業腹

ごろごろみかん。

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そこまでやります?

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ーーーガバッ

勢いよく私は起き上がった。朝。自室。小鳥の囀る音が聞こえる。扉の外から僅かに人の気配。

ーーー戻った………

もしかしたら、と願ってはいたものの本当に戻れるとは思っていなかった。私は胸を抑えた。バクバク言っている。

「本当に…………戻れたんだわ」

私はそう呟くが、しかし心臓の音はとてもうるさかった。今度は失敗してはならない。行動を誤らないように、慎重にいかなくては。
私は息を整えてベッドから降りた。
サイドテーブルのカレンダーを確認する。12/16。やっぱり一週間前に戻っている。何で戻ったの?どうして、この日なの?
謎は尽きない。だけど時間が無い。私は逸る気持ちを落ち着けて、シェリアのおとずれをまった。


***


まずは内々に動かすのが吉。
いきなり動いても下手に目をつけられるだけだと知った私は夫の部屋に忍び込んだ。夫婦の寝室はほぼ私専用の部屋となっているから、続き部屋からこっそりと入る。体調が悪いからひとりにして欲しいと侍女たちは追い出し、そしてこの時間侍女たちは庭の掃除を始めるはずなので邸内に人は少ない。
夫の部屋を探すには絶好のチャンス。朝食をいただいた私は早速夫の部屋へと入り、そで机から見始めた。だけど基本的に鍵がかかっている。当然だ。鍵開けの職人でもない限りこれを開くのは難しいだろう。そう思いながら私は棚を見た。棚には色とりどりの液体が入った小瓶がある。小瓶には薬の名前がテープで貼られており、私は確かめるようにそれを見た。ほとんどが安眠のための薬だった。そう言えば王太子は最近不眠で悩まされてるんだっけ………。
セレベークと老執事のロイドが話しているのを耳にしたことがある。私は緑色の液体が入った小瓶を持ち上げた。これはかなり使われているようだけど、王太子に献上しているのだろうか?
いやそれなら家にあるのはおかしいわよね。
そう思ってその瓶に貼られた付箋を見る。

「フィネリア」

その言葉には覚えがあった。
思わず強く小瓶を握りしめてそれを見る。
フィネリアの実………それは避妊作用のある毒だ。避妊というよりも流産させる作用があると言った方がいい。それがなんでこんな場所に………。
フィネリアの実の存在を知っていたのは偶然だった。祖国で、少し特殊な環境にあった私だからこそ知っていたのだ。
フィネリアの実は成長しきってしまえばそれは甘い、美味しい果実になる。成長途中で毒は濾過され、相殺されるのだ。だけどまだ青い実の時にすり潰してしまえばそれは立派な劇薬になる。

「………」

これは、成長途中の実?
それともーーー。

なんて答えは、考えなくてもわかった。ふつふつと湧き上がる怒り。

この国では婚姻して二年経過しても子ができなかった場合、機能不全としての離縁が成立する。その場合どちらが問題かは特に重要視されない。なぜなら、その申し出をされた時点で原因があるとされるのは女性側とされるから。
愛人をもつことが許容される男と違い女は恋人を作ればそれは不貞だとそしられる。そのため、子を作る機能が働いているかどうか夫以外で確かめるすべがない。だけど男側は別だ。愛人を許容されている男側は自分の機能不全を確認すために幾人でも女性を抱くことが出来る。

つまり女性は確かめるすべがない。だからこそ、女性が原因だとされがちなのである。
例えそれで男に子が出来なかったとしても可能性はある。
結局のところ男に子ができようができまいが原因は女の方だと暗幕の了解でされがちなのである。
無意識下の認識というか、それが当たり前であるというか。理由はいらない。ただ、この国の人間の認識としてはそれなのである。
私はため息を禁じえなかった。

もしセレベークがそれを承知の上で離縁を申し出ようとしているのならーーー

それは私に責任を押し付けて、私に非を押し付けようとしているのではないか?

本当に子ができない訳ではなく、薬で無理やり子を作らせないようにする。
それなのに非は女性側に押し付けるなんてとんだド屑である。
しかもそれに罪悪感の欠片も抱いていないようなのだからいよいよ人間性を疑う。

それに、夜のときでさえあの傍若無人ぶり。
彼が子を望んでいないのは明白。彼がこれを私に飲ませていたかーーーどうにかして摂取させていたのはほぼ間違いないだろう。そうしてもおかしくない男だ。

私は手が白くなるほどにその緑の小瓶を握った。

「絶対許さない………」

小さく呟いた私は、気を取り直すように息を深く吐いた。やることは沢山ある。こんなことで煩わせられている場合ではない。
私はその小瓶を少量、予備の水差しの中へと入れ替えた。証拠は大切である。握っておかなければ。とはいえこのままにしておいたら液が蒸発してしまう。どこかで小瓶を調達する必要があるわね。
私は太陽が真上に位置しているのを窓から眺めながら、出かける支度をすることにした。



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