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ロウディオ
エピローグのその前に
しおりを挟む僕がそれを見つけたのは偶然だった。
いや、今思えばそのうち分かるはずであったし、必然と言えば必然なのかもしれない。
その日記は、本を読むためであったり軽い書き物をするために置かれた机の引き出しに入っていた。簡単な細工が施されていたが、完全に隠すつもりならもっと頭を使った隠し場所を考えたことだろう。二重底になっている引き出しの底から無地の本を何冊か取り出した。予め、見つけられることを想定していたのだろう。
──そう、最初はただの本だと思ったんだ。
無地の本は珍しいから、興味を煽られた。
そして、なんとなしにページをたぐって、息を飲む。そこに書かれていた文字は、つい最近僕がひとり作り出した暗号だったからだ。
十三歳。つい最近もソフィアをからかって泣かせたばかりの僕は、気がつくと二十五歳になっていたという。とうてい信じられなかったが、悲しげな顔をしたソフィアや、重々しい重臣たち、眉を下げた両陛下を見れば事態は申告であり、真実なのだとそのずと突きつけられた。何より、寝ても醒めても現実は変わらず、僕は戻れない。つまりそれは、戻る場所がないということだ。
大人になったソフィアは驚くほど綺麗な娘だった。朝焼けのような髪をしっかりと編み上げ、胸元の開いたドレスを身につけた彼女は少女にはない、大人の女性の色香を持っていた。
そんな彼女と話すのはどうにも慣れなくて、見知らぬ女性と話しているかのようだった。
だけど、話しているうちに違和感を持った。
それは、よそよそしく、どこか白けた顔を隠せないソフィアの様子だったり、ぎこちなく僕の名前を呼ぶ彼女に対してだった。
二十五歳の僕と彼女に何かがあったのだと決定的に感じたのは、十三年後の未来のような場所で、ソフィアと庭を歩いている時の事だった。
『勝手に変わってしまったのは……!あなたの方じゃない!!』
ソフィアのそんな声は、初めて聞いた。
『私は何も変わってない!変わったのは……変わってしまったのはあなたよ……!どうして………。聞きたいのは、私のほう……!やり直せる!?馬鹿なこと言わないで。何度私たちが巻き戻っても、結局こうなるんだわ。だってわからないもの。私はあなたが変わってしまった理由を、知らないもの……!』
二十五歳の僕達の関係を尋ねた時、ソフィアは激昂した。そんな彼女を見た事がなかったから、驚いた。そして僕は彼女を深く傷つける何かがあったのだと思った。
だけどその理由を知りたくともソフィアに尋ねても答えは貰えなかった。情報量の少ない中、何か知らないかと教育係に尋ねれば「王室に関わることは存じ上げません」の一点張り。
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