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花火と芽吹く想い
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「移動しなくていいよ」
「でも……」
「河野さんがどうしても移動したいっていうならするけど」
意地悪くフッと口角を上げる。
その言い方はズルい。
私はおとなしくその場に座り直し、ずっと気になっていたことを口に出した。
「あの、私なんかと一緒にいていいんですか?」
「どういうこと?」
立花さんは怪訝な表情で聞いてくる。
誕生日は自分の特別な人と過ごしたいと思うものなんじゃないのかな。
このデートだって恋のリハビリの一環だと思うけど、偽装彼女の私と一緒にいてもいいのか不安だった。
「誕生日なのに、好きな人を誘わなくてよかったのかなと思って……」
自分が言った言葉なのに、なぜか胸がチクリと痛んで尻すぼみに声が小さくなった。
「あぁ、そういうことか」
立花さんは納得したように呟いた。
「俺は君と一緒に過ごしたかったから、花火を見に行かないかって誘ったんだ。他の誰でもない、河野さんと」
真っ直ぐに私を見つめながら言葉を紡ぐ。
私はカァと頬が熱くなり、心臓が早鐘を打つ。
「あ、あの……」
言葉がでない。
そんな風に言われたら勘違いしてしまう。
「迷惑だった?」
「い、いえ、そんなことはないです」
私はふるふると左右に首を振った。
迷惑な訳がない。
むしろ、好きな人より私と一緒にいることを選んでくれたことが不謹慎だけど嬉しかった。
ちょっと待って。
今、どうして私は嬉しかったと思ったの?
自分自身の感情に戸惑っていたら、立花さんが「そういえば」と話題を変えた。
「化粧品会社で働いている友達から口紅のサンプルをもらったんだ」
そう言ってバッグから取り出した口紅は『リュシュレ』という化粧品会社のパッケージの物だった。
(あっ、ここって舞が働いている会社だ)
立花さんの友達も、舞と同じ会社で働いているなんてすごい偶然だ。
「はい、河野さんにあげる」
「いいんですか?」
『リュシュレ』の化粧品は洗練された大人の女性向けのブランドで私も憧れている。
いいお値段がするので、自分のご褒美に買ったりしている。
「あぁ、俺が持っていても仕方ないだろ。というか、友達に河野さんの話をしたらくれたんだ」
「私の話をですか?ちなみに、どんな話をしたのか聞いてもいいですか?」
「うーん、それは内緒で」
悪戯っ子のように笑い、人差し指を口許にもっていく。
すごく気になるけど、内緒と言われたのでこれ以上は聞けない。
「ありがとうございます」
私は口紅を受け取り、バッグの中にしまった。
それより立花さんの誕生日なのに、私の方がプレゼントをもらってしまった。
今は何も用意できてないから、ひとまずお祝いの言葉だけでも伝えよう。
プレゼントはまた後日用意すればいいよね。
「改めて、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
「また、誕生日を祝わせてもらってもいいですか?」
嬉しそうに目を細めて頷き、柔らかな笑みを浮かべた立花さんを見た瞬間、胸が高鳴った。
この気持ちは何?
私の中に眠っていた小さなある想いが静かに芽吹ぶこうとしていた。
「でも……」
「河野さんがどうしても移動したいっていうならするけど」
意地悪くフッと口角を上げる。
その言い方はズルい。
私はおとなしくその場に座り直し、ずっと気になっていたことを口に出した。
「あの、私なんかと一緒にいていいんですか?」
「どういうこと?」
立花さんは怪訝な表情で聞いてくる。
誕生日は自分の特別な人と過ごしたいと思うものなんじゃないのかな。
このデートだって恋のリハビリの一環だと思うけど、偽装彼女の私と一緒にいてもいいのか不安だった。
「誕生日なのに、好きな人を誘わなくてよかったのかなと思って……」
自分が言った言葉なのに、なぜか胸がチクリと痛んで尻すぼみに声が小さくなった。
「あぁ、そういうことか」
立花さんは納得したように呟いた。
「俺は君と一緒に過ごしたかったから、花火を見に行かないかって誘ったんだ。他の誰でもない、河野さんと」
真っ直ぐに私を見つめながら言葉を紡ぐ。
私はカァと頬が熱くなり、心臓が早鐘を打つ。
「あ、あの……」
言葉がでない。
そんな風に言われたら勘違いしてしまう。
「迷惑だった?」
「い、いえ、そんなことはないです」
私はふるふると左右に首を振った。
迷惑な訳がない。
むしろ、好きな人より私と一緒にいることを選んでくれたことが不謹慎だけど嬉しかった。
ちょっと待って。
今、どうして私は嬉しかったと思ったの?
自分自身の感情に戸惑っていたら、立花さんが「そういえば」と話題を変えた。
「化粧品会社で働いている友達から口紅のサンプルをもらったんだ」
そう言ってバッグから取り出した口紅は『リュシュレ』という化粧品会社のパッケージの物だった。
(あっ、ここって舞が働いている会社だ)
立花さんの友達も、舞と同じ会社で働いているなんてすごい偶然だ。
「はい、河野さんにあげる」
「いいんですか?」
『リュシュレ』の化粧品は洗練された大人の女性向けのブランドで私も憧れている。
いいお値段がするので、自分のご褒美に買ったりしている。
「あぁ、俺が持っていても仕方ないだろ。というか、友達に河野さんの話をしたらくれたんだ」
「私の話をですか?ちなみに、どんな話をしたのか聞いてもいいですか?」
「うーん、それは内緒で」
悪戯っ子のように笑い、人差し指を口許にもっていく。
すごく気になるけど、内緒と言われたのでこれ以上は聞けない。
「ありがとうございます」
私は口紅を受け取り、バッグの中にしまった。
それより立花さんの誕生日なのに、私の方がプレゼントをもらってしまった。
今は何も用意できてないから、ひとまずお祝いの言葉だけでも伝えよう。
プレゼントはまた後日用意すればいいよね。
「改めて、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
「また、誕生日を祝わせてもらってもいいですか?」
嬉しそうに目を細めて頷き、柔らかな笑みを浮かべた立花さんを見た瞬間、胸が高鳴った。
この気持ちは何?
私の中に眠っていた小さなある想いが静かに芽吹ぶこうとしていた。
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