98 / 499
獣人達の国
165:キリーの魔術
しおりを挟む
「おう、キリー。おめでとう!」
キリーの試合が終わった後にそのまま観戦室で待っていると、ガチャリとドアが開き、キリーが入ってきた。
ガムラはそんなキリーに即座に反応して声をかけたが、他にも人がいるんだからもう少し静かにした方がよくないか?
まあ、そんな事は意識から無くなっている。それどころか、元々意識なんてしていなかったんだろう。
「お疲れ。それとおめでとう」
「おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
キリーが俺たちの側にあった椅子に座ると、すぐにイリンが飲み物を渡し、キリーはそれに礼を言って受け取った。
「ふぅ。にしても、久しぶりにまともに戦うと疲れるねぇ」
イリンから渡された飲み物を飲んで一息つくと、キリーがそうこぼしたが、久しぶりとはどういうことだろうか?
「久しぶり? 魔物を狩りに行ったりしてるんだろ?」
この間だって素材集めにガムラと出かけた事があった筈だ。
「まあね。でもそういう時は最初から獲物が決まってるからね。それに合わせて罠を張ったりすれば良いからそこまで疲れたりしないんだよ」
「ああ、なるほど。まあそうか。発見した魔物を全部狩る必要なんてないよな」
対処法が確立されているのなら、罠でもなんでも使っていったほうがいいのは同意だ。
薬を使って環境を利用して罠に嵌めて、そうして使えるものはなんでも使って出来るだけ楽に倒せたほうがいいと思うのは普通だろう。
これが修行とかならまた違ったんだろうけど、キリーの目的は素材採取だからそれでいいんだろう。
「そうか? 普通は見つけ次第狩るだろ?」
だが、ここにはその普通に当てはまらない者がいた。|脳筋(ガムラ)だ。
「あんたと一緒にしないでおくれよ。あんたのは普通じゃないよ」
「一部ではそれが普通かも知れないが、それ以外では普通じゃないな」
キリーと俺の言葉に驚愕しているガムラ。
だが、ガムラはまともに罠を張ることを知らないのか?
いや、村にはそういう防備を固めているって聞いたし、正面から突っ込んでいくのは自身から戦いに赴く時だけなんだろう。
というか、それで今までやってこれた事に驚きだ。
どんな相手でも正々堂々正面から戦う。
そんな事がやってこれたのは、ひとえにそれができるだけの強さがあるからだろう。
「……ああそうだ。そのバカは置いておいて聞きたいことがあったんだ」
そうして話していると、なんとなく思い出したのでさっきの試合で疑問に思ったことを聞いてみる事にした。
「ん? なんだい?」
「答えたくなければ良いんだけど、さっきの試合で相手が体勢を崩しただろ? あれって何したんだ?」
さっきの試合。キリーは相手の懐に潜り込んだが、その前に相手が体勢を崩したように見えた。あれが偶然とは考えにくいので、何をしていたのか気になったのだ。
「ああ、あれかい? あれはあたしの生来魔術だよ。これがそうさ」
そう言ったキリーの手からは細い糸のようなものが現れた。
「……糸?」
「そうさ。あたしは自身の体から自由に糸を出せるんだよ」
「触っても良いか?」
キリーが頷いたので、手を伸ばす。
触って見ると、グニグニとゴムのように伸縮性がある。
「ん? なんだ? 離れない?」
そして、離そうとしたら手が離れなかった。ガムのようにくっついたまま伸び縮みするのではなく、どちらかというと、接着剤のようなくっつき方だ。
「そっ。そいつには粘着性があるんだよ。よく伸びて、よくくっつく。なかなか便利だよ」
自由に出す事ができる粘着性の伸び縮みする物体。なるほど。蜘蛛の糸か。
……まあ実際は単なる糸じゃなくてその強化版なんだろう。お尻からしか出せないとかじゃなくて良かった。生来魔術以外使えない者だっているんだから、キリーだってそうなのかも知れない。それでそんなのが生来魔術だったら嫌すぎる。
「つまり、腕を振るった時に糸を射出して相手の動きを阻害した、って事で良いのか?」
「そうだけど、良くわかったね。これを見せても、そんなすぐに気づかれたことなんてなかったんだけどね」
「まあな」
漫画やアニメの知識はとても役に立ってくれている。
日本の二次元文化は、この世界では参考書の代わりになるので感謝している。マジで。
でも、魔術のある世界の住人よりも魔術の使い方詳しいって、よく考えると日本て異常だよな?
まあいい。日本の変態性は前からわかっていた事だ。
「でも良いのか? そういうのって本来秘密にしておくものじゃないのか?」
「あれは別に秘密でもなんでもないからね。今までだって大会で使ってんだ。その気になったらいくらでも調べられるさ」
だからといってここには他に選手もいるんだし、そう堂々と言うようなことでもないと思うんだけど。調べてればわかるっていっても、調べていないやつはわからないんだから。自分から能力をバラす必要もないだろうに。
まあ、ガムラと違ってキリーがそんなことをかんがえていないはずがないから、何かあるんだろう。
「でもそんなのガムラだって知ってただろ? 聞けばよかったじゃないか」
「ああ、一回聞いたんだけど、マナーだからって言ってな」
「今更そんなの気にしないのにねぇ。まっ、ありがとね」
「おう」
キリーが笑いながら感謝を口にすると、ガムラは短くそれだけ返した。
キリーの試合が終わった後にそのまま観戦室で待っていると、ガチャリとドアが開き、キリーが入ってきた。
ガムラはそんなキリーに即座に反応して声をかけたが、他にも人がいるんだからもう少し静かにした方がよくないか?
まあ、そんな事は意識から無くなっている。それどころか、元々意識なんてしていなかったんだろう。
「お疲れ。それとおめでとう」
「おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
キリーが俺たちの側にあった椅子に座ると、すぐにイリンが飲み物を渡し、キリーはそれに礼を言って受け取った。
「ふぅ。にしても、久しぶりにまともに戦うと疲れるねぇ」
イリンから渡された飲み物を飲んで一息つくと、キリーがそうこぼしたが、久しぶりとはどういうことだろうか?
「久しぶり? 魔物を狩りに行ったりしてるんだろ?」
この間だって素材集めにガムラと出かけた事があった筈だ。
「まあね。でもそういう時は最初から獲物が決まってるからね。それに合わせて罠を張ったりすれば良いからそこまで疲れたりしないんだよ」
「ああ、なるほど。まあそうか。発見した魔物を全部狩る必要なんてないよな」
対処法が確立されているのなら、罠でもなんでも使っていったほうがいいのは同意だ。
薬を使って環境を利用して罠に嵌めて、そうして使えるものはなんでも使って出来るだけ楽に倒せたほうがいいと思うのは普通だろう。
これが修行とかならまた違ったんだろうけど、キリーの目的は素材採取だからそれでいいんだろう。
「そうか? 普通は見つけ次第狩るだろ?」
だが、ここにはその普通に当てはまらない者がいた。|脳筋(ガムラ)だ。
「あんたと一緒にしないでおくれよ。あんたのは普通じゃないよ」
「一部ではそれが普通かも知れないが、それ以外では普通じゃないな」
キリーと俺の言葉に驚愕しているガムラ。
だが、ガムラはまともに罠を張ることを知らないのか?
いや、村にはそういう防備を固めているって聞いたし、正面から突っ込んでいくのは自身から戦いに赴く時だけなんだろう。
というか、それで今までやってこれた事に驚きだ。
どんな相手でも正々堂々正面から戦う。
そんな事がやってこれたのは、ひとえにそれができるだけの強さがあるからだろう。
「……ああそうだ。そのバカは置いておいて聞きたいことがあったんだ」
そうして話していると、なんとなく思い出したのでさっきの試合で疑問に思ったことを聞いてみる事にした。
「ん? なんだい?」
「答えたくなければ良いんだけど、さっきの試合で相手が体勢を崩しただろ? あれって何したんだ?」
さっきの試合。キリーは相手の懐に潜り込んだが、その前に相手が体勢を崩したように見えた。あれが偶然とは考えにくいので、何をしていたのか気になったのだ。
「ああ、あれかい? あれはあたしの生来魔術だよ。これがそうさ」
そう言ったキリーの手からは細い糸のようなものが現れた。
「……糸?」
「そうさ。あたしは自身の体から自由に糸を出せるんだよ」
「触っても良いか?」
キリーが頷いたので、手を伸ばす。
触って見ると、グニグニとゴムのように伸縮性がある。
「ん? なんだ? 離れない?」
そして、離そうとしたら手が離れなかった。ガムのようにくっついたまま伸び縮みするのではなく、どちらかというと、接着剤のようなくっつき方だ。
「そっ。そいつには粘着性があるんだよ。よく伸びて、よくくっつく。なかなか便利だよ」
自由に出す事ができる粘着性の伸び縮みする物体。なるほど。蜘蛛の糸か。
……まあ実際は単なる糸じゃなくてその強化版なんだろう。お尻からしか出せないとかじゃなくて良かった。生来魔術以外使えない者だっているんだから、キリーだってそうなのかも知れない。それでそんなのが生来魔術だったら嫌すぎる。
「つまり、腕を振るった時に糸を射出して相手の動きを阻害した、って事で良いのか?」
「そうだけど、良くわかったね。これを見せても、そんなすぐに気づかれたことなんてなかったんだけどね」
「まあな」
漫画やアニメの知識はとても役に立ってくれている。
日本の二次元文化は、この世界では参考書の代わりになるので感謝している。マジで。
でも、魔術のある世界の住人よりも魔術の使い方詳しいって、よく考えると日本て異常だよな?
まあいい。日本の変態性は前からわかっていた事だ。
「でも良いのか? そういうのって本来秘密にしておくものじゃないのか?」
「あれは別に秘密でもなんでもないからね。今までだって大会で使ってんだ。その気になったらいくらでも調べられるさ」
だからといってここには他に選手もいるんだし、そう堂々と言うようなことでもないと思うんだけど。調べてればわかるっていっても、調べていないやつはわからないんだから。自分から能力をバラす必要もないだろうに。
まあ、ガムラと違ってキリーがそんなことをかんがえていないはずがないから、何かあるんだろう。
「でもそんなのガムラだって知ってただろ? 聞けばよかったじゃないか」
「ああ、一回聞いたんだけど、マナーだからって言ってな」
「今更そんなの気にしないのにねぇ。まっ、ありがとね」
「おう」
キリーが笑いながら感謝を口にすると、ガムラは短くそれだけ返した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4,051
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。