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ソフィア

裏切りは死をもって 2

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今思えばとんでもない娘である。しかも陰湿だ。残されたロウディオは呆然としたことだろう。

ソフィアはそれを思い出すと、いたたまれないような、面映ゆくなるような、逃げ出したくなるような心持ちになった。しかし、少女であるならまだしも──王太子の婚約者としては多少教育が必要と思われるが。二十五歳の既婚者がまさか駆けるわけにもいかない。結果、ソフィアは口元に手を当てて少しでもと顔を隠した。

「あれから、僕も日記を書き始めた」

「え……」

ソフィアが泣いて逃げ出した話を掘り返されるとばかり思っていたソフィアは顔を上げた。ソフィアの予想に反してロウディオは、からかいや含むような笑みを見せることはなく、ただ労るような瞳でソフィアを見ている。

「ソフィアに渡したいものがある、って言ったよね」

「え?あ、ああ。そうね。どうかしたの?」

急にまた話題が変わり、それについていけないソフィアは目をぱちぱちさせながらロウディオを見た。彼は手に持った布の包みをそのまま、ソフィアに渡す。ソフィアはその重みと硬さに不思議そうな顔をしていたが、するりと包の紐が緩んだ瞬間、ぎくりと硬直した。
それは、剣だった。短剣だ。
短剣の柄には七色の宝石が上から一列に嵌められていた。本物の宝石だ。しかも純度が高いのか、淡い光に照らされているだけでも美しい煌めきを放っている。ソフィアは鑑定できるほど目が肥えているわけではないが、度々宝石を見る機会があるため、ある程度の価値は分かっていた。
この宝石たちは、どれも滅多に見ないほどの最高品質だ。短剣のようだが、この柄だけでも恐ろしいほどの価値がつくだろう。思わず呆気に取られるソフィアに、ロウディオが短剣を押し付けた。

「受け取って」

「え?だけど」

「お守りだよ。ソフィアの心配を和らげるには何がいいか………。考えた結果、これを渡せば少しはマシになるんじゃないかと思ったんだ」

(この宝石を?短剣を?)

宝石の価値にばかり目がいって、ソフィアは彼の意図が読めない。戸惑うソフィアに、ロウディオが彼女の手を持って短剣を鞘から抜いた。
するりと刀身が現れる。煌めく刃に、ソフィアの赤毛が反射して見えた。

「もし僕がきみ・・を裏切るようなことがあれば、これで僕を葬るんだ」

「なにを………」

喉がカラカラだ。
ソフィアは呆然と呟いた。ロウディオはどうしてか嬉しそうな笑みを浮かべて、彼女の手を抑えて刀身をさやに戻す。ソフィアの手は震えていた。

「言ったでしょう。お守りだよ」

微笑んだロウディオの手元で、七色の宝石が彼女への愛を伝えた。


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