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獣人達の国

167:ガムラの戦い方

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 さて。やってきました闘技大会本戦三日目。
 今日は、一日目と二日目を勝ち残った奴らが戦う日だ。

 今日の二試合目にガムラで、三試合目にウース。で、四試合目に俺が出る事になっている。

「頑張りなよ、ガムラ」
「おう! 今日も勝ってくるぜ!」

 キリーの応援で意気揚々と選手控え室に向かっていくガムラ。

「さて、あたしたちも行こうか」
「ああちょっと待ってくれ」

 そう言って進もうとするキリーを俺は呼び止めた。

「どうかしたかい?」
「今日のガムラの相手ってどんな奴か知ってるか? あいつは勝てると思うか?」
「ん、そうだねぇ。確か槍使いだったと思ったけど、まああいつなら勝てるだろうね。……。それがどうかしたかい?」

 俺たちも今日の試合に出るので、選手控え室にいなければならないのだがガムラと違ってまだ時間がある。どうせ一試合目は知らない奴だし、遅れても構わないだろう。

「なに、ちょっと賭けてみようと思ってな」

 俺は今までこう言う賭け事、競馬とか競艇とかで金をかけた事をしたことがなかった。

 当たったら嬉しいが、外れたら悲しい。なんでわざわざ自分から悲しみにいかなくちゃならないんだ。そんな事やるよりも、出費を抑えて堅実にいたほうがいい。

 それが今までの俺の考えだった。
 いや、今もそれは変わっていないが、せっかく異世界に来て楽しもうと思ったんだ。いままで経験したことがないことだってやってみるべきだろう。
 幸いにも金はまだまだあるし、稼ぐ方法もある。それに、勝てる試合なら賭けておいても損はない。
 もし負けたら、その時はガムラのやつをからかってやればいいだけだ。

「ああ。あんたは知らないみたいだけど、選手は買えないよ」
「は? マジか。なんでだ?」
「不正防止だよ。八百長なんてされたら、大変だからね。……主に観客の怒りが」
「……ああ」

 その光景が目に浮かぶようだよ。

 だが、そうか。

「仕方がない。賭けは諦めるか。……いや待てよ? イリンに賭けさせれば……」
「かしこまりました。ただ今買って参ります」
「待ちな」

 イリンが賭けを取り締まっている場所へ行こうとしたが、それはキリーに止められた。

「選手の関係者も禁止の対象だよ。その辺りは厳しく確認してるはずだからね」
「マジか」
「マジだよ」
「……はぁ。仕方ない本当に諦めるか」

 賭けはまたどこか違う機会があったらにするしかないな。

 ……あれ? イリンて俺の関係者だよな? 俺に賭けてなかったか?
 厳しいって割には買えてないか?

「それはあんたが負けてたからだね。もし勝ってたら、事情を聞かれたうえで配当なしだったと思うよ。最悪、営業妨害として捕まってたかもね」
「マジか」

 さっきから「マジか」しか言ってない気がするが、ほかに言葉がないんだ。

「なんだ、買ったのかい?」

 俺とイリンが同時に頷くと、キリーは溜息をこぼした。

「まあ良かったんじゃないかい。結果としてはあんたは負けたから、特に何かを言われる事もないだろうからね」

 そうか。負けといて正解だったのか。

「ほら。ほかに用がないなら行くよ」



「──あっ。ガムラが出て来たな」

 俺たち三人は、現在俺の選手控え室にいる。イリンは来てもいいのかという疑問はあるかもしれないが、既に王様より伝令が来ていたらしく、イリンはフリーパスだった。

 キリーは自分の部屋に行かなくてもいいのかと思ったが、まだ時間はあるし、折角だから一緒に観ようと提案したらオッケーが出たので一緒に居る。

「あー、あいつやっぱりああいう武器使うのか」

 会場に出てきたガムラが持っている武器は、大きく無骨な剣──バスタードソード。
 俺にはそれを振るうガムラの姿が容易に想像できた。

「ククッ。やっぱり、ねぇ……」

 キリーが含みのある言い方をしているが、何かおかしなところでもあっただろうか?

 その後、すぐに試合が始まったが、イメージ通りの戦いをしている。
 さっきのキリーの笑いはなんだったんだろう?

「キリー。さっきのはなんだったんだ? ガムラはイメージ通りの戦いをしてるんだが……」
「それは言えないねぇ。ほら、マナーがあるだろ?」

 その言い分はガムラが言っていた事と同じだが、キリーはガムラを真似てあえてそう言っているんだろう。

「まあ、言ったところであいつはなんとも言わないだろうけど、どうせならあんたが確認したほうが面白くないかい?」
「ん、そうだな」

 どうせなら楽しいほうがいい。ちょっとしたクイズみたいなものだ。



「勝者ガムラ選手!」

 ガムラが勝ったわけなんだが、結局、なにがおかしいのかわからなかった。
 本人に聞くか? ……それだとなんか負けた感じがするな。

「イリンは何かわかったか?」

 ガムラに聞くのは負けた感じがするが、このままわからないのもなんだかシャクなので、何かヒントでもないかとイリンに聞いてみることにした。
 これは決して負けではない。いいか。負けではないのだ。そもそもなにかの勝負をしているわけでもないんだから、勝ち負けもなにもありはしないんだ。
 大事な事だからもう一回言うぞ! 俺は負けてない!

「はい。恐らくは本来の戦い方ではないのでしょう」
「え?」
「へぇ……」

 何かヒントでもと思って聞いたんだが、イリンの言葉にキリーは感心したようにしているから恐らくは正解なんだろう。けど、どうしてその答えになったのか俺にはさっぱりだ。
 詳しく聞いてみればわかるかな?

「どうしてそう思ったんだ?」
「体の動かし方です。本来、あのように重量のある武器を振るうには腰を落とさなければなりません。ですが、ガムラさんの動きは違いました。重心を落としきらず、いつでも反応できるようにする構え。どちらかと言うと、軽戦士──私と同じように速さで戦うように感じられました」

 聞いてみたけどわからなかった。思い出してみても、そうだったの? って感じだ。

「よくわかったね。あいつはそんな直ぐにわかるような構えはしてなかっただろうに」
「幸いにも、私と同じ戦い方でしたから」

 構えを見ただけでわかるもんなのか。すごいなぁ。
 全く違いなんてわからなかった。

「それより、あんたはそろそろ準備しておきな。今度は負けるわけにはいかないんだろ?」
「っと、そうだな。まあ、最悪でも負ける事はないけどな」

 でも油断はしないようにしておこう。これだけ余裕ぶっておいて負けたらかっこ悪すぎる。
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