次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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次期社長と紡ぐ未来のために

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「梨音ちゃんの笑顔が見れた」

立花さんは「ちょっと充電させて」と言って私の腕を引き寄せ、抱きしめてきた。

久々に感じる立花さんの体温に愛しさがこみ上げ、広い背中に腕を回した。
そして、私は甘えるように逞しい胸に頬を擦り寄せた。

「だから、あまり可愛いことしないでよ」

その声に顔を上げると、困ったように笑う立花さんと目が合う。

「ホント、ここが会社じゃなかったらよかったのに」

そんなことを言いながらも私の額にキスを落とす。
会社じゃなかったらいったい何をする気だったんだろう。

「今日の夜は覚悟しといてね」

ゾクリとするほど艶のある声で言われ、私の唇を親指でなぞる。
今日の夜って……!
立花さんの言わんとすることを理解し、頬を赤らめた。

「さて、定時まで頑張ろうか」

さっきまでの色気はどこへやら、気持ちを切り替えたように爽やかな笑顔でエレベーターのボタンを押す。
私はまだドキドキしてるのに立花さんに翻弄されっぱなしだ。

ポーンと音が鳴りエレベーターが着き、二人で乗り込む。

すっかり仕事モードの顔に戻った立花さんをチラリと見上げる。
やっぱりカッコいいなと見惚れていたら、先に営業部のある階にエレベーターが止まった。
(そうだ、今日は晩ご飯を立花さんと一緒に食べるならリクエストを聞いておかないと)

「立花さん、晩ご飯のメニューは何がいいか考えておいてくださいね」
「了解、また連絡する。じゃあ、仕事頑張って」

微笑みながら私の頭を優しく撫で、立花さんはエレベーターを降りていく。
その背中を見つめていたら扉が閉まった。

立花さんからどんな晩ご飯のリクエストがくるんだろう。
冷蔵庫の中にはそれなりに食材はあるけど、リクエスト次第では買い物に行かないといけないから早めに連絡は欲しいなぁ。
(あっ、部屋は片付けてたよね……?)

久々に一緒に過ごせることが嬉しくていろいろなことを考えてしまう。
あっという間に三階に着き、エレベーターを降りて歩き出した足取りはいつもより軽やかだ。

今思えば、あの別れは二人で歩んでいく上での最初の試練だったのかもしれない。
いろんな人に助けられながらも、それを乗り越えた私たちの未来は明るいはずだ。

偽装恋愛から始まった私と立花さんの関係は本物の恋愛へと形を変えた。
最初、恋のリハビリと言って偽装恋愛を提案された時はこんなにも立花さんのことを好きになるなんて思わなかった。
大きな愛で私を優しく包み込み、甘えさせてくれる立花さん。
私の中に芽生えたこの愛しい気持ちを彼に伝えていけたらいいなと思う。

まずは立花さんも気にしていた名前呼びを頑張ってみようかな。

大好きです、翔真さん……。
脳内シミュレーションで一人赤面してしまったのは言うまでもない。




end.


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