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しおりを挟む村娘生活1ヶ月目ーーー。
「お祭りですか?」
肉屋で解体のお手伝いをしている最中、マルシェはリーシャに、村のお祭りの事を話した。
「ああ。毎年この時期になると、自分の家を好きなように飾って、子供達がそれを見に行くんだよ」
人によって規模はそれぞれだが、家の中に落ち葉や木の実等を使って飾り付けしたり、布を染めて垂らしてみたり、絵を飾ったり、凄い人では、家の外装まで拘る人もいる。
「村人同士の繋がりを大切にしようっていう催しでね。見に来てくれた子供達に、最後お菓子をプレゼントするんだ」
「へぇ。とても素敵ですね」
肉の解体作業がまだまだ不慣れな為、血飛沫が飛んでしまい、血塗れに染まった頬を拭きながら、リーシャは賛同した。
「おばちゃーん…って、なんやリーシャはんもおるんか」
「イマル」
狩りから帰って来たイマルが、大きな肉の塊を、テーブルに置いた。
「お、今日は大量やねー」
「まーな」
大物の魔物を仕留めたのか、普段持ってくる物よりも、遥かに大きい。
「あ、イマル。怪我していますよ」
「ん?ああ。まぁ対した事あらへん」
イマルの肩には、魔物に引っ掻かれたような怪我があった。
「気ぃつけよ。幾らあんたが強いからって、油断せんと。1人で狩りに行くのも止めたらえーのに」
基本、狩りは危険なので、1人で行う事は無いのだが、イマルはふらっと1人で狩りに出掛ける事が多い。
「1人のが気楽でえーわ」
「全くあんたは…」
イマルの物言いに呆れるマルシェ。
リーシャは、そっとイマルの肩に手を伸ばすと、優しい光で、傷を癒した。
「治りましたよ」
「リーシャはん……自分の時は甘やかさへんって傷治さんかったくせに、人のは治すんかいな」
自分の体の治癒能力に頑張って貰うと、リーシャは以前、自分の火傷の傷を治さなかった。
「イマルのは私のより充分酷い怪我でしたよ」
何せ、魔物の爪で攻撃されているのだ。
軽い火傷とは訳が違う。
「はぁー凄いな。話には聞いてたけど、ほんまに回復魔法使えんねんな」
初めて目の当たりにした回復の魔法に、驚きの声を上げるマルシェ。
狭い村の中。
リーシャが回復魔法を使える事は、瞬く間に村中に広がった。
「そんなに強い魔法は使えませんけどね」
リーシャが使えるのは、基本的な回復魔法のみ。
「大怪我だったら治せませんので、瀕死は止めて下さいね」
「そら、止めれるんなら止めるわ」
「てか、リーシャちゃんと一緒に行ったらえーやんか。怪我したらすぐ治してくれるし」
冒険でも、僧侶が仲間にいるだけで、生き延びる確率は格段に跳ね上がると言われている程、安全。
「ご一緒してもいいんですか?」
「俺は何も言ってへんで」
前のめりに聞いてくるリーシャを、イマルは即、止めた。
「そうです、か…」
目に見えて落ち込む姿は、耳を垂らした兎のよう。
「はぁ…。何でこんな頑固になっちゃったんだろうね」
「やかましいわ!別に、毎回あかんわけやない。たまになら一緒に行ってもええで。リーシャはんも肉欲しい時とかならな」
「!はい、嬉しいです」
イマルの返答に、ニコニコ笑顔で喜びを表現する。
「はぁ…。あんたもこんくらい素直で可愛げがあったらええのに」
「やかましいわ!」
喜怒哀楽を素直に表現するリーシャを見た後に、視線をイマルに移すと、マルシェは深いため息を吐いた。
「てかリーシャはん、あんた、お金取ってないらしいな」
リーシャにお茶に誘われたイマルは、肉屋を出た後、リーシャの家でお茶を頂いていた。
「お金?」
「治療。回復魔法や」
リーシャが回復魔法を使えると分かり、怪我を治して欲しい村人達が、一時期、リーシャの元に詰め掛けた。
「はい。頂いておりません」
「なんでや。貰ったらよろしいやん」
治療して貰った村人達は喜んで、対価となるお金を渡そうとしたが、それをリーシャが拒んだと聞いた。
「怪我を治すのにお金なんて頂けません」
「ーーなんやよー知らんけど、他の僧侶は、お金もろたりしてるんちゃうの?」
1度も村に僧侶が来た事は無いが、別の村の話では、随分高額な値段を吹っ掛けられたと聞いた事がある。
「なら、私はこの村の住人なので、住人の方々は無料です」
「めっちゃ手厚い医療サービスやな」
他所では高額な回復魔法がタダで恩恵を受けれるのだから、手厚過ぎる程だ。
「村の方々には、こちらに来てから、本当にお世話になっていますもの。こんな事で恩返しが出来るのでしたら、安いものです」
お城からここに、ほぼ、身一つで引っ越して来た私に、村の人達は、本当に優しく接してくれた。
ここで暮らせる事に、この村の一員として受け入れてくれた事に、言葉では言い表せないくらい、とても感謝している。
応援ありがとうございます!
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