次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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花火と芽吹く想い

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「クリームついてるよ」
「えっ」

この年で顔にクリームをつけるとか最悪だ。
手で左頬を拭っていたら「そっちじゃない」と立花さんの手が伸びてきて右側の口の端を拭われた。
立花さんはクリームのついた親指を自分の口許へ運び、そのままペロリと舐めた。
な、何、今の……。
恥ずかしさで顔を赤らめてる私とは対照的に立花さんは平然としている。
いろいろと免疫がないので、ひとつひとつに過剰に反応してしまう。
立花さんも歯に青のりとかつけてくれてたらいいのに!と意味不明の対抗意識を燃やしていたら、ドーンと花火の大きな音が聞こえて空を見上げた。

「花火、ここからはよく見えないな」
「そうですね」

二人で顔を見合わせて苦笑いする。

「移動したら見えると思うけど、どうする?」

またあの人混みの中に戻るのか。
花火は見れないけど、この静かな空間でゆっくりした方がいいなと思ってしまった。
立花さんはどう思ってるんだろう。
戻りたいならそれに従うだけだ。

「私はどちらでもいいです。立花さんは?」
「んー、俺もどっちでもいいかな。このまま花火の音を聞きながらゆっくりするのもいいかもね。花火はまた見れるし」

よかった、立花さんも私と同じ考えだ。

「そうですね。それにしても暑いですね」

花火大会の会場でもらったうちわでパタパタと扇ぐ。
花火も終盤になってきたのか、連続で一斉に花火が打ち上がっている音が聞こえた。
あぁ、もう花火も終わりかとしんみりする。

「実は今日、誕生日なんだよね」

立花さんは前を向きながらポツリと呟く。
えっ、誕生日?
ギョッとして隣に座っている立花さんを見た。

「そうだったんですか?だったら、もっと早く言ってくださいよ」

思わず本音が漏れた。
そういえば、最初にご飯を食べに行った時に来月が誕生日だと言ってた気がする。
今日が誕生日だと知っていたら、高いものは無理だけど何かプレゼントを用意したのに。
ご飯だって屋台の焼きそばとかじゃなく、どこかに食べに行ってもよかったし、食べたい物をリクエストしてくれたら作れたかもしれない。
あれこれいろんなことを考えてしまう。

「いや、この日が誕生日だとか照れくさくて言えないだろ」

ポリポリと頬をかく。
そんな姿を見て可愛いな、なんて思ってしまった。
せっかくの誕生日、何かお祝いしてあげたいという気持ちがムクムクとわいてきた。

「何か欲しいものはありますか?あ、ケーキも買った方がいいですよね。ってケーキ屋はもう閉まってるか……」
「特に何もいらないよ。こうして河野さんと一緒に花火を見れたから」
「花火は全然見れてませんよね。私がはぐれちゃったから。今からでも見れる場所に移動しますか?」

私が立ち上がろうとしたら、腕を掴まれ引き止められる。
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