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次期社長と紡ぐ未来のために
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「翔真、わしがそんなことするはずないだろ。さて、梨音ちゃんの件は無事に解決したし、着替えて作業でもするかな」
しげさんはスーツの上着に手をかけた。
「お父さん、いい加減作業服を着てウロウロするのは止めてもらえませんか?社内で会長に会っても挨拶もせず素通りしろなんて幹部社員に仰るから困惑しているという話を耳にしているんです」
「それは無理な相談だ。わしはこの格好が気に入っているからな。それに、社員の素の様子が見れるのも面白い。これからも今まで通り変わらないぞ」
「会長!」
社長の呼ぶ声にしげさんは素知らぬ顔をして会長室へ入って行った。
「全く、あの二人も相変わらずだな。梨音ちゃん、行こうか」
立花さんはため息をつき、私の手を引く。
「失礼しました」
私は頭を下げて秘書室を出た。
エレベーターホールにつき、ボタンを押そうとしたら立花さんに止められた。
「あのさ、梨音ちゃんの手料理が久々に食べたいんだけどいい?」
「はい、もちろんです」
不安げに聞いてくるので笑顔で即答した。
私の手料理を食べたいと思ってくれるのは嬉しい限りだ。
「よかった。高柳から社食で手作り弁当を食べていないだけで、彼女と別れただの喧嘩しているだの言われてたんだよ」
立花さんは不服そうな表情を浮かべ、ため息をついた。
「あ、そうだったんですね……」
先週、偶然聞こえてきた会話の内容だ。
きっと私が聞いていたなんて立花さんは思っていないんだろう。
「最近はずっとコンビニ弁当や外食ばかりだったんだ。梨音ちゃんと付き合う前まではそれが当たり前だったんだけどね。だから、梨音ちゃんの手料理が食べれることがどれだけありがたかったのか身に染みたよ」
「それは大げさです」
「大げさじゃないよ。梨音ちゃんとの些細なメッセージのやり取りもなくなり、心にぽっかりと穴があいたみたいだった。俺にとって梨音ちゃんと過ごした日々が何よりも大切なものになっていたんだ」
真摯な瞳を向けられ、胸がギュッと締め付けられた。
立花さんも私と同じ気持ちだったことに驚きを隠せない。
「私もです。別れを切り出したあと、立花さんと一緒に過ごした時間がどれだけ大切でかけがえのないものだったのか気づきました。私から言い出したくせに……」
そう言って唇を噛む。
立花さんと別れてからは何もやる気が起きなくて、全てが色褪せていた。
「俺が不甲斐ないばかりに傷付けて、泣かせてごめん」
「謝らないでください。私だって立花さんに酷いことを言いました」
「それは親父が余計なことを言ったからだよ。梨音ちゃんが気に病むことはない」
(あれ?)
数分前にも同じようなやり取りをしたのに、また繰り返してる。
思わず吹き出してしまった。
「さっきお互い様って言ってましたよね」
「そうだったな」
私が笑顔で言えば、立花さんは愛おしげに目を細めた。
しげさんはスーツの上着に手をかけた。
「お父さん、いい加減作業服を着てウロウロするのは止めてもらえませんか?社内で会長に会っても挨拶もせず素通りしろなんて幹部社員に仰るから困惑しているという話を耳にしているんです」
「それは無理な相談だ。わしはこの格好が気に入っているからな。それに、社員の素の様子が見れるのも面白い。これからも今まで通り変わらないぞ」
「会長!」
社長の呼ぶ声にしげさんは素知らぬ顔をして会長室へ入って行った。
「全く、あの二人も相変わらずだな。梨音ちゃん、行こうか」
立花さんはため息をつき、私の手を引く。
「失礼しました」
私は頭を下げて秘書室を出た。
エレベーターホールにつき、ボタンを押そうとしたら立花さんに止められた。
「あのさ、梨音ちゃんの手料理が久々に食べたいんだけどいい?」
「はい、もちろんです」
不安げに聞いてくるので笑顔で即答した。
私の手料理を食べたいと思ってくれるのは嬉しい限りだ。
「よかった。高柳から社食で手作り弁当を食べていないだけで、彼女と別れただの喧嘩しているだの言われてたんだよ」
立花さんは不服そうな表情を浮かべ、ため息をついた。
「あ、そうだったんですね……」
先週、偶然聞こえてきた会話の内容だ。
きっと私が聞いていたなんて立花さんは思っていないんだろう。
「最近はずっとコンビニ弁当や外食ばかりだったんだ。梨音ちゃんと付き合う前まではそれが当たり前だったんだけどね。だから、梨音ちゃんの手料理が食べれることがどれだけありがたかったのか身に染みたよ」
「それは大げさです」
「大げさじゃないよ。梨音ちゃんとの些細なメッセージのやり取りもなくなり、心にぽっかりと穴があいたみたいだった。俺にとって梨音ちゃんと過ごした日々が何よりも大切なものになっていたんだ」
真摯な瞳を向けられ、胸がギュッと締め付けられた。
立花さんも私と同じ気持ちだったことに驚きを隠せない。
「私もです。別れを切り出したあと、立花さんと一緒に過ごした時間がどれだけ大切でかけがえのないものだったのか気づきました。私から言い出したくせに……」
そう言って唇を噛む。
立花さんと別れてからは何もやる気が起きなくて、全てが色褪せていた。
「俺が不甲斐ないばかりに傷付けて、泣かせてごめん」
「謝らないでください。私だって立花さんに酷いことを言いました」
「それは親父が余計なことを言ったからだよ。梨音ちゃんが気に病むことはない」
(あれ?)
数分前にも同じようなやり取りをしたのに、また繰り返してる。
思わず吹き出してしまった。
「さっきお互い様って言ってましたよね」
「そうだったな」
私が笑顔で言えば、立花さんは愛おしげに目を細めた。
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