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祖国の人質
しおりを挟むウィリアムの一件があってから私はかなり人間不信になっていた。前回は向こう見ずで考え足らずに動いた結果とはいえ、信じていた人間こそが主犯格に近しい人間だと知れば誰しもこうはなると思う。信じられる人は限られている。
私は夫婦の部屋に戻ると、ベルを鳴らした。
しばらくして入ってくるのはシェリアだ。
彼女は祖国からついてきてくれた唯一の侍女。
彼女であれば信じられるーーー。それは目に見えない絆とか、そういうあやふやなものに頼りきっているわけではない。シェリアが私を裏切らないのには、裏切れないのには理由がある。
私はシェリアが入ってきたのを確認すると、ソファに座ったまま彼女に聞いた。
「シェリア、リベロア王国に帰りたい?」
聞くと、シェリアはびくりと肩を跳ねさせた。シェリアは何も言わなかったが、それが何よりの答えだ。
ーーーそうよね。帰りたいわよね。
なぜなら彼女には夫がいる。つい一年前結婚したシェリアだが、私がこちらに嫁ぐにあたり彼とは離れ離れになってしまった。
シェリアに着いてくるよう命令したのは私ではないが、彼女は間違いなく夫を気にしているだろう。それなのに自分の気持ちを隠し、何度となく私を励ましてくれた彼女には感謝している。だけど、信じたい気持ちとは裏腹にもしかしたら彼女も敵なのではないかという不安が胸をよぎる。
だから私は、彼女に持ちかけた。
「あなたをリベロアに戻してあげる。できる限り穏便で、波風立てないやり方で」
シェリアは目を見開いた。言葉を失っている。それはそうだろう。私だって、シェリアの立場になったら何も言えなくなると思う。だけど気丈なシェリアは、ぐ、と唇を噛み締めて重たい声で告げた。
「それは………それは一体、どういうことでしょうか?」
「あなたをリベロア王国に戻してあげるのよ。私は、やりたいことがある。私には目的がある。だから、その目的にあなたも協力して欲しいの」
「それは…………」
「フィリップに会いたくないの?きっと彼も、あなたに会いたがっているわ。だってあなたたち、とても仲良かったじゃないの。………シェリア、私はね。あなたに幸せを返してあげたいのよ。私のせいで失われた幸せを。あなたに、あなたたちに返してあげたい」
私がそう言うと、シェリアは手をぎゅっと握った。きっと彼女は葛藤している。祖国を離れてもなお、人質をとられいつ死んでもおかしくない私の決死の提案に、彼女は悩んでいる。彼女は主人思いの優しい娘だからきっと迷っているのだろう。これにはリスクが伴いすぎている。
私、私はーーー
リベロア王国の王女だった。
第一なのか、第二なのかよく分からない。なぜなら、私たちは双子だったのだから。
生まれた時から共にいる私たちは王宮の奥底にずっと軟禁され、まともに日々を過ごすことすらままならなかった。分かることは彼女が私ととても見目が似ていることと、話し相手は彼女しかいないということ。
双子だと知ったのは随分あとだったけれど、私と彼女はとても仲が良かった。どちらが姉でどちらが妹かと言われると少し困る。
だけどどちらかと言えば昔はよく私の方が泣き、それを彼女が慰めてくれていたからきっと彼女の方が姉なのだろう。
彼女の名前は、セレスティア・リベロア。
リベロア王国に残された、私のための人質だ。
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