんです。ミアの虜になってしまった男性はみんな私のことを侮辱し、悪口をたちまち言い始めてしまう。それがとにかく怖いんです」
ソフィアの手は震えていた。今までに何度婚約者を奪われて、その婚約者に見下されてきたものか。
「僕はただ妻がほしいだけなんだ。それも君の妹さんみたいな人は苦手だと言っただろう。穏やかで物静かな君の方が何倍良い事か」
「でも」
「僕は裏切ることはない。はっきりという」
それをソフィアは信じられなかったけれども、ウィルと結婚すればここに居続けることが出来る上に、不自由なく暮らすことが出来る。
「証拠なんかはないけど、でも僕は約束を破ったことが無い」
「そんな嘘おっしゃらなくてよろしいんですよ」
「嘘じゃないさ。僕は今まで馬鹿正直に生きてきたからね」
自信満々に胸を張って宣言するウィルを見てソフィアはおかしくなってしまった。馬鹿おかしく生きてきたのならばこんなに高級そうなものに囲まれて生活できるわけがない。
「でもね。正直なことを言うと、僕は一目ぼれしてしまったかもしれない。こんな現象あると思っていなかったのだけれどもね」
「私にですか?」
「もちろん。ソフィアみたいな女性を今まで探していたよ」
「嬉しい言葉ですわね」
なぜだかウィルは今までの男性とは何かが違う気がした。何が違うのかはっきりということはできないけれども。この人なら約束を破らないのではないかと、ソフィアは微かに感じた。
「その結婚、お受けいたします」
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