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獣人達の国
166:試合の悩み
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「ところで、こっちからも質問なんだけど、例のあいつはここに来なかったのかい?」
例のあいつ? ……ああ。クーデリアのことか。
「来たぞ。あいつ暇だからって散歩してたみたいで、偶然あった」
「散歩? ん~、なんていうか、そんなイメージじゃなかったんだけどねぇ」
「まあそれは俺も同意だ。まさか会うなんて思わなかったし。その後すぐに大会に戻って行ったけどな」
あれ以上長引かなくて良かったよ。ほんと。
「大会? あれの参加は昨日だっただろ?」
「いや、お前の前に参加しててだろ」
なんだ? どうにも話が噛み合ってない気がする。
「……なんだか食い違ってる感じがするね」
「だな。因みに俺が言っているのはクーデリアのことだ」
「ああなるほどね。あのお姫様なら散歩をするってのもわかるね。大方ジッとしてられなかったんだろうね」
うん。その通り。やっぱりあの性格は国民にはバレてるんだな。
「あたしが言ってるのはあんたと揉めてたやつだよ。確か……ウースだったかい? 一回戦は勝ち残ったんだろ?」
「ああそっち。いや見てないな」
そういえば、アイツもいたな。神獣の紹介の件があったからすっかり存在を忘れてた。
でもそうだな。ここは選手なら誰でも入れるんだから、あいつだって来ていてもおかしくはないよな。
「見ていないが、なんでだろうな? ……イ──」
幼馴染のイリンなら何かわかるかと思ったが、アイツに関してイリンに聞くのもどうかと思ったので、顔を向けただけで何も言わなかった。
だが、イリンはそれで俺が何を言いかけたのか察したようだった。
「どこかで戦っているのではないでしょうか?」
「戦う? 試合は昨日だったとはいえ、明日のために休んでおいた方がいいだろうに」
俺は特に疲れていないからアレだけど、他の奴らはそれなりにちゃんとした戦いをしていた筈だ。
俺は一回戦の相手について集中していたので良く見ていなかったが、ウースは休憩が必要ないほどに早く終わったのだろうか?
「多分ですが、じっとしていられなかったのではないでしょうか? もしくは、少しでも強くなる為に修行とでもいっているのだと思います」
「修行って、今更やったところで意味ないだろ?」
「はい。基本的に頭が良くありませんので。その上感情で動くので、理由などないと思われます」
酷い言い草だが、イリンの意見には同意する。アイツがよく考えてないのは、絡まれている俺にはよくわかる。
だがしかし、そうか、あいつがいたか……。どうするかなぁ。
真面目に戦おうと思っているが、それは次の相手だけだ。
次の相手は、俺のことを認めてもらわないといけないので一回戦とは違い、収納魔術も収納スキルも使わずに戦うつもりだが、そのあとは優勝さえすれば別に構わないと思っている。
なので、一応優勝するつもりだから途中にいるあいつは戦う事になるんだけど、真面目に戦う必要はないのだ。
だが、一回戦と同じように一瞬で終わらせればまた絡んでくるだろう。それは今までの経験からわかる。
……しかたがない。真面目に戦うか。もしかしたら手を抜いて戦った事で例のやつ、……名前忘れたけど、神獣を祀ってる一族のやつに嫌われるかもしれないし。
一回戦で使った技を使わないとなると、そのせいで手を抜いているって言われそうだけど、使用に制限があるとでも言っておけばなんとかなるだろう。
というか、今更だけど、俺の技って試合に向いていないんだよ。
基本的に敵を殺すための技だから、使うとなると相手が死ぬ可能性がある。
収納魔術の『匣』を筆頭に、<収納>で敵の足元を百メートルほどしまったり、そしてそのしまった地面を元の位置に戻して押しつぶしたり。
収納魔術で殴りかかっても、敵が生身じゃなかったら意味がない。鎧を着ている相手を殴ったら、今度は収納魔術に入った部分と入らなかった部分で物質の結合が区切られ、拳型の穴が開く。
王国から脱出時の悪魔戦で、何故か生き物判定されなかった悪魔の体をしまうことができたのと同じ現象だ。収納魔術の中に入りきらなかったものは、魔術を解除したときに切断される。
で、鎧を貫通して生身に触れることができれば渦で相手を弾くことができるんだが、それだと試合にならない。
こっちの攻撃は防御貫通。相手からの攻撃は完全防御+生物反射。
正直それを戦いと呼べるのか疑問である。
試合でそんなことをされても、認められないだろう。
それに、対戦相手に死なれたらそもそも俺が大会に出た意味がなくなるので、それは避けないといけない。
だから真面目に戦わなければならないのだが、最悪、本当にピンチになったら使おう。
問題があったとしても、その時は流れでどうにかするしかないだろう。
その後も適当に話しながら試合を観戦していたが、特にめぼしい試合はなかった。どうせならあの王女を倒せるような奴がいて欲しかったんだけどな。そうしたらそっちに絡みに行ってくれそうだし。
そうなると試合は大変そうだが、あの王女の相手をするよりはマシだろう。まあ、そんな人物はいなかったわけだが。
「はぁ。明日は王女様かい。今日とは比べ物にならないだろうねぇ」
……はっ! そうか、明日はキリーが王女と戦うんだった! もしかしたらキリーなら勝てるんじゃないだろうか?
「キリー明日は頑張ってくれ」
「いきなりなんだい? まぁ、できるだけはやるつもりだけどね」
このまま順当にいけば、明日は……例のあの人で、次の日がウース。その次がガムラで最後はあの王女様。
なんでこんなに面倒な試合が続いてんの? いやガムラとの試合は必要だったからあっても構わないし、ウースは俺に当たるまで勝ち残るか分からないし、クーデリアの試合はグラティースが仕組んだんだろうけど。
元々大会なんか参加する気のなかった俺にとっては面倒でしかない。
「はぁ……。とりあえずこれ以上何かがある前に帰るか」
例のあいつ? ……ああ。クーデリアのことか。
「来たぞ。あいつ暇だからって散歩してたみたいで、偶然あった」
「散歩? ん~、なんていうか、そんなイメージじゃなかったんだけどねぇ」
「まあそれは俺も同意だ。まさか会うなんて思わなかったし。その後すぐに大会に戻って行ったけどな」
あれ以上長引かなくて良かったよ。ほんと。
「大会? あれの参加は昨日だっただろ?」
「いや、お前の前に参加しててだろ」
なんだ? どうにも話が噛み合ってない気がする。
「……なんだか食い違ってる感じがするね」
「だな。因みに俺が言っているのはクーデリアのことだ」
「ああなるほどね。あのお姫様なら散歩をするってのもわかるね。大方ジッとしてられなかったんだろうね」
うん。その通り。やっぱりあの性格は国民にはバレてるんだな。
「あたしが言ってるのはあんたと揉めてたやつだよ。確か……ウースだったかい? 一回戦は勝ち残ったんだろ?」
「ああそっち。いや見てないな」
そういえば、アイツもいたな。神獣の紹介の件があったからすっかり存在を忘れてた。
でもそうだな。ここは選手なら誰でも入れるんだから、あいつだって来ていてもおかしくはないよな。
「見ていないが、なんでだろうな? ……イ──」
幼馴染のイリンなら何かわかるかと思ったが、アイツに関してイリンに聞くのもどうかと思ったので、顔を向けただけで何も言わなかった。
だが、イリンはそれで俺が何を言いかけたのか察したようだった。
「どこかで戦っているのではないでしょうか?」
「戦う? 試合は昨日だったとはいえ、明日のために休んでおいた方がいいだろうに」
俺は特に疲れていないからアレだけど、他の奴らはそれなりにちゃんとした戦いをしていた筈だ。
俺は一回戦の相手について集中していたので良く見ていなかったが、ウースは休憩が必要ないほどに早く終わったのだろうか?
「多分ですが、じっとしていられなかったのではないでしょうか? もしくは、少しでも強くなる為に修行とでもいっているのだと思います」
「修行って、今更やったところで意味ないだろ?」
「はい。基本的に頭が良くありませんので。その上感情で動くので、理由などないと思われます」
酷い言い草だが、イリンの意見には同意する。アイツがよく考えてないのは、絡まれている俺にはよくわかる。
だがしかし、そうか、あいつがいたか……。どうするかなぁ。
真面目に戦おうと思っているが、それは次の相手だけだ。
次の相手は、俺のことを認めてもらわないといけないので一回戦とは違い、収納魔術も収納スキルも使わずに戦うつもりだが、そのあとは優勝さえすれば別に構わないと思っている。
なので、一応優勝するつもりだから途中にいるあいつは戦う事になるんだけど、真面目に戦う必要はないのだ。
だが、一回戦と同じように一瞬で終わらせればまた絡んでくるだろう。それは今までの経験からわかる。
……しかたがない。真面目に戦うか。もしかしたら手を抜いて戦った事で例のやつ、……名前忘れたけど、神獣を祀ってる一族のやつに嫌われるかもしれないし。
一回戦で使った技を使わないとなると、そのせいで手を抜いているって言われそうだけど、使用に制限があるとでも言っておけばなんとかなるだろう。
というか、今更だけど、俺の技って試合に向いていないんだよ。
基本的に敵を殺すための技だから、使うとなると相手が死ぬ可能性がある。
収納魔術の『匣』を筆頭に、<収納>で敵の足元を百メートルほどしまったり、そしてそのしまった地面を元の位置に戻して押しつぶしたり。
収納魔術で殴りかかっても、敵が生身じゃなかったら意味がない。鎧を着ている相手を殴ったら、今度は収納魔術に入った部分と入らなかった部分で物質の結合が区切られ、拳型の穴が開く。
王国から脱出時の悪魔戦で、何故か生き物判定されなかった悪魔の体をしまうことができたのと同じ現象だ。収納魔術の中に入りきらなかったものは、魔術を解除したときに切断される。
で、鎧を貫通して生身に触れることができれば渦で相手を弾くことができるんだが、それだと試合にならない。
こっちの攻撃は防御貫通。相手からの攻撃は完全防御+生物反射。
正直それを戦いと呼べるのか疑問である。
試合でそんなことをされても、認められないだろう。
それに、対戦相手に死なれたらそもそも俺が大会に出た意味がなくなるので、それは避けないといけない。
だから真面目に戦わなければならないのだが、最悪、本当にピンチになったら使おう。
問題があったとしても、その時は流れでどうにかするしかないだろう。
その後も適当に話しながら試合を観戦していたが、特にめぼしい試合はなかった。どうせならあの王女を倒せるような奴がいて欲しかったんだけどな。そうしたらそっちに絡みに行ってくれそうだし。
そうなると試合は大変そうだが、あの王女の相手をするよりはマシだろう。まあ、そんな人物はいなかったわけだが。
「はぁ。明日は王女様かい。今日とは比べ物にならないだろうねぇ」
……はっ! そうか、明日はキリーが王女と戦うんだった! もしかしたらキリーなら勝てるんじゃないだろうか?
「キリー明日は頑張ってくれ」
「いきなりなんだい? まぁ、できるだけはやるつもりだけどね」
このまま順当にいけば、明日は……例のあの人で、次の日がウース。その次がガムラで最後はあの王女様。
なんでこんなに面倒な試合が続いてんの? いやガムラとの試合は必要だったからあっても構わないし、ウースは俺に当たるまで勝ち残るか分からないし、クーデリアの試合はグラティースが仕組んだんだろうけど。
元々大会なんか参加する気のなかった俺にとっては面倒でしかない。
「はぁ……。とりあえずこれ以上何かがある前に帰るか」
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