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獣人達の国
168:神獣を祀る一族・コーキス
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「さあ、皆さんお待ちかね! 本日第四試合が幕を開けようとしています!」
会場には魔術具によって司会の声が響き渡っていた。
第四試合。つまりは俺の試合だ。
今俺の目の前にいる男は、例の人物──あらため、神獣を祀る一族のコーキス。俺の目的の人物だ。
ん? ガムラの後にあったはずの試合が抜けてるって?
まあ、あれだ。気にする必要はない。ウースの試合だったけど、特に言うことはないかな。
強いて言うんなら、ウースが勝ったって事ぐらいだな。
確かにウースは強いよ? 強いけど、それはあの年齢にしては、ってだけ。
ここに集まったのは各地から集まった強者達だ。そんな強者達の中で勝ち残れるのは素直にすごいと思うけど、それだけだ。苦戦して粘って、なんとかギリギリで勝ちを拾ったに過ぎない。特に奥の手を隠していた様子もないし、俺が全力で戦えば障害にはなり得ない程度でしかない。
まあ、あれだけボロボロになりながらも勝ったのは凄いと思うけどな。
「……グラティース国王から話は聞いている。我々の里に来たいそうだな」
そう言って声をかけてきたのは目の前にいるコーキス。
その声によって、俺は意識を目の前の試合相手に集中させる。
「ええ。どうしても治したい者がいるんです」
「……はっきり言って、私は貴様の事が気に食わない。戦いの場に自分から出ておきながらわざと負けを選ぶなど、戦士を馬鹿にしているとしか思えない」
これは予選の時の事を言っているんだろう。
確かにあれは、戦いに矜持を持っている者からしたら不愉快なものかもしれない。
「国王から言われても、その願いを聞き入れる気はなかった」
その言葉に顔をしかめざるを得ない。なにせ、こいつに気に入られなければ俺の願いは叶わないのだから。
「本戦前に呼びだされ、一回戦の結果を見てから判断しろとは言われたが、期待などしていなかった。私が考えを変える何かがあるだろうなどとは」
コーキスはそこで言葉を止めると、持っていた二本の剣を構えた。
「……だが、気が変わった。貴様が一回戦で見せた怒りは本物だった。仲間のため、友のために怒ることの出来る者だった。ならば、試す資格はある」
目の前の男から放たれる力強いオーラ。それだけでこいつが俺よりも強いことがわかる。
「来い。貴様が勝てたのであれば、我らが神の元へ案内してやろう」
その言葉に対する答えとして、俺は持っていた剣と盾を構える。
「では、なんとしても勝たなくてはなりませんね。……絶対に、案内してもらいますよ」
「本日第四試合が始まりました!」
その合図とともに動き出したのはコーキス。
グッと力を込めたかと思うと、弾かれたように近寄ってきた。
「ハアアッ!」
勢いの乗った振り下ろしが放たれるが、俺は余裕をもってそれをかわす。
だが、コーキスの攻撃はそれで終わりではない。振り下ろした右手の剣とは逆の、左手の剣を振り払う。
俺はそれをバックステップで避けるが、またもコーキスからの追撃がきた。
今度は盾で弾き、できた隙に剣を叩き込むが、たやすく避けられてしまった。
だが、それは始めから予想通りだ。仕方がない。
だって、向こうは多分何年も修行してきたんだろう。何度も武器を振るい、魔物とも戦い、そうして身に付けた強さだ。
それに対して俺は、強化された身体能力と、スキルや魔術によってほとんど危険らしい危険もなくここまできた。
比べるまでもなく地力が違う。
その後は同じような展開だ。コーキスが剣を振ると俺が避けて、時には盾で弾き、またコーキスが剣を振るう。それの繰り返しだった。
そんな攻防が幾度か続いた後、俺が剣を振るうと、コーキスはそれを大袈裟にさがって避けた。
どうした? さっきまでならここで攻撃が来たはずなんだが……。
「……どういうことだ。なぜ貴様は本気を出さん。なぜ先日見せた技を使わぬのだ」
先日見せたっていうと、収納魔術での反射か。
「あれを使われれば、容易く負けるつもりはないが、それでも難しいものがあっただろう。貴様は勝ちにきたのではないのか?」
コーキスは武器を構えたまま語りかけてきたが、その声はどことなく不機嫌そうだ。
だが、こっちにも考えがあるのだ。
「確かに、アレをやれば勝てるかもしれないけど、それで貴方は認めてくれるのですか? 俺は里に連れて行ってもいいと、本当に思えるのですか?」
「……」
「もし先日のと同じ方法で勝ったとしても、里には連れて行ってもらえるのかも知れませんが、その先の協力はしてもらえないでしょう? 俺はなんとしても神獣に会わなくてはならないんです」
俺は神獣にあって、イリンの失った尻尾を治さなくちゃならない。
……いや。『治さなくちゃならない』んじゃない。『治したい』んだ。
だが、その為にはこの男の協力は必要だ。里に行くにしても、里に行ってからにしても、協力があるかないかで成功率はからり違うだろう。
だから、俺はコーキスに俺のことをを認めさせるために剣を構える。
「その為に、俺は自身の実力で貴方に認めさせます」
無言。観客の話し声すらも聞こえない。
しばらく後にコーキスは瞑目し、そうかと思えば、とたんに構えを解いてしまった。
「……くっ。……くくっ。ああ。いいな。いい。実にいい」
そしてコーキスが唐突に笑い、誰に言うでもない呟きを漏らす。それはまるで思いもよらない幸運に出会ったかのような呟きだった。
「失礼した。貴殿の思い、しかと受け取った。どうやら私の目が節穴だったようだ」
今までの俺を見定めるような目ではなく、真剣な目。
どうやら、俺はやっと自身の敵としてコーキスに認められたようだ。
つまりは、これからが本番ということだ。
会場には魔術具によって司会の声が響き渡っていた。
第四試合。つまりは俺の試合だ。
今俺の目の前にいる男は、例の人物──あらため、神獣を祀る一族のコーキス。俺の目的の人物だ。
ん? ガムラの後にあったはずの試合が抜けてるって?
まあ、あれだ。気にする必要はない。ウースの試合だったけど、特に言うことはないかな。
強いて言うんなら、ウースが勝ったって事ぐらいだな。
確かにウースは強いよ? 強いけど、それはあの年齢にしては、ってだけ。
ここに集まったのは各地から集まった強者達だ。そんな強者達の中で勝ち残れるのは素直にすごいと思うけど、それだけだ。苦戦して粘って、なんとかギリギリで勝ちを拾ったに過ぎない。特に奥の手を隠していた様子もないし、俺が全力で戦えば障害にはなり得ない程度でしかない。
まあ、あれだけボロボロになりながらも勝ったのは凄いと思うけどな。
「……グラティース国王から話は聞いている。我々の里に来たいそうだな」
そう言って声をかけてきたのは目の前にいるコーキス。
その声によって、俺は意識を目の前の試合相手に集中させる。
「ええ。どうしても治したい者がいるんです」
「……はっきり言って、私は貴様の事が気に食わない。戦いの場に自分から出ておきながらわざと負けを選ぶなど、戦士を馬鹿にしているとしか思えない」
これは予選の時の事を言っているんだろう。
確かにあれは、戦いに矜持を持っている者からしたら不愉快なものかもしれない。
「国王から言われても、その願いを聞き入れる気はなかった」
その言葉に顔をしかめざるを得ない。なにせ、こいつに気に入られなければ俺の願いは叶わないのだから。
「本戦前に呼びだされ、一回戦の結果を見てから判断しろとは言われたが、期待などしていなかった。私が考えを変える何かがあるだろうなどとは」
コーキスはそこで言葉を止めると、持っていた二本の剣を構えた。
「……だが、気が変わった。貴様が一回戦で見せた怒りは本物だった。仲間のため、友のために怒ることの出来る者だった。ならば、試す資格はある」
目の前の男から放たれる力強いオーラ。それだけでこいつが俺よりも強いことがわかる。
「来い。貴様が勝てたのであれば、我らが神の元へ案内してやろう」
その言葉に対する答えとして、俺は持っていた剣と盾を構える。
「では、なんとしても勝たなくてはなりませんね。……絶対に、案内してもらいますよ」
「本日第四試合が始まりました!」
その合図とともに動き出したのはコーキス。
グッと力を込めたかと思うと、弾かれたように近寄ってきた。
「ハアアッ!」
勢いの乗った振り下ろしが放たれるが、俺は余裕をもってそれをかわす。
だが、コーキスの攻撃はそれで終わりではない。振り下ろした右手の剣とは逆の、左手の剣を振り払う。
俺はそれをバックステップで避けるが、またもコーキスからの追撃がきた。
今度は盾で弾き、できた隙に剣を叩き込むが、たやすく避けられてしまった。
だが、それは始めから予想通りだ。仕方がない。
だって、向こうは多分何年も修行してきたんだろう。何度も武器を振るい、魔物とも戦い、そうして身に付けた強さだ。
それに対して俺は、強化された身体能力と、スキルや魔術によってほとんど危険らしい危険もなくここまできた。
比べるまでもなく地力が違う。
その後は同じような展開だ。コーキスが剣を振ると俺が避けて、時には盾で弾き、またコーキスが剣を振るう。それの繰り返しだった。
そんな攻防が幾度か続いた後、俺が剣を振るうと、コーキスはそれを大袈裟にさがって避けた。
どうした? さっきまでならここで攻撃が来たはずなんだが……。
「……どういうことだ。なぜ貴様は本気を出さん。なぜ先日見せた技を使わぬのだ」
先日見せたっていうと、収納魔術での反射か。
「あれを使われれば、容易く負けるつもりはないが、それでも難しいものがあっただろう。貴様は勝ちにきたのではないのか?」
コーキスは武器を構えたまま語りかけてきたが、その声はどことなく不機嫌そうだ。
だが、こっちにも考えがあるのだ。
「確かに、アレをやれば勝てるかもしれないけど、それで貴方は認めてくれるのですか? 俺は里に連れて行ってもいいと、本当に思えるのですか?」
「……」
「もし先日のと同じ方法で勝ったとしても、里には連れて行ってもらえるのかも知れませんが、その先の協力はしてもらえないでしょう? 俺はなんとしても神獣に会わなくてはならないんです」
俺は神獣にあって、イリンの失った尻尾を治さなくちゃならない。
……いや。『治さなくちゃならない』んじゃない。『治したい』んだ。
だが、その為にはこの男の協力は必要だ。里に行くにしても、里に行ってからにしても、協力があるかないかで成功率はからり違うだろう。
だから、俺はコーキスに俺のことをを認めさせるために剣を構える。
「その為に、俺は自身の実力で貴方に認めさせます」
無言。観客の話し声すらも聞こえない。
しばらく後にコーキスは瞑目し、そうかと思えば、とたんに構えを解いてしまった。
「……くっ。……くくっ。ああ。いいな。いい。実にいい」
そしてコーキスが唐突に笑い、誰に言うでもない呟きを漏らす。それはまるで思いもよらない幸運に出会ったかのような呟きだった。
「失礼した。貴殿の思い、しかと受け取った。どうやら私の目が節穴だったようだ」
今までの俺を見定めるような目ではなく、真剣な目。
どうやら、俺はやっと自身の敵としてコーキスに認められたようだ。
つまりは、これからが本番ということだ。
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